第14話(絵あり)番外編・ある日の、トリペイジの集まりにて

近日ノート★84★、★85★、★86★に挿し絵があります。


今日は久しぶりに、僕とジュノー、ヴィヴの

休みが重なったので、

トリイタグスユニヴェルサラエスペイジ、

略して、トリペイジの活動日になった。

こっそりした活動なので、サンクの図書室の

端の方で、なおかつ、人通りが少なそうな

場所を探して、浮いている机とクッションを

移動させて、3人で座った。

「ねぇ、さっそくだけど、議題があるわ」

ヴィヴが言った。

「議題?」

「思いだしたの」

「何を?」

「知っている? 『ヴェノンタエポヒ・クエク・カード』またの名を、『来る時代の手札』という物や言葉を」

「もちろん、知っているよ。都市伝説好きには、マストアイテムだよ」

ジュノーが、嬉しそうに言った。

「それ……たぶん、あれだよね? 弟に、カードの写真が載っている本を見せてもらったことがあるよ」

「さすが、トリペイジのメンバーね。ヴェノンタエポヒ・クエク・カードを知っているなんて。説明が省けて、助かるわ」

ヴィヴが満足げな表情をした。

「それで、そのカードがどうしたの?」

ジュノーが聞くと、

「これは、未来を予言しているカードと言われていたでしょう? 都市伝説だったから、真偽は分からないけど」

ヴィヴが言った。

「そうだね。本物のカードが見てみたいと思って、通販とかお店で探したけど、見つからなかった。何枚か本に載っていた写真を見たことがあるけど、不思議なカードだよね」

「どんな絵柄を見たことがある? 私は、何度かあった、パンデミックについての絵柄と宇宙空間にあるホテル、オリンピックとかかな」

「僕も、同じやつを見たよ」

「同じ本を見たのね。クレイは?」

「僕も同じだと思う」

僕達は、同じ本を見ていたようだ。

「歴史は繰り返す、と言うじゃない?」

「うん、ことわざ的な?」

「同じような出来事が起こるのか分からないし、同じことが起きてはいけないこともあったわよね」

「うん」

「だから、実際にあった出来事を書いたカードと、私達が思い描いている理想の世界のことを、描いたカードの2種類のカードを作るのはどうかな? おもしろそうじゃない?」

ヴィヴが、ニヤリとした。

「うん。すごく、おもしろそう」

「トリペイジ的、『ヴェノンタエポヒ・クエク・カード』かぁ。すごくいいアイデアだね」

「よかった、賛同してもらえて。ところで……絵を描くことに、自信がある人はいる?」

ヴィヴが、僕とジュノーの顔を交互に見た。

「……」

僕とジュノーは、顔を見合わせた。

「ど、どうかな……」

「それなりには、描けるけど……単純な絵しか……無理かな」

僕とジュノーは、苦笑いをした。

「そう……困ったわね。私も絵は、あれなのよ。いいアイデアがあっても、形にできないなんて……」

ヴィヴが、悲しそうな表情をした。

「どうしよう……」

「下手でも、いいんじゃない? 何となく意味が伝わる絵が描ければ」

僕が言うと、

「そ、そうだね。意味が伝わればいいよね。万が一、意味不明でも、都市伝説感が出るかも」

ジュノーが、ニコッとした。

「まぁ、そうね。一度、描いてみましょうか? 一番、いい感じにできた人の絵を採用しましょう」

僕達は、ネオオに、同じテーマで絵を

書き始めた。

「これ、本当に同じテーマ?」

「うん、そうだよね?」

「どうして、こんなにも表現に差がでるの?」

「都市伝説が好きで、絵が上手い人を探して、仲間になってもらう?」

「それが、手っ取り早いけど、人が増えると、秘密が漏れない?」


僕達が、話し合っていると、

「うわぁ、この絵……何?」

「え?」

突然、背後から声がしたので、驚いた。

振り返ると、そこには、頭を下に向けて宙に

浮いているリルがいた。

「驚かさないでよ。秘密の活動をしているのに」

ヴィヴが、最後の方だけ、小さな声で

言った。

「僕、絵が上手いよ」

リルが言った。

「もしかして、私達のやりとりを見ていたの?」

「そこの、ソンゴ・トランスドニにつかまっていた」

リルが、しっぽでさした。

「僕達を盗聴していたの? 悪趣味だよ」

「失礼だね。耳がいいから、ここにいなくても聞こえるよ」

リルが、あっかんべーをした。

「そ、そう……分かった。ところで、絵が上手いって本当?」

ヴィヴが言うと、

「もちろん。僕のプログラムは、完璧だから」

得意気にリルが言った。

「どうする?」

「リルを仲間にするの?」

「でも、リルの顔とか姿って、あの本を持っているやつ以外、違いが分からなくない?

仲間だと思って話しかけたら、違うリルで、情報漏洩しちゃうかも 」

「確かに……その可能性は否定できないね。でも、きっと、AIロボットだから、絵は上手だと思う」

「どうしようか?」

僕達がいちを、コソコソ相談をしていると、

「ねぇ、勘違いしていない?」

リルが、机のうえに降りてきた。

「な、何を?」

「AIロボットにだって、『個性』は、ありますけど?」

少し、不機嫌そうにリルが言った。

「そうなの?」

「同じ型枠とかで、大量生産しているんじゃないの?」

僕が聞くと、

「ロボットハラスメントだね」

リルが、にらんできた。

「ロボットハラスメント? 何それ」

「ロボットを侮辱している、ということだよ。地球人にありがちな考え方」

「それを言うなら、私達は、常日頃からリル達に、『地球人ハラスメント』を受けているわよ。バカにするじゃない、『地球人はどうしてすぐに、楽をしようとするの?』とかなんとか言って」

ヴィヴが言うと、

「確かに」

目からウロコだった、くらいの驚いた表情を

リルがした。

「え? すごく、おもしろい。AIロボットに、『気づき』をあげたわけ? 今」

なんだかおもしろくなった、地球人3人と、

AIロボット1体は、お互いの顔を

見合わせて、笑った。


「あなたとなら、気が合いそう。よかったら、仲間にならない?」

ヴィヴが言うと、

「いいよ。おもしろそうだから」

リルが、ニコッとした。

「秘密は、守れる?」

「もちろん」

「どうやって、仲間のリルだって、見分ければいい? 個性って、どんな部分? 性格とか? 合言葉を作る?」

ジュノーが言うと、

「僕は、『No.リル』という名称の他に、型番があるし、しっぽのリボンの色を変えることもできる」

リルが言った。

「そうなの!?」

「リボンは部品で、くっついていると思っていたけど、とりはずしができるの?」

「そうだよ。ぽぽぽはいつも、気に入っているからと、天王星と月をつけているけど、たまに他の飾りをつけている」

「ぽぽぽ? それが、型番なの?」

「違うよ。型番は、『AN―1687・1883』だよ」

「ちょっと待って。数字が多すぎて、もう忘れた。あはは」

僕とヴィヴは、顔を見合わせて、笑った。

「数字に意味はあるの?」

ジュノーが聞くと、

「さぁね」

リルが言った。

「この数字、見覚えがある……」

ジュノーが、悩みだした。

「どこで見たの?」

僕が聞くと、「……そうだ、あれだ。1687は、ニュートンが、『プリンキピア』を発表した年で、1883は、数字のパズル、『ハノイの塔』が発売された年だよ」

ジュノーが、嬉しそうに言った。

「ハノイの塔……数学のパズルだよね? 確か」

「うん、そうだよ。とくのにすごく時間がかかるから、人類が滅亡しちゃうってやつ」

ジュノーが言うと、

「私が忘れても、ジュノーが分かるから、型番を覚えられるかの問題は、解決したね。ところで、その型番は、どこに記載されているの?」

ヴィヴが言うと、

「ここだよ」

リルが、くるりとその場で回転して、背中を

向けた。

「え? どこ?」

型番は、リルの名前が記載されている、

その下に、胴体と同じような色合いで

記載されていた。

「こんなところに、数字が記載されていたなんて、気づかなかった」

「見にくい!」

「非常に見えずらい」

「一瞬で見極めたいのに、すごく、近くで見ないと、数字が読み取れないわ」

「地球人って、視力が乏しいね。僕は、数キロ先でも、鮮明に見えるよ」

リルがまた、その場でくるりと回転した。

「まただわ、地球人ハラスメント」

「違うよ。事実を述べただけだよ」

ヴィヴとリルの目に、火花が散っていた。

「リボン、リボンにしよう。リル、他のリルがつけていない色のリボンに変えてもらってもいい?」

僕が言うと、

「いいよ。赤にする」

リルが言った。

「そうだね、目立っていい色だ……いや、目立ちすぎかも」

「じゃぁ、黄色?」

「なんか、僕達にしか分からない感じがいい」

「じゃぁ、これでどう?」

リルは、しっぽでリボンをさわった。

「何が、変わったの?」

「リボンの向き」

「あぁ、確かに。いつもとは、逆さまだ」

「これ、いいね」

「逆さまリボンのリル、秘密結社・トリイタグスユニヴェルサラエスペイジこと、トリペイジへ、ようこそ」

僕達が言うと、

「トリペイジ? 変な名前」

リルが笑った。



秘密結社・トリペイジに、絵を描くのが

上手な地球人ではなくて、

アニマルタイプの浮遊AIロボットのリルが

仲間になった。



○次回の予告○

ディラックさん 前編

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