第8話 合衆国造船所大騒乱
1942年9月5日 アメリカ合衆国ワシントンDC
この日、ホワイトハウスでは一つの重大な、しかし海軍や造船所にとって非常に迷惑な命令が下されていた。
「エセックス級空母の建造数を減らし、戦艦8隻と大型巡洋艦8隻を追加建造せよ」
東アジアを強欲な帝国主義の支配から解放すると大義名分を掲げて行った対日宣戦布告と、それに伴う太平洋艦隊の全力出撃は、3か月前の小笠原諸島沖海戦とハシラジマの虐殺で躓いていた。戦艦10隻と空母2隻が洋上から消え去り、主要な海上戦力を失った衝撃は、ルーズベルト大統領の思考能力を著しく低下させており、海軍整備計画に大幅な見直しを求める結果となった。
「忌々しいイエローモンキー共の戦艦を粉々に出来る戦艦を量産したまえ!」
この時点でアメリカ海軍は大西洋艦隊や西海岸に配属されていた6隻に加え、サウスダコタ級戦艦4隻が竣工しており、アイオワ級戦艦6隻も建造中であった。そこに新たに新型戦艦8隻を追加建造しろと命令が下されたのであるが、ハシラジマ沖で16インチ砲戦艦を鉄屑に変えた新型戦艦は18インチ砲を採用している可能性が高く、そんな化け物に張り合える戦艦など短時間で建造できる筈もなかった。
続いて空母であるが、開戦時には正規空母6隻と軽空母2隻が竣工しており、日本侵攻にて「レキシントン」と「チャージャー」を喪失。日本海軍の空母とその艦載機の性能は驚異的であり、これに対抗するためにエセックス級空母24隻が発注されたのだが、それが半分の12隻にまで減らされ、その分を戦艦及び大型巡洋艦の建造枠に回す事となった。
これには海軍上層部が懸念を示したが、決断を下した張本人たるルーズベルトは、
「戦艦の対空砲を強化すればよい」
の一言で戦艦の量産を押し進め、空母の増産にノーを突きつけたのである。
とはいえ思考能力ゼロでただ戦艦を造るだけというのも問題である。そのため新型戦艦の船体を流用した空母の設計を極秘裏で進めるとともに、大統領に対して一つの提案を進めた。
「これからの我が海軍にはハイブリッド戦艦が必要となります。戦艦の打撃力と空母の索敵能力を併せ持った、新型戦艦です」
それは1938年に、ギブス・アンド・コックス社がソ連に提案した戦艦設計図の一つ、航空戦艦設計案をベースとしたものであり、全長300メートル、基準排水量6万トン、16インチ三連装砲2基、艦載機数36機というスペックは、軍事戦略に対してまともな思考回路が焼き切れていたルーズベルトからすれば、「ぼくのかんがえたさいきょうのぐんかん」の様に見えた。
「素晴らしい!ではこれよりも大きな戦艦…否、海上要塞を造り給え!」
「…嘘だろおい」
航空母艦を量産する口実として提案したものに対する注文に、ノックス海軍長官は内心で天を仰いだという。
斯くして、アメリカ海軍は一年かけて巨大なドックを東西両海岸に建設し、10万トン級海上要塞なる常軌を逸した巨大戦艦の建造に着手する事となった。そうしてアメリカ海軍が上層部の暴走に巻き込まれる中、日本は現実的な戦略計画を進めていた。
紀伊水道沖海戦での第一艦隊の輝かしき戦果と、フィリピン方面での吾妻型大型巡洋艦の活躍は、航空主兵派に危機感を抱かせたものの、小笠原諸島沖海戦での活躍も記憶に新しく、大和型戦艦2隻の設計変更による防空戦艦への改装と、重巡洋艦の船体をベースとした防空巡洋艦の建造、そして雲龍型航空母艦の拡大発展型の建造開始といった内容は、アメリカ海軍に比して現実的な強化であった。
だがこの強化は、ソ連海軍にとって好ましい事ではなかった。この時には太平洋艦隊は装甲巡洋艦「ウラジオストク」「ナホトカ」を主軸に、巡洋艦3隻、駆逐艦12隻、潜水艦12隻を有するものとなっていたが、上層部はより優秀な艦艇の建造を配備に臨む事となったのである。
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