第2話 (絵あり)覚醒とサンクテーヨ・ディ・スプテラノ 前編
近日ノートに挿し絵があります。
○1○、★22★、★23★です。
3週間がたった頃、
ついに青年が目を覚ます瞬間が訪れた。
それを目撃したエリオットは、
「レイライン! 目が開いたよ!」
嬉しくて、叫んだ。
「レイライン、今どこ?」
エリオットは、興奮気味にイスタに話し
かけた。
「今、検査室だけど、どうしたの? 何事!?」
「目を覚ましたよ! 例の青年が」
「本当!? すぐに行くわ」
「うん! 待っているよ」
通信を終えたエリオットは、
医療室の出入り口へ行き、通路の右側にある
接続通路をソワソワした様子で眺めていた。
まだ数秒しかたっていないのに、
レイラインが来ないことを不安に思った
エリオットは、接続通路に向かって
走り出した。
接続通路を通って、中央塔に着いた時、
「あ! レイラインは、検査室だった」
慌てていたエリオットは、レイラインがいる
場所ではない方向へ行っていたことに
気がつき、急いで引き返して、医療塔にある
検査室へ向かった。
「ここは……どこ?」
僕は、スカイに伝言を残したあと、確か……
意識が遠のいて……そうか、あのまま死んだ
のか。
ここは……天国ではないよね……まぁ、そう
だよね。
ここは、地獄の入り口かな……。
僕は、ゆっくりと起き上がって、
辺りを見渡した。
ふと、自分の腕が目に入った。
誰かが手当てをしてくれた?
絆創膏が何枚も貼ってあって、腕には
チューブがつながっていた。
地獄にも病院があったのか……?
「この続きの検査をお願いしていい? 例の青年が目を覚ましたみたい」
「ついに目が覚めてのね、よかった。ここはいいから、行って」
捜索隊が運んできた人の検査をしていた
ルーンに、自分が担当していた人を頼んで、
レイラインは、検査室を出た。
そこで、レイラインに会いに行こうとして
いたエリオットに会った。
「例の青年が、目を覚ましたよ」
「うん!」
2人で医療室の奥にある個室へ行って、
扉の鍵を開けて、中へ入った。
「気がついたのね」
突然、背後から声がして、
振り向くと、
見知らぬ男の人とキレイな女の人がいて、
その人に、一瞬、見とれてしまった。
「大丈夫? 私達のこと……見えている?」
ぼうっとしていた僕に、女の人が近づいて
来た。
「あ、あの……ここは、どこですか? 病院でしょうか? 地獄の……」
恐る恐る聞くと、
「地獄? 何のこと? ここは、『サンクテーヨ・ディ・スプテラノ』と言う名前で、地下にある都市かな。名前が長いから、みんな『サンク』と呼んでいるよ」
男の人が言った。
「ち、地下にある都市? 何ですか、それ……地獄の名前ですか?」
首をかしげた僕に、
「地獄と言う名前は知らないけど、簡単に言うと、ここは、ヒューマンレベル3以下の人々の避難所だよ」
男の人が、ニコッとした。
「避難所……地獄ではないのか……よかった」
僕がぼそっとつぶやくと、
「何? どうしたの?」
男の人が僕の顔を覗き込んできたので、
少し、驚いた。
「な、何でもない……あの、避難所ということは、ヒューマンレベル4以上の人もいますよね?」
「残念だけど、ヒューマンレベル4以上の人達の避難所とは、まったく別の施設だから、ここには、ヒューマンレベル3以下の人しかいないよ」
「そうですか……」
僕は、スカイがいるのかと思って、
期待したけど、そう言うわけではないことが
分かって、がっかりした。
「知りませんでした。レベル3以下の人にも避難する場所があったなんて」
僕が言うと、
「知らなくて当然、公にはなっていないから。僕は、このサンクでリーダーをしている、エリオット。呼び捨てで構わないのだけど、肩書きが『リーダー』だからかな? みんなには、エリオットさんと呼ばれている」
ニコッとして、エリオットさんが言った。
「私は、医療塔の塔長をしているレイラインよ。気軽にレイラインと呼んでね。では今から、サンクで過ごすために必要な薬を点滴で体に入れるわね」
笑顔で言ったレイラインに、また視線を
奪われた。
「青年、君の名前は?」
エリオットさんが言った。
「ぼ、僕は、クレイ・ウィンスティーです。エリオットさんが、僕をここへ運んできたのですか?」
「クレイ、いい名前だね。これから、よろしくね。運んできたのは、別の人だよ。治療は、レイラインがしてくれた」
エリオットさんが言った。
「そうですか……ありがとうございました」
僕はレイラインを見つつ、
2人に向かって、お礼を言った。
「そうだわ、クレイが眠っている間に、DNA情報と細胞を採取させてもらったの。新しい体、いわゆる『クローン』の培養をしているのだけど、許可なく始めてしまって、ごめんなさい」
レイラインが申し訳なさそうに言ったけど、
何のことを言われているのか、よく分から
なくて、僕は、キョトンとした。
そんな僕を見たレイラインが、
「意味が分からないわよね。でも、だんだんとわかってくるから、大丈夫。今、入れ終わった薬の効果もそのうち分かるわ」
ニコッとした。
その笑顔に、また見とれてしまった。
その時、扉の窓越しに男の人の顔が見えて、
「レイライン!」
その人が叫んだ。
その声に気づいたレイラインが、扉を開けて
外へ出て行った。
閉まりきっていなかった扉の隙間から、
声が聞こえてきた。
「2人運ばれて来て、イスタの瞳は緑色だけど、皮膚が剥がれていて、レベルが分からないから、検査室からNREを持って来てって。リゲルが」
男の人が言った。
「NRE」とは、
なんらかの理由で、皮膚やナノスタンプが
破損して、ヒューマンナンバー制度に
参加している証のナノスタンプが、手首に
埋め込まれているかどうかが確認ができない
場合や、読み込めないナノスタンプを
復元して、ヒューマンレベルを調べることが
できる機器。
イスタの瞳とミスタの瞳が緑色になれば、
基本的には、助けるべき人だから、
サンクに連れてくるけど、
イスタとミスタが、どのような基準で
判断しているのかは、分からないけど、
ひとつだけ、分かっている基準がある。
それは、ヒューマンレベル3以下、という
こと。
でも稀に、ヒューマンレベル3以下ではない
人を助けるべき人と判断してしまう時が
あるので、サンクに入れるのは、
ヒューマンナンバー制度に参加していて、
なおかつヒューマンレベル3以下という
条件があるから、
これを確認するためにも使われている。
「分かった。すぐ行く」
レイラインは男の人に言うと、
扉を開けて、顔だけを出して僕の方を見た。
「具合はよさそうだし、ここは、エリオットに任せていい?」
レイラインが言うと、
「うん。リゲルにも、クレイが起きたよって伝えて」
エリオットさんが言った。
「分かった。クレイ、また後で来るわね」
僕がうなずくと、
レイラインは、男の人と行ってしまった。
「あの……エリオットさん。まだ、色々よく分からなくて……」
「そうだよね。とりあえず、ここの説明をするよ」
「お願いします」
僕は、軽くお辞儀をした。
「ここは、レベル3以下の人々が、協力しながら集団生活を送っている、地下に作られた巨大な施設で、円柱状の塔がそれぞれ通路でつながっている。上から見ると、花びらが8枚ある花のような形に似ているかな」
「なるほど……ここには、何人くらいの人が避難してきているのですか? いつ地上というか、弟が、役所の敷地に設置されている避難所にいるのですが、いつ会えますか?」
僕が聞くと、
「弟さんが避難所にね……残念だけど、地上には、しばらく戻れないから、会うのは難しいと思う」
エリオットさんが、申し訳なさそうに
言った。
「それは、災害が終わらないとというか、今は、危ないから、ということですか?」
「まぁ、そうだけど……他にも色々あって……」
エリオットさんが、言葉を濁した。
「何があるのですか?」
「それは……」
ドンドン。
扉を誰かがたたいた。
「どうしたの? フェルミ」
エリオットさんが扉を開けて、
個室の外へ出た。
「ここでしたか、一緒に来てくれますか?」
フェルミが、エリオットさんに声をかけた。
「どうしたの?」
「また……畑の作物が枯れてしまって。新しく蒔く作物の種を倉庫に取りに行ったら、火災が発生していて……」
「また!? すぐに行くよ。えっと、クレイお腹は空いている?」
「そうですね、そう言われると」
エリオットさんは、近くにいた人に声を
かけて、こちらに来るようにと手招きを
した。
「ストゥート、食事や部屋のことを簡単に説明しといてくれる? 部屋は新月で、勤務はそうだね……リゲルのところにするよ」
ストゥートに言ったあと、
「僕は用事があるから、あとはストゥートに何でも聞いて。クレイ、分かった?」
エリオットさんが、僕の方を見て言った。
「分かりました」
僕はうなずいた。
「自然現象ではないね、何回もあるから。誰がこんな酷いことをしているのか、探すしかないね。スクエアに見張らせよう。ガレットは呼んだ?」
「エリオットさんに報告をしてから、呼びに行こうかと」
「そうか。じゃぁ、僕は、種を調達してくるよ」
「お願いします!」
エリオットさんは、フェルミと一緒に、
話をしながら個室を出ていった。
○次回の予告○
第3話
(挿し絵あり)
覚醒とサンクテーヨ・ディ・スプテラノ後編
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