第3話(絵あり)覚醒とサンクテーヨ・ディ・スプテラノ後編

○近日ノートに挿し絵があります。

☆1☆と☆22☆と☆23☆です。




入れ替わるように、ストゥートが個室の中へ入ってきて、僕のそばに来た。

「初めまして、クレイ。私は、医療塔所属のストゥートよ。先に食事をする?それとも……お風呂?」

僕の腕についていた点滴の針やチューブを

外しながら、ストゥートが言った。

「えっと……食事から、お願いします」

「分かった。歩ける?」

「たぶん……」

「肩を貸すから、ゆっくり足をベッドからおろしてみて。3週間ぶりかな? 久しぶりに歩くでしょう? 慣れないかも」

「3週間……僕は眠っていたのか……」

僕は、ゆっくりと片足を動かした。

こんなに僕の足って、重かった? と言うくらい重さを感じて、

何だか動かしにくかった。

どうにか片足ずつ動かして、足の裏を地面につけて、ストゥートの肩を借りて、

立ち上がった。

久しぶりに動いたので、足だけではなくて、体もとても重たく感じた。

「あ、そうだ。先にこの服に着替えないといけなかった。このまま被せるから、じっとしていてね。すごく、ブカブカだと思うけど、ちょうどいいサイズになるから、安心してね」

ストゥートが、僕の頭の上から被せてくれた服は、驚くほど大きなサイズで、

服というよりも、マントのような形状だったので、本当かな? 僕は疑った。

「よし、足まで被ったから、これで大丈夫ね」

ストゥートが言った瞬間、

とても不思議なことが起こった。

「え!? どうなっているのですか!? わっ、くすぐったい」

「不思議でしょう? 私も仕組みは知らないけど、ここの服はすべて、こんな感じなの。着る時はマントみたいだけど、それぞれの体にピッタリのサイズに変化して、着ていた服はなぜか、勝手に袖口から出てくる。魔法みたいよね」

ストゥートが、笑って言った。

「本当に、不思議です! え!?」

僕は感動した瞬間、驚いた。

「何ですか、それ」

ストゥートの右肩付近に、浮いていた何かが袖口から出てきた、僕が着ていた服を

かじった。

「これは、新しい服をくれたり、不要な衣類を処分してくれる、アニマルタイプの浮遊AIロボットよ」

「ロボットですか?」

「そう。名前は『エル』」


手のひらに乗りそうな大きさの、見た目は

顔だけしかないように見える「エル」には、

よく見ると、小さな足と手があった。


エルは、自分の顔よりも大きな衣類を、

パクッ、パクッ。

おいしそうに、口の中へ入れて、

咀嚼していた。

「すごいですね……こんなロボットがいるなんて、初めて見ました」

僕が珍しそうに、エルを眺めていると、

「私も最初は、驚いた。ここは、地上、今までの生活様式とは違うことが、いろいろとあるわ」

「そうなのですか?」

「そうよ。では、着替えも終わったし、ゆっくり歩いて行きましょう」

「はい」


僕は、一歩、また一歩、ゆっくりと足を

動かして、前に進んだ。

扉の外へ出ると、たくさんのベッドがあって数人が眠っていた。

アーチ状の出入り口を出て、右に進むと、

分かれ道があって、右に曲がって、

数歩行くと壁にアーチ状の穴が開いていて、

ここをくぐって、

また左方向へ道なりに進んだ。

ここは、すごく広そうだな、地下だって

言っていたけど、

いつ、誰が、こんな施設を作ったのかな?

さっきの服にしても、ここには、色々と

不思議なことがありそうだな……と

考えごとをしていたら、

ストゥートにぶつかってしまった。

「すいません、周りを見ながら歩いていて」

ストゥートは、無反応だった。

どこかを見つめていたので、その先に目線をやると、

複数の人がいて、声が聞こえてきた。

「マクスウェルも一緒にお願いします! このまま、あんな場所に置き去りにしていたら、死んでしまいます……お願い……彼を助けて」

泣きながら、必死に訴えている女の人が

いた。

「無理ですよ。ミスタが黒いので、助けられません」

男の人が言った。

その様子をストゥートは、じっと見つめて

いた。

「あの、すいません」とか「周りを見ていて、ぶつかってすいません」と僕が何回か

声をかけると、やっと返事をしてくれた。

「名前に聞き覚えが……あ、ごめんなさい。ぼうっとしちゃって……行きましょう」

ストゥートは、移動を始めた。

「あの……さっきの人は、どうしたのですか? ここは、いつ、誰が作ったのですか?」

僕が聞くと、

「さっき?」

「あの、女の人が助けてとか、助けられないとか、言っていましたよね?」

「あぁ……さっきの……」

ストゥートが黙った。

何か聞いてはいけないことを、

聞いたのかな?

実は見てはいけないものを目撃したのかな?と思った僕は、

「す、すいません。何でもないです」

慌てて言った。

ストゥートは、そんな僕を見て、

静かにうなずいた。

しばらく僕達は、無言で歩いていた。

気まずい空気が流れていて、

もう耐えられない! と思った時、

ストゥートが、サンクについての説明を

始めた。


公にはなっていない、

非公式の避難所「サンク」は、

世界各地の地下に複数あって、すべての

サンクは、地下通路でつながっているけど、

それぞれの距離がとても遠いので、基本的に行き来はできないそうだ。

サンクは、

「中央塔」という中央の塔を中心に、

8個の円柱状の塔が周りに等間隔にあって、中央塔と通路でつながっているので、

ここを通って、別の塔へ移動する。

サンクでは、中央塔と各塔をつなげている

通路には、「接続通路」という名前がついていて、

例えば、医療塔と中央塔をつなげている

接続通路のことを、ただ単に、「接続通路」と呼ぶことの方が多いけど、

どことつながっている接続通路なのかを

分かりやすく、「医療塔接続通路」と呼ぶ

こともある。

中央塔以外の塔の中心には、エンヴィルが

あって、これで昇降して、各フロアへ移動

する。

エンヴィルとつながっている、

中央塔に近い方、接続通路とつながっている

通路が「手前」で、

反対側は「奥」という名前が、

塔の通路には共通してついている。

中央塔には、2か所、アーチ状の出入り口が

あって、居住塔の間に位置する場所にある

アーチ状の出入り口のことを、

「居住塔の間」と言い、

もう1か所は、医療塔と設備・捜索塔の間に

位置する場所にあるにで、

「医療・設備・捜索塔の間」と言って、

どこの出入り口なのかが分かるように、

区別している。


これから行く食堂室がある「食堂塔」には、

食事をする場所と調理室、畑や

魚介類・肉類の培養室、食料貯蔵庫がある。


時計回りで左隣には、「公共塔」があって、

集会室や運動広場、図書室、映画鑑賞、

マグマを利用した温泉や温水プールもある。


その左隣の塔ともうひとつ左隣の塔は、

36階建ての居住塔で、「居住塔・新月」と「居住塔・半月」という正式名称があるけど名前が少し長いので、「新月」や「新月塔」

「半月」や「半月塔」と呼んでいる。

ワンフロアに、13室の4人部屋と、

シャワー室と男女でわかれたトイレがあって

部屋には順に、「新月30階・青星1号室」「半月26階・黄緑星4号室」などと、

名前がついている。


この左隣の塔には、「事務塔」があって、

リーダーのエリオットの部屋、

リゲルやレイライン達、塔長の部屋と事務室面会室などがある。


さらにこの左隣の塔には、

「アクリスルム塔」がある。

ここには、ソリスとアクテの管理室と

その下のフロアにアクテがあって、

その下のフロアに、

「ワポレムソリス・テピダレオ」、略して

「ソリス」と言う、

マグマの湖があって、このマグマを利用して

発電し、塔内の照明や調理、

温泉やシャワーのお湯などを温めるのに

使っている。

この塔の上には、高い山の内部に作られた「カエルム・モンティス」略して、

「カエルム」があって、

綿花を栽培している畑と、収穫した綿花を

着色する部屋、衣服の作り方を学ぶ部屋、

洗濯室と、普段は立ち入りができないけど、地下で何か起こった時、一時的に避難が

できる部屋と、常に立ち入りが禁止になっているフロアがある。

サンクの塔、すべての通路の壁の下には、

アクテからひいている水が通っている水路とマグマが通っているマグマ路が交互に設置

してあって、これのおかげで、

サンクの内部の温度は、常に一定に保たれている。


この左隣には、「設備・捜索塔」がある。

ここは、4階建てで、

外とつながっている出入り口が複数あって、それらはすべて、一番下のフロアと通路で

つながっている。


最後の塔、「医療塔」には、

検査室、医療室、待機室、クローンの培養や細胞などの保管庫がある。


「……という感じなのだけど、よく分からないわよね」

ストゥートが、苦笑いをした。

「そうですね……なんとなくは、分かった気がしますが、よく分かりません」

僕も、苦笑いをした。

「そうよね。私も最初は、どこに何があるのか、どこを通ればいいのか、迷路のようで分からなかったけど、過ごしていくうちに色々と覚えてくるし、分かってくるから、大丈夫よ」

ストゥートが、ニコッとした。

「はい」

僕は、うなずいた。


しばらく進んだところで、

ストゥートが立ち止まって、

「ここが、食堂よ。それぞれ出入り口に何の施設や部屋か書いてあるプレートが飾られているから、分からない時は、確認してね」

扉のない、アーチ状になった出入り口の上を指でさした。

ストゥートが言ったとおり、プレートが

あって、

そこには、「食堂」と書かれていた。

「あ!」

僕は、ある事に思い至った。

手首のナノスタンプは、はっきりしている

から、機能していると思うけど、

災害で銀行はなくなっているだろうし、

そもそも、働いている人がいないと思う。

あの日まで使っていたナノスタンプでの

入出金システムは、使えるかな?

お腹は減っているけど……無銭飲食はでき

ない……ストゥートに借りる!?

でも、どうやって、返すの?

僕が、ひとりでぶつぶつ言いながら、

出入り口で立ち止まっていると、

「クレイ、どうしたの?」

ストゥートが、僕の肩をたたいた。

「あ、えっと、その……お金を持っていなくて」

僕が言うと、

「何? そんなこと? 安心して。私も、持っていないわ」

ストゥートが、笑った。

「え? ストゥートも、持っていないの? じゃぁ、どうやって支払う予定? ナノスタンプが使えるの?」

僕が、どぎまぎしながら言うと、

「うん、大丈夫。そもそもここには、『お金』と言う概念はないから。気にせず、安心して、食べていいのよ」

ストゥートが、ニコッとした。

「そうなの? それなら、よかった」

無銭飲食をしなくてすむみたい……僕は、

ほっとした。


ストゥートに続いて、出入り口をくぐって、

中へ入ると、

ふわふわ宙に浮いている、動物のような

フォルムをしたロボットがいた。

「こんにちは、ストゥート。どれにする? そいつ、誰?」

「こちらは、クレイ。少し前に、仲間になったのよ。クレイ、こちらはアニマルタイプの浮遊AIロボットで、食堂塔担当の『テオ』よ」

ストゥートが、紹介をしてくれたので、

僕は、テオを見ながら、軽く会釈をした。

すると、テオは、目を見開いて、

じっと僕を見つめたあと、

「そうなの、分かった。どれにする?」

と言った。

アニマルタイプの浮遊AIロボットのテオは

首の短いキリンのような姿をしていた。

角のような部分には、星と月の模様が

あった。

「私は、タグマにする。『マテン・タグマ・ヴェス』の3種類あるけど、クレイはどうする?」

ストゥートが言ったので、

「えっと、何の料理ですか?」

と聞くと、

「それがね、分からないの」

満面の笑みで、ストゥートが言った。

「分からないって、どういうことですか?」

僕が聞くと、

「その日に収穫した食材とかで、テオ達が毎日、献立を考えていて、いちいち今日のメニューはこれ! と説明するのが、たぶん面倒なのだと思う。3種類のメニューが存在するのは確かだけど、中身は手渡されてからのお楽しみになっている。最初の頃は気になって、何の料理か聞いていたけど、無視するし、教えてくれないから、私が面倒になって、『テオにどれにする?』と聞かれたら、迷わず毎回、『タグマ』と答えているの」

ストゥートが、笑って言った。

「なるほど……そうですか。では、えっと……同じもので」

僕が言うと、

「ストゥートとクレイは、『タグマ』)、分かった。受け取り口へ行って」

テオは、長いしっぽで、

どこかをさしていた。

「クレイ、行きましょう」

「あ、はい」

僕は、ストゥートと一緒に、

受け取りへ向かった。


「タグマ」とは、どんな料理かな?

受け取り口へ行くと、入り口いたテオと、

まったく同じAIロボットがいた。

カウンターには、お盆に、一汁三菜と、

メイン料理と水が置いてあった。

僕が、お盆に手をのばそうとした時、

「クレイ、持てる? 落とすとあれだから、私が持つわ」

まだ少し、おぼつかない足取りだった僕を

気遣ってくれた。

ストゥートがお盆を2つ持とうとしたら、

「これは、運んであげるから、黙ってついて来て」

テオが、僕の分のお盆を持って、

移動を始めた。

「口調は、なんだか微妙にえらそうだけど、根は優しいのよ」

テオに聞こえないように、小さな声で、

ストゥートが、僕の耳元でつぶやいた。

「そうなのですね」

僕は、根は優しい時いて、

ちょっと、ホッとした。

「早く、座りなよ」

テオは、しっぽで、椅子を座りやすいように引いてくれた。

「ありがとう」

僕が座ると、しっぽで僕と椅子を押して、

机に近づけてくれた。

「ありがとう、テオ」

改めて言うと、

ニコッてして、受け取り口の方へ、

ふわふわと移動して行った。

「ね、いいやつでしょう? 口調は微妙だけど」

ストゥートがまた、小さな声で言った。

「そうですね」

僕も小さな声で言った。

「いただきます」

手を合わせて、僕とストゥートは言った。


温かい料理……まさか、幻ではないよね?

現実だよね?

白いご飯が、眩しかった。

だからだろうか……目に涙があふれてきた。

そんな僕の様子に気づいたストゥートが、

僕の向かいから、横の席に移動して来た。

そして、僕を優しく、抱きしめてくれた。

「あの日」からの葛藤や、スカイとの別れ、

色々な思いが、よみがえってきたこと、

人の温かさにふれて、涙がとまらなかった。


しばらく泣いた僕は、

徐々に落ち着きを取り戻した。

「落ち着いた?」

僕は、目にたまっていた涙を袖で拭いた。

「ありがとうございます。すいません……」

「泣きたい時は、泣いた方がいい。私もここに来た時、こんな温かい食事が、また食べられるなんて思っていなかったから、涙がでてきた。それに、私だけ……」

言葉を詰まらせたストゥートの目に、

涙があふれてきた。

ストゥートが言いたかったことが、

その気持ちが、僕には痛いほど分かった。

だから、

「そうですね……僕も」

と言葉を返した。

ストゥートと僕は、顔を見合わせて、

何度もうなずいた。

そして、

「さぁ、食べましょう。冷めてしまうわ、せっかくの温かい料理が」

ストゥートが、涙を袖で拭きながら言った。

「はい!」

僕も、袖で涙を拭いて言った。


お箸を持って、白いご飯が入った器を

持ち上げた。

お箸で、少しだけ白いご飯をつかんで、

口へ運んだ。

白いご飯が顔に近づくたびに、温かい湯気と

香ばしい匂いが、強くなってきた。

スカイも、食べているよね?

温かい料理を、食べているよね?

避難所の中で……。

スカイと食べたホタテの缶詰、おいしかったな……スカイ、会いたいよ……。

僕は、涙があふれてくるのを、

必死に堪えながら、一心不乱に、

お箸で、白いご飯を口に運んだ。


食べ終わった僕は、静かにお箸をお盆の上に置いた。

お腹が、いっぱいだ……こんな感覚は、本当に……本当に、久しぶりだな……スカイも、お腹いっぱい、食べられているかな……と

考えながら、空になった器を眺めていたら、

また、涙があふれてきた。

「え?」

目の前にあった器というか、お盆ごと消えてしまった。

辺りを見渡したけど、

どこにも見当たらなかった。

「テオが、持っていったわよ」

ストゥートが教えてくれた。

「そうだったのですね。一言、言ってくれればいいのに……神隠しにでもあったのかな、と驚きました」

僕が言うと、

「そういうこと多いのよ。親切なのに、何か惜しいのよね」

ストゥートが、笑った。

「確かに、何か惜しいですね」

僕は、涙目で笑った。

「それでは、私のお盆を返却口に戻しがてら、リゲルのところへ行きましょう。あ、その前にお風呂ね。一緒に入りましょう、説明するわ」

ストゥートが、お盆を持って立ち上がった。

僕は、ゆっくりと、椅子を後ろに動かして、

机を支えに立ち上がろうとして、

動きを止めた。

「え、一緒に!? えっと、大丈夫です。まだ、体は重たいですけど、自分で動かせます」

お風呂の世話をしてもらうのは、無理だ!

僕の顔は、真っ赤になった。

「そう? 遠慮しなくてもいいのに……あ、分かった」

僕を見て、クスクス笑っていたので、

「な、何ですか!?」

僕は、あたふたした。

「ごめん、ごめん。一緒に入るって言ったからよね? でも大丈夫、一緒に入ると言っても、お互い裸になるわけではないから」

ストゥートが言ったので、

お風呂に入るのに、裸にならない!?

どういうこと?

僕の頭の中に、

ハテナマークが、たくさん浮かんでいた。

「実際に、実演しながら説明するわね。とりあえず、居住塔のシャワー室へ行きましょう。そうそう、食事は、24時間、いつでも食べられるけど、ひとり、1日3回までよ。回数は、出入り口にいるテオが、間違いなくチェックしているから、不正はできないわ」

ストゥートが、ニヤリとして言ったので、

僕は、目を見開いて、うなずいた。

僕の顔は、また熱を帯びていた。


お盆を返却口に置いて、食堂室の出入り口をくぐって、左方向に道なりに進むと、

「公共塔」と書いてあるプレートが飾られている出入り口があって、それを通過すると、

今度は、「居住塔・半月」と書かれた

プレートが飾られている出入り口があった。

ここかな? と思ったら、

ストゥートは通過して、

「居住塔・新月」と書かれたプレートが

飾られていた出入り口の前で立ち止まった。

「ここが、クレイの居室がある塔よ」

僕は、ストゥートのうしろに続いて、

アーチ状の出入り口をくぐって、接続通路を進んだ。


またアーチ状の出入り口があって、

ストゥートが立ち止まった。

すると、

「こんにちは、ストゥート。君の居室は、ここにはないよ」

どこからか、電子音声が聞こえた。

「分かっているわよ。新しい仲間を連れてきたの。空いている部屋を教えて」

ストゥートが言うと、

「分かった。検索中……」

また、どこからか電子音声が聞こえた。

僕が、辺りをキョロキョロしていると、

その様子に気づいたストゥートが、

「クレイ、あそこよ。アーチ状の出入り口の頂点の部分に、画面が埋め込まれているのが分かる? その中に『スクエア』という、AIがいるの」と言った。

言われた場所を見ると、

何かがクルクルと画面の中で回っていた。

スクエアは、名前の通り、

体の部位のほとんどが、カクカクしていた。

「サンクにはなぜか時計がないのだけど、気まぐれで、朝と夜とかだけがざっくりと分かる表示をしてくれる時があるわ」

「どうして、時計がないの?」

「それは、分からない。ここは、便利だけど、謎がある」

スクエアの動きが止まった。

「30階の『青星1』で、どう?」

「そこで、いいわ。ありごとう」

ストゥートが言うと、

「またね」

と言って、消えてしまった。


「サンクには、スクエアとテオ、エルの他にもリア、ジア、ルタ、ライ、スイ、リル、ラカと言う名前のアニマルタイプの浮遊AIロボットがいて、ここでの生活のお手伝いをしてくれているの」

「そうですか、他にもいるのですね。そういえば、AIヒューマンを見ませんね」

「AIヒューマンは、ここにはいないわ。いるのは、2次元と立体映像のスクエアとアニマルタイプだけよ。さっき説明した、エンヴィルって覚えている?」

「エン……何ですか? すいません」

「簡単に言うと、サンク的、エレベーターね。クレイの居室は30階で、今いるのは1階だから、こっちに来て」

ストゥートは、淡い水色でキラキラした

場所に入って、手招きをした。

僕は、恐る恐る、足を踏み入れた。

不思議な感覚で、地面が柔らかくて、

何かの拍子に、底が抜けてしまうのでは

ないか、という不安を感じた。

「この中に入って、行きたい階を言うと、体が動くの。せーので、言うわよ。いい?」

「は、はい」

僕は、なぜかとても緊張して、

ドキドキしていた。

「せーの、30階」

一緒に言うと、

僕とストゥートの体が、フワッと下方向に、動き出した。

「うわぁ……なんかすごく不思議な感覚ですね」

「私も最初は、そんな感覚だった。なんか、ゾワゾワしない?」

「あ、それです! ゾワゾワします」

僕とストゥートは、顔を見合わせて笑った。

「えっと……ここは、地球ですよね?」

「とちろん、地球よ」

「ですよね……でも、はるか遠い未来というか、SFの世界みたいです」

「そうね。私もここに来た時は、クレイのように不思議だな、すごいなって。以前の生活様式とは違うことが多くて、戸惑ったりもしたけど、すぐに普通になった。人間の適応能力? 慣れって、すごいかも」

話をしていると、

フワッと体が止まった。

「30階に到着したみたいね。クレイの居室は『1』だから、『手前』と書いてある通路を通ると近道よ」

ストゥートが、エンヴィルから出たので、

僕もあとに続いた。

少し進むと、通路が左右に分かれていて、

右と左を確認したストゥートが、

「あった。ここがクレイの居室よ。出入り口のすぐ横だから、分かりやすくてよかったわね」

ニコッとした。


居室にも扉がなくて、アーチ状の出入り口になっていて、

「青星1」と書かれたプレートが飾られて

いた。

居室の中をのぞいたストゥートが、

振り返って、手招きをした。

居室の中には、

寝心地の良さそうなベッドが3つ、室内の

角に、ぴったりとくっつけて置かれていた。

「みんな、勤務みたい。基本的には、4人部屋になっているの。誰もいないから、同室の人とは、またそのうち会えるから、シャワー室へ行きましょう」

「はい」

「シャワー室は、右に行くとあって、トイレは、左に行くとあるわ」

ストゥートが、指で左をさしながら言った。


居室を出て、右に少し進むと、

すぐにシャワー室に着いた。

ここの出入り口もアーチ状になっていて、

扉がなくて、「シャワー室」と書かれた

プレートが飾られていた。

ストゥートについて、中へ入ると、

僕の知っているシャワー室とは違う光景が、目に飛び込んできた。

服を脱いだり着替えたりする脱衣所も、

シャワー室なのに、シャワーの設備も

見当たらなくて、殺風景だった。

唯一、あったというか、いたのは、

宙に浮いているAIロボットだった。

「ここって……」

僕が困惑していると、

「今までのお風呂に入るスタイルとは、少し……いや、だいぶ違うかもしれない。こちらは、先ほど紹介した『エル』で、新しい服をくれるから、これを上から着て」

エルは、僕とストゥートに、服を1着ずつ、

くれた。

それを、今着ている服の上に着ると、

またスルスルと勝手に袖口から服が出てきてブカブカだった、上から着ていた新しい服がちょうどいいサイズに変化した。

「このまま、ゆっくり歩くと……」

ストゥートが、僕の手を引っ張った。

ジャァー。

天井から、ちょうどいい温度のお湯が

出てきた。

僕は、手を引っ張られながら、奥へと進んで行き、アーチ状の出入り口をくぐって中へ

入った。

その瞬間、

ゴォオー。

今度は、色々な方向から、体の水分だけを

奪っています! という圧力を感じたと

思ったら、すぐに感じなくなった。

「出口は、ここよ」

ストゥートが、また僕の手を引っ張った。

「どう? さっぱりしたでしょう」

ストゥートが、僕の方を向いて言った。

僕は、その通りで、驚いた。

「えっと……どういうことですか? 服を脱いでいないのに、体がキレイになっているし、石鹸をつけた覚えはないのに、いい匂いがするし、湯船に浸かっていないのに、体がポカポカしています」

僕は、自分の腕の匂いを嗅ぎながら言った。

「詳しい仕組みは、これまた知らないけど、あのお湯には、石鹸や保湿成分が含まれているから、歩いて通過するだけで、体がキレイになるの。本当に、不思議よね」

「はい、本当に不思議です」

「でも、すぐに慣れるわ。シャワーや温泉は、好きな時に、いつでも入れる。服は、居室にはないから、欲しい時は、シャワー室や温泉室にいるエルに貰ってね」

「分かりました。あの、温泉があるのですか?」

「マグマを利用した天然の温泉が、公共塔の4階にあるから、場所の確認をしに、今から行ってみる?」

「はい、ぜひ。実は、おじいちゃんが温泉好きで、よく連れていってもらって……いつの間にか、僕も温泉が好きになっていて……」

僕の目に涙があふれてきて、

言葉につまった。

そんな僕をストゥートが、また優しく抱きしめてくれた。

「すいません……」

少し泣いて、落ち着いてきた僕が言うと、

「何が? さぁ、温泉へ行きましょう。場所を案内するわ」

ストゥートが、ニコッとした。


新月塔から、接続通路を通って、

中央塔へ行き、右に進むと、

「公共塔」と書かれたプレートが飾られて

いるアーチ状の出入り口があった。

そこをくぐって、接続通路を進んで、

公共塔の中央に設置してあるエンヴィルの

中へ入って、

「4階」と言うと、

僕とストゥートの体が、ゆっくりと降下を

始めて、すぐにフワッと止まった。

「ここには、温泉と温水プールがあるの」

ストゥートが、エンヴィルから顔を出して、

2つある通路の名前を確認して、

「こちらが、『手前』の通路だわ。『奥』の通路には、シャワー室があって、出口だから、必ず、手前側に出てね。エンヴィルから顔を出せば、地面に通路の名前が書いてあるのが見えるわ」

「はい、分かりました」


エンヴィルを出て、手前の通路を進むと、

左右に1ヵ所ずつ、アーチ状の出入り口が

あった。

右側には、「温泉」、

左側には、「温水プール」と書かれた

プレートが飾られていた。

「温泉もプールも、服を着たまま入るスタイルだけど、勤務のあとで、汚れていたりするから、ここには、専用の服があるの。出入り口にいる、公共塔担当のアニマルタイプの浮遊AIロボットの『リル』がくれるから、それを着て、温泉やプールに入って、最後に、それぞれの奥にある、シャワー室へ行って、エルに新しい服をもらってね。シャワー室での手順は先ほどと同じよ」

アニマルタイプの浮遊AIロボットのリルは

耳の下あたりに、緑色の飾りのようなものが

ついていた。

「ここでも、服を脱がないのですね。慣れないなで、違和感がすごいです」

僕が言うと、

「そうね、これも本当に始めだけよ。今では、服を脱がなくていいし、髪の毛をドライヤーで時間をかけて乾かさなくてもいいから、楽で、楽で仕方ないわ。この仕組みが、心底気に入っている」

ストゥートが、笑って言った。

「僕も早く、そうなりたいです」

「すぐに慣れるわ。では、リゲルのところへ行きましょう。温泉もプールも好きな時に利用できるけど、勤務をさぼっては、駄目よ」

「はい、分かりました」

「いい返事。では、設備・捜索塔へ行きましょう」


○次回の予告○

第4話

捜索隊と助けるべき人と助けるべきではない人 前編































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