第10話 千島列島沖海戦
西暦1944年2月、アメリカ海軍はアリューシャン列島のダッチハーバーに集結していた太平洋艦隊を動員し、北海道に対して襲撃を敢行する『バレンタイン作戦』を敢行。海兵隊1個師団を動員した千島列島占領作戦によって、日本を南北から挟撃しつつ、ソ連を自動的に戦争に引き込もうという、なんともバカげた作戦であった。
とはいえ、そのために投じる戦力は非常に強力であった。竣工したてのエセックス級空母2隻に加え、サウスダコタ級戦艦2隻にアイオワ級戦艦2隻、そして巡洋艦6隻に駆逐艦16隻で構成される機動部隊を率いるのは、小笠原諸島で戦死したキンメルの仇に燃えるハルゼー大将であり、南方でも空母を中心とした戦力をスプルーアンス中将が率いる事で、連合艦隊主力を南方に引き付ける事に成功していた。
だが、日本軍も全くの無警戒で襲撃を迎えた訳ではない。まず海軍航空隊は陸上攻撃機を中心とした対艦攻撃部隊を集中配置し、海軍も機動力に優れた艦艇を優先的に配備。第五艦隊を中核とする水上機動艦隊が、アメリカ海軍の襲撃部隊を待ち構えたのである。
その戦力は吾妻型大型巡洋艦2隻に隼鷹型軽空母2隻、巡洋艦4隻に駆逐艦12隻と、水上艦だけ見れば圧倒的に劣勢であった。だが、規模が小さい分艦隊は身軽であり、艦隊戦では手始めに基地航空隊の空襲で敵駆逐艦と対空火器を削り落としてから、出来る限り接近した上で雷撃。到達後に再び突入して砲撃戦に持ち込むという、模範的な漸減戦術で挑む事となった。
千島列島に迂闊に近付いた米艦隊は、早速基地航空隊の空襲を浴びる事となった。〈銀河〉陸上攻撃機の急降下爆撃と雷撃は、輪形陣の外縁を成す駆逐艦を撃破せしめ、爆装して現れた〈屠龍〉双発戦闘機の機銃掃射と爆撃もそこそこの被害を生み出していく。空母艦載機は、大多数が地上爆撃のために出たところを第五艦隊に狙われ、2隻の軽空母より出撃した戦闘機部隊に足止めされていた。
「突撃するのは今ぞ。距離2万にまで接近したら雷撃を開始。真正面から張り合おうとするなよ」
三川軍一中将の指揮下、艦隊は距離2万メートルまで迫り、そして魚雷発射。76本の61サンチ酸素魚雷が米艦隊に迫ったのである。如何に命中率が低かろうが、この時の米艦隊はちょっかいを仕掛けてこようとした敵艦隊を踏み潰すのに必死になっていたために、日本艦隊の流した魚雷に気付くのが致命的に遅れたのである。
最初に酸素魚雷の餌食となったのは、戦艦「サウスダコタ」であった。艦首に直撃を食らった「サウスダコタ」は、文字通り頭をかち割られる様に艦首を粉砕され、その衝撃で速度が落ちる。そこに陸攻の第二波が襲い掛かり、側面に3本もの航空魚雷を叩き込まれた。
陸攻が去った後に、第五艦隊が突入。榴弾を中心に砲撃を開始し、上部構造物へ被害を与えていく。無論離脱の際に魚雷を投射して駄目押しを計るのも忘れない。この嫌がらせにも等しい攻撃は、確実に米艦隊に被害をもたらしていた。
とはいえ一方的な戦いだったわけでもない。「吾妻」の同型艦である「蔵王」は、「アイオワ」の放った16インチ砲弾の直撃を食らい、後部砲塔が大破。機関にも損傷が及び、速力が落ちる。それでも「蔵王」が発射した魚雷は「ニュージャージー」の艦首に致命的な損害を与え、ただではやられぬ証明を果たした。
斯くして、『千島列島沖海戦』と呼ばれる事になる戦闘にて、米艦隊は巡洋艦1隻、駆逐艦5隻喪失、戦艦2隻大破という損害を出し、択捉島に上陸した海兵隊も陸軍航空隊の爆撃や、現地陸軍部隊の反撃を食らって壊滅。千島列島占領は失敗する。
だが、これに危機感を抱いた連合艦隊は、早期決着をつけるためにハワイ強襲作戦を決定。艦隊決戦に臨む事となる。
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