第1話(絵あり)イスタの瞳が真っ赤になった青年
○近日ノートの★2★、☆27★、★28★、○11○、☆37★、★38★に挿し絵があります。
本文と一緒にご覧ください。
「イスタの瞳が赤色だ……しかも、真っ赤だ……エリオットに知らせないと!」
リゲルは、首にかけていたイスタを手に
取って、話しかけた。
「ハッブル、僕のところに、今すぐに来てくれる?」
「いいよ。運ぶ人が見つかったの?」
「うん、見つかった」
少し離れた場所で捜索活動をしていた
ハッブルがリゲルのところへ、やって来た。
リゲルが、大量のプラスチックのゴミで
できた丘に埋もれていた、ガラスが割れた
ポップンマヨストアのトラックの前に倒れていた青年を見ながら、
「レイラインに直接、引き渡して欲しい」
ハッブルに頼んだ。
「分かった、任せて」
ハッブルは、斜めがけしていた小さな鞄から
ヴィグラを出して、青年に向かって吹いた。
「ヴィグラ」とは、
運搬用の「エアボウル」を出せる機器で、
宇宙空間や天体の中にある、目や計測機器を
使っても、見ることや存在を確認することが
できない物質、「シアーエーテルベント」を
原料に、色々なものを作りだす、
「特定物質圧縮加工装置」の一種。
使い方は、シャボン玉を口で吹く時のような
感覚で、これを運びたい人やものに向かって
吹くと、器機の先端部分にある吹き出し口
からエアボウルが出てきて、人やものが
取り込まれて、完全に中に入ると、
宙に浮く。
手で持たなくても、押さなくても、
吹き出した人の動きに合わせてついて来て
くれるので、軽いものから、すさまじく
重たいものまでなんでも運べるし、
指1本で押して移動させることができる、
便利な機器。
「エアボウル」とは、
ヴィグラを使って、シアーエーテルを原料に
圧縮して球の形に加工したもの。
不要になった時は、エアボウルのどこでも
いいので、親指と人差し指で押し擦ると
跡形もなく消滅する。
「ハッブル、気をつけてね」
「うん。任せて」
ハッブルは、青年を取り込んだエアボウルと
一緒に移動を始めた。
プラスチックのゴミでできた丘、放置された
自転車や自動車、地割れで地面に穴があいて
いて、滑落する危険がある場所、
地震で倒れた電信柱や建物など、天変地異、
真っ只中の悪路をものともせずに、
スケートリンクで滑っているかのように、
スイスイと進んで行った。
なぜなら、ハッブルの両足は、エアボウルで
包まれていたので、浮いていたからだ。
ヴィグラを靴や足のかかとからつま先までが
入るくらいの大きさで、足元に向かって
吹き出すと、エアボウルが靴や足にまとわり
ついて、浮くことができるようになる。
豪雨によってできた川にたどり着いた。
「この方向なら、行けそうだな。ここからは、水の流れを利用して移動しようかな」
ハッブルは、川の中へ入った。
しばらく、
水の流れに身を任せていると、
膝下まで水に浸かって、倒れている女の人を
見つけた。
「ついでだから、調べていくか」
ハッブルが女の人へ近づこうとしたその時、
こちらの方向へ走って来ている様子の人が
いることに気がついた。
「見えてる? そんな訳ない…」
自分の体と、エアボウルの中にいる青年を
見たハッブルが、青い顔をして叫んだ。
「あ、忘れていた!」
ハッブルは、急いで、鞄からレオントを
取り出して、エアボウルの中に手を入れて、
青年の頭にかぶせた。
「レオント」とは、
略称で、正式名称は、「カメレオンハット」
これは、姿を背景と同化させることができる
ので、カメレオンという名前がついている。
外、地上で捜索活動をする時には、
必ず被らないといけないことになっている。
なぜかと言うと、
「救助のための捜索活動」は、
極秘任務なので、捜索しているところも
救助する人を運んでいるところも、
外、地上にいる人に知られてはいけないので
姿を消す必要があるから。
こちらに向かって来ていたのは、
青年だった。
「もしかして……ストゥートさん!? 大丈夫ですか!?」
と言って、青年が女の人の肩をつかんで、
体を揺らした。
ハッブルが、青年の体に触れないように気を
つけながら川から出て、女の人の額に
ミスタをかざすと、ミスタの瞳が緑色に
なった。
「ミスタ」とは、
「ミミミミスター」の略称で、丸みのある
角が6個ある星のような形をしていて、
表側には、人間の目に似た形の、大きな目が
ついていて、稀に、瞬きをする。
瞳の部分は、六角形のラピスラズリで
できていて、これを「ミスタの瞳」と言う。
ミスタの瞳は通常、美しい青色をしている
けど、色が変化する性質があって、
ミスタの瞳を人間の額にかざすと、
助けるべき人の場合は、瞳が緑色に、
助けるべきではない人の場合は、
瞳は真っ黒になる。
裏側には、
一見、なにもなく見えるけど、地図になって
いて、自分を含め、一緒に捜索している人の
位置や顔の正面がどちらに向いているのかを
矢印で表示してくれる。
通信機能があるので、通話もできる便利な
機器。
「弱いけど、自発呼吸をしているな。一緒に連れて行くか。それにしてもこの青年、少し邪魔だな」
ハッブルは、川の中へ移動して、
鞄からヴィグラを出して、
水面にひとつ吹き出した。
そして、水に浸かっていた女の人の両足を
持った。
青年の手が、女の人の肩から離れた瞬間、
女の人の両足を引っ張って、
出していおたエアボウルの中へ入れて、
頭にレオントをかぶせた。
「さ、行くか」
ハッブルは、エアボウルを2つ引き連れて、
また水の流れに乗って、移動を始めた。
しばらく川を下って行くと、
3つの分かれ道にさしかかった。
ハッブルは、迷うことなく、左側へ入った。
またしばらく、
水の流れに身を任せていると、
川は、森の中へと入っていった。
この川は、豪雨によってできたのではなく、
森の上流から流れていた元々あった川で、
豪雨でできた川の流れの影響で、下流から
上流に向かって、逆流していた。
森の奥深くまでくると、大きな滝がある湖に
出た。
大きな滝に到着したハッブルは、
鞄からヴィグラを出して、上を向いたまま、
大きなエアボウルを吹き出した。
エアボウルは、ゆっくりと降下していき、
ハッブルの体を取り込み始め、
体のすべてが中に入った瞬間、球から、
人の形に形状が変化した。
ハッブルは、エアボウルの中に入った2人を
引き連れて、滝つぼの下へ向かうために、
湖の中へ潜った。
滝から勢いよく流れてくる水のせいで、
気泡が複雑に動きながら現れては消え、
湖底の視界を遮っていた。
でもハッブルは、迷うことなく、滝つぼの
真下へ向かった。
その湖底には、いかにも不自然な、
多面体の石があった。
これは、湖底に根をはる、特殊な石が生える
水草で、石の上部には、必ず、
イイイイスターの輪郭の形をした模様が
ある。
そこに、ハッブルが手のひらを置くと、
ガコン、ガタガタ。
滝つぼの裏側から大きな音がした。
ハッブルがその方向へ進んで行くと、
少し複雑な形をした穴があいていた。
ここは、秘密の出入り口のひとつで、
ビーバーの家のような構造になっているので
知らない人からすると、ただ単に滝が流れて
いる場所にしか見えないようになっている。
出入り口を通って水面から出ると、
洞窟になっていて、壁面には、「恒輝岩石」
自ら光り輝く岩石が、キラキラしていて、
ほのかに明るくなっていた。
ハッブルは水から出ると、
自分の体にまとっていた人の形の
エアボウルを、親指と人差し指で押し擦って
消滅させて、大きな石の壁の前で立ち止まり
石の壁の窪みに、自分の手のひらを置いた。
ガコン、ガタガタ。
壁の一部が動いて、人がひとり、通れる
くらいの大きさの人型の穴が現れた。
ハッブルは、エアボウルに入っている青年を
背負って、青年の体が出入り口にぶつから
ないように、気をつけながら通った。
「お帰り」
出入り口を見張る係のボーアが言った。
「ただいま」
ハッブルは、自分が被っていたレオントを
鞄の中に入れて、エンヴィルに入った。
「1階」と言うと、ハッブルと背負われて
いた青年が、ゆっくりと一緒に上昇して、
ゆっくりと止まり、1階に着いた。
「エンヴィル」とは、
建物の中央部分やそばなどに、設置してある
淡い水色でキラキラしていて、柔軟性のある円柱状で、地面やフロアの境目には、
ない時もあるけど、
だいたいイイイイスターの輪郭の模様が
施されている、反重力の特殊な技術を使った
サンクの昇降設備のことで、
正式名称は「エングラヴィサークル」だけど
名前が長いので、みんな、「エンヴィル」と
呼んでいる。
利用方法は、
例えば、1階から20階へ行きたい時は、
エンヴィルの中へ入って、
「20階」と言うと、体がフワッと浮いて
降下(サンクでは、1階が一番上のフロア)
していき、20階のフロアに着くと止まる。
複数の人が同時に同じ階からエンヴィルに
入った時は、行き先が同じでも別々でも、
それぞれが行きたい階を言わないと、
体は昇降しない仕組みになっている。
でも手をつなぐか、体がふれている場合は、
一体だとみなされて、誰か一人が行きたい
階を言えば、ふれあっている人全員で、
昇降することができる。
エンヴィルから出て、しばらくまっすぐ進み
突き当たりを左に曲がったところで、
レイラインに会った。
「ちょうどよかった。リゲルが、この青年はレイラインに診て欲しいと言っていたよ」
「?」
レイラインが首をかしげたので、
「あ、レオントを被せたままだった。僕の顔の右側に青年の顔があるから、取ってくれる?」
ハッブルが言った。
「あぁ、レオントね。分かった」
レイラインが何にもなく見える、
ハッブルの顔の右側に手をかざして、
「あった」
何かをつかむ仕草をした。
すると、青年の姿が現れた。
「医療室に運んでくれる? すぐに行くから」
レイラインは、取ったレオントをハッブルの
ズボンのポケットに押し込んだ。
「分かった」
レイラインと別れたハッブルは、少し進んで
左に曲がり、さらに進んでいき、
アーチ状の医療室の出入り口に着いた。
医療室の空いているベッドに、青年を
寝かせて、エアボウルの一部を押し擦ると、
フワッと弾けて消滅した。
ルーンがハッブルに気づいて、近づいて
来た。
「どうしたの?」
「この人は、レイラインに直接、診て欲しいとリゲルに頼まれた人だから、レイラインが来るまで、何もしないで」
ハッブルが言うと、
「分かったわ」
ルーンが言った。
ハッブルは、医療室を出て、
さっき来た道を戻って行った。
エンヴィルで4階へ行き、
先ほどの出入り口へ来たハッブルは、
また石の壁のくぼみに手のひらを置いた。
ガコン、ガタガタ。
人型の穴が開いた。
「いってらっしゃい」
ボーアに声をかけられたハッブルは、
「もうひとりいるよ」
と言った。
人型の出入り口を出たハッブルは、
置いていたエアボウルの中にいた女の人を
背負って、出入り口に体がぶつからない
ように気をつけながら通った。
ハッブルが通過し終わると、
ガコン、ガタガタ。
人型の穴がふさがって、石の壁に戻った。
ハッブルが背中から女の人をおろすと、
エアボウルが宙に浮いた。
「あれ? どこかな?」
ハッブルは、エアボウルに手を入れて、
女の人に被せていたレオントを取ろうとした
けど、見当たらなかった。
「レオントを被ったら?」
ハッブルの様子を見ていたボーアが言った。
「あ、本当だね」
ハッブルは笑いながら、レオントを鞄から
取り出して、かぶった。
「あった。頭の向きが変わっていたのか」
女の人のレオントと自分が被っていた
レオントを一緒に鞄に入れて、エアボウルを
引き連れて、今度は検査室へ向かった。
助けた人は、通常はまず、検査室で改めて、
ミスタやイスタで、ヒューマンレベルなどの
確認をしてから、問題がなければ、
体の状態を調べて、DNA情報と細胞を
採取して、治療が必要な人は医療室、
治療が必要ない人は、待機室へ、
振り分けられる。
ハッブルは、検査室へ入って、
空いているベッドへ女の人を寝かせて、
エアボウルの一部を押し擦って消滅させた。
室内を見渡すと、先に運ばれていた人を
順番に検査していた、ピキアを見つけた。
「ピキア、この人もよろしく」
「分かった!」
ピキアに女の人を託したハッブルは、
外にいるリゲルの元へ戻って行った。
レイラインは、首にかけていた、
イイイイスターがついたネックレスを、服の
中から取り出して、青年の額にかざした。
「イイイイスター」とは、
エリオット、レイライン、リゲルだけが
持っている、不思議な力を持つ首飾りの
ことで、名前が言いにくいので、
「イスタ」と呼んでいる。
丸みのある角が6個ある星のような形で、
その頂点に位置する角の上に、
花のようなものがついている。
星のような形の部分には、ミスタ同様、
人間の目に似た形の、大きな目がついていて
稀に瞬きをする。
瞳の部分には、六角形のラピスラズリで
できていて、これを「イスタの瞳」と言う。
イスタの瞳も通常は、美しい青色をしていて
緑色や黒色に変化し、裏側は地図になって
いて、通信機能もある。
ミスタは、捜索活動に必要な最低限の機能
だけが備わっているけど、イスタには、
ミスタにはない機能が、いくつも備わって
いる。
「赤色だ……私達以外で初めて見た。だからリゲルは、私に診て欲しいと頼んだのね。エリオットに知らせないと」
レイラインは、イスタに話しかけた。
でも、エリオットから応答はなかった。
「手がはなせないのかな? すぐに来て欲しいのに」
慌てた様子でレイラインは、医療室の
出入り口を出て通路を通って、中央塔へ
向かって通路を走っていた時、
視界の端に人影が見えた。
「エリオット!?」
レイラインが叫んだ。
「違うよ。アイザックだよ」
「アイザック? あの……」
「うん。レイライン、どうしたの?」
荷物を運んでいたアイザックが近づいて
来た。
「エリオットを医療室に呼んでくれない? 急ぎなの」
「いいよ。えっと、どこにいるの?」
「エリオットの部屋にいると思うのだけど、応答がないから、確認してきて欲しいの」
「応答? スクエアに聞いても、居場所が分からないの?」
アイザックが首をかしげた。
「あ、聞いていないわ。慌てていて、忘れていた」
レイラインが照れ笑いをした。
「慌てると、僕もパニックになるよ。じゃあ、エリオットの部屋に行って、いなかったらスクエアに僕が聞いておくよ」
アイザックが、ニコッとした。
「ありがとう。よろしくね」
医療室に戻ったレイラインは、青年のケガや
体の状態を調べて、治療を始めた。
青年は、激しく衰弱していたけど、ケガは
すり傷程度で、幸い命に別状はなかった。
点滴をして、すり傷などの傷を消毒して、
絆創膏を貼って、顔や服から出ている部分を
温かいタオルで拭いていると、
「レイライン、どうしたの? 急ぎだって、アイザックに聞いたけど!?」
エリオットが医療室に入って来て、言った。
「どこにいたの? イスタに話しかけたのに、無視をしたでしょう」
レイラインが少し不機嫌そうに言うと、
「ごめん。でも、無視はしていないよ。通信をしていて」
エリオットが少し申し訳なさそうに言った。
「あぁ、そうだったの。何の話?」
レイラインの機嫌がなおった。
「あとで話すよ。ところで、急ぎの用事は何?」
「そうだった、これを見て」
レイラインはまた、イスタを青年の額に
かざした。
「イスタの瞳が、赤色になった! 真っ赤だ……久しぶりだね」
エリオットが嬉しそうに言うと、
「うん。またひとり、見つかってよかった。ケガはかすり傷程度だけど、衰弱が酷くて、いつ目が覚めるかは、今のところ……分からない」
「そうか……でも、点滴をしていれば、大丈夫だろう。もう、培養を始めてくれる?」
エリオットとレイラインが話をしていると、
ドタドタと走る足音が聞こえてきて、
医療室にシャルルが入って来た。
「エリオットさん、探しましたよ。スクエアに聞いたら、なぜか最初は頑なに分からないと言われて、しつこく聞いていると、突然、ここにいると教えてくれました。スクエアの不具合ですかね?」
息を切らしながら、シャルルが言った。
「あぁ……そうか、ごめんね。不具合は、ないと思うけど……あとで確認をしておくよ。それで、どうしたの?」
エリオットが苦笑いをした。
「お願いします。あの、少し問題が起きました。一緒に来てもらえませんか?」
「どうしたの?」
「アクテの一部が、なぜか赤い色をしていて」
「ガレットは、呼んだ?」
「はい。成分を調べてくれました。人工的に作られた着色料のようだと言っていました」
「そうか……その赤い色をした部分の水は排除した?」
「今、やっています。幸い、着色している範囲が狭いので、水が不足するという事態にはならなさそうです。とにかく、ガレットが呼んでいるので来てください」
「分かった。と言うことだから、レイライン、目が覚めたら、すぐに教えて」
エリオットがレイラインを見て言うと、
「もちろん。早く行って」
レイラインはうなずいた。
エリオットはシャルルと一緒に、走って
アクテへ向かった。
「アクテ」とは、
「アクテオフォンティス」の略称で、
この施設全体の水源のこと。
地下水が染み出てたまり、湖のようになって
いる。
レイラインは、DNA情報と細胞を同時に
採取できる、1cmくらいの太い針がついた
採取器を青年の腕に刺した。
赤い血液が流れ出したあとに、細胞が
ドロッと出てきて、採取器の胴体部分が
膨らんで、1、2、3と数字が現れた。
「3」が大きく現れたのを確認した
レイラインは、青年に刺していた針を抜いて
チウルウオプの1つ目のフタを取って、
採取器の針をさしこんだ。
採取器の中から、採取したものが出てきて、
チウルウオプにたまっていった。
採取器の中が空っぽになると、
採取器をチウルウオプから抜いて、
フタをして、医療室の奥にある、
培養・交換室の特別な保管庫に
チウルウオプを入れて、扉を閉めたあと、
イイイイスターの輪郭をしたところに手の
ひらを置いて、鍵をかけた。
「チウルウオプ」とは、
体(クローン)の培養をする時に使う、
培養容器のひとつで、培養の2段階目で
使用する。
フタが2つ、あって、
採取器で採取したものを入れる時は、
ひとつ目のフタを外して、そこに採取器を
さしこむと、自動で採取したものが、
チウルウオプの中へ入っていく。
採取器の中が空になったら、採取器を抜いて
フタを閉めると、培養が開始される。
2つ目のフタには、
人力では開けられないように、
葉っぱの封印が施されている。
これは、3段階目の培養容器、
「オトゥタヌウプ」に移せるくらいに培養が
進むと、封印が解けて、葉っぱがフタから
剥がれ落ちるので、
これを目安に、2つ目のフタを外して、
チウルウオプごと、オトゥタヌウオプに
入れる。
チウルウオプは、オトゥタヌウオプに入れると、容器がとけてなくなるので、
繰り返し使うことができない、一回限りの
培養容器。
「オトゥタヌウプ」とは、
培養の3段階目に使用する、繰り返し使う
ことができる、大きな培養容器で、
ここで、小さなカタマリは、20歳の肉体に
なるまで培養される。
レイラインは、青年に向かって、ヴィグラを
吹いて、医療室にある扉と鍵がついた個室へ
移動して、ベッドへ寝かせた。
「早く、目が覚めてくれたらいいのに……」
青年に布団をかけて、個室の扉の近くに
あったイイイイスターの輪郭をしたところに
手のひらを置いて、鍵をかけた。
ここにある出入り口は、基本的に扉のない
アーチ状になっているので、出入りは自由に
できるけど、
扉と鍵がついている部屋がいくつかあって、
エリオットとレイライン、リゲルだけが、
この鍵の施錠と開錠をすることができる。
医療室にある、培養・交換室と
エリオットとレイライン、リゲルの判断で
個室での治療が必要だと判断された人が
入る部屋には、扉と鍵がついている。
青年には、24時間、点滴で栄養を届けて、
指にパルスオキシメーターをつけて、
レイラインが2時間おきに、容体の確認を
していた。
ここに来た当初、頬はこけて、全体的に
脂肪がなくて、骨と皮だけというくらいに
酷く痩せていたけど、日に日に栄養が
行き届いていき、全体的に脂肪がついてきて
少しふっくらとしてきた。
エリオットも青年の様子が気になって、
時間を見つけては、医療室の個室の扉の
窓ガラス越しに、青年を見ていた。
「少し、顔色がよくなってきたみたい」
ニコッとして、その場を去った。
こんな感じで、1日、2日、3日、数日……
と時間が経過していった。
○次回の予告○
第2話
覚醒とサンクテーヨ・ディ・スプテラノ前編
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