第4話 捜索隊と助けるべき人と助けるべきではない人 前編

僕とストゥートは、エンヴィルに入って、

「1階」と一緒に言うと、

体が同時に上昇した。

1階に到着すると、

「設備・捜索塔は、ここから、斜め右に進めばあるのだけど、行けなくて、なぜか通路がいりくんでいるの。なんとなく覚えながらついて来てね」

ストゥートが言ったので、

僕は、うなずいた。

公共塔のエンヴィルから、「手前」の通路を進んで、接続通路を通り、突き当たりを左に

道なりに進むと、右側に「居住塔の間」と

言われているアーチ状の出入り口があって、

ここをくぐって、左右どちらでもいいので、

道なりに進むと、「医療・設備・捜索塔」と

言われているアーチ状の出入り口があって、

ここをくぐって、右に行くと医療塔

左に行くと、やっと、

設備・捜索塔にたどり着いた。

「迷路みたいですね」

僕が言うと、

「そうよね、そもそもなんで円形の通路なのかしら? 直線の通路にしてくれたら、分かりやすいのにね。ここにはよく分からない仕組みが時々あるわ。道に迷った時は、誰でもいいから聞いてね。もちろん、スクエアでもいいし」

ストゥートが言ったので、

僕はまた、うなずいた。


「ここが捜索隊の部屋。クレイが勤務する場所よ」

ストゥートが言った。

また扉のないアーチ状の出入り口があって、

ストゥートがそこから中をのぞいて、

「あ、リゲルがいたわ。よかった」

僕の手をひっぱった。

「リゲル!」

ストゥートが叫ぶと、何かの作業をしていたリゲルが、こちらにやって来た。

「やぁ、クレイだね。目が覚めたって、レイラインに聞いたよ。よかった、元気そうだ。僕はリゲル、よろしく」

握手を求めてきたので、

「初めまして。クレイ・ウィンスティーです。よろしくお願いします」

僕は手をだして、握手をした。

「あとは、リゲルに任せるわ。クレイ、体の具合が悪い時は、いつでも医療室に来てね」

「はい。ありがとうございます」

ストゥートは、捜索隊の部屋を出て行った。


「さっそくだけど、捜索に行こうか? あまり時間がなくてね。実践して手順は覚えて。エンヴィルで4階へ行こう。外へ出られる扉があるから」

リゲルが言った。

「あの、捜索隊って、何を探すのですか?」

僕が聞くと、

「あれ? 何も聞いていないの?」

リゲルがキョトンとして言ったので、

僕はうなずいた。

「簡単に言うと、外で生存者を探して、サンクに連れてくる作業だよ。まぁ、誰でもではないのだけど……」

最後の方だけ、リゲルが小さな声で言った。

誰でもではない、と聞こえた気がしたけど、

それって、レベル3以上の人ってことだよね?

「探すのは、ヒューマンレベル3以下の人ですか?」

僕が確かめるために聞くと、

「それは……まぁ、それもあるけど、それだけではないというか……色々ね。判断しているのは僕達ではないから、詳しくは知らないけど……そうだ、そんなことよりも、大事なことがあったよ。これを被って」

リゲルが苦笑いをした。

そんなことよりって、それだけではない、

という部分が気になったけど、

言いにくそうな雰囲気を感じたので、今は

聞くのをやめて、あとで聞こうと思った。

「なんですか、これ?」

話をそらせた。

リゲルの雲行きの怪しい感じの表情が、

明るくなった。

「これは、『レオント』、カメレオンハットと言って、物質を透明化させることができる植……じゃなくて、被ると姿が消せる」

リゲルは、レオントを被った。

すると、目の前にいたリゲルの姿が、

一瞬で見えなくなった? 消えてしまった。

「え? リゲル!?」

僕は、驚いて、呆然とした。

トントン。

右肩をたたかれたので、振り返ると、

誰もいなかった。

確かに、たたかれた感覚がしたのだけど……

気のせいだったのかな?

いや、確かに、たたかれている感覚が

まだするというか、

継続してたたかれている。

「ふふふ」

近くで何かの作業をしていた女の人が、

僕を見て笑った。

何がおかしいのかな?

それよりも、リゲルはどこへ行ったの?

「あの……リゲルはどこに行ったのか、知っていますか?」

笑っている女の人に聞いてみた。

「ふふふ。リゲル? いるわよ、うしろに」

作業しながら言った。

すると、

「スノウ! バラさないでよ」

リゲルの声がした。

僕のうしろにいたの? 振り返ったけど、

やはりリゲルはいなかった。

声はするのに、姿が見えない……どういう

こと!? 訳が分からない……僕が不安そうにしていると、

「大丈夫、お化けなんていないよ」

スノウがニコッとして、

「右肩に手をあててみて」と言うので、僕は恐る恐る左手を自分の右肩に近づけた。

すると、何かにふれた感覚がした。

「何かあった? それをつかんでみて。ふふふ」

僕は怖かったけど、言われた通り、

思いきってつかんでみた。

「うわっ、バレた。もう、スノウ」

姿は見えないけど、またリゲルの声がした。

「クレイ、手をはなして」

「え? このつかんでいるのは、リゲルの手!? どこにいるのですか!?」

「そうだけど、いないよー」

またリゲルの声だけが聞こえた。

「もう、怖いですよ」

僕が言うと、

スノウが作業していた手をとめて、

僕に近づいて来た。そして、

「ここにいるよ」と言った。

「あぁ、見つかっちゃった。スノウ、どうして、教えるの!? 面白かったのに」

リゲルの姿が突然、目の前に現れた。

「どこにいたのですか?」

「どこって、ずっといたよ。クレイのうしろに」

「いませんでしたよ?」

「手を握ったでしょう? 僕の」

「新人をからかうのは、よくないわ」

スノウが、リゲルを軽蔑した目でみた。

「違うよ、遊んでいただけだよ、場を和ませようとしただけだ」

慌てた様子でリゲルが言い訳をすると、

「レオントの効果を教えるのに、毎回、毎回、同じことをして、懲りないわね」

呆れた様子でスノウが言うと、

「僕なりのやり方だよ。クレイ、驚かせてごめん。でも、これで分かったでしょう? レオントの効果」

リゲルがニコッとした。

「あ……はい」

「さぁ、被って。これは、被っている人同士なら見えるよ。どう?」

リゲルがレオントを被った。

僕は、貰ったレオントを被って、はずして、また被ってはずしてみた。

「本当ですね、被るとリゲルが見えるのに、はずすとまた見えません。すごいですね、これ」

僕は、感動してしまった。

「すごいでしょう。こっちへ来て、もっとおもしろいものを見せてあげるよ」

リゲルが僕の手を引っ張った。

大きな等身大の鏡があって、

僕とリゲルの姿が映っているはずなのに、

映っていなかった。

「リゲル!? どういうこと!? 映っていない」

「レオントをはずしてみて」

リゲルに言われて、レオントをはずすと、

僕の姿が鏡に映った。

そしてまたレオントを被ると、僕の姿は鏡の前から消えてしまった。

「不思議ですね、本当に」

僕は、レオントを被ったりはずしたりして、

不思議を楽しんだ。

「これで、外に出ても大丈夫。さぁ、行こう」

「なんで外に出るのに、姿を消す必要があるのですか?」

僕が聞くと、

「まぁ……色々と決まりがあってね。それは追い追い話すよ。とりあえず行こうか、時間もないし。こっちへ来て」

リゲルは、答えを濁した。

部屋の中央に置かれていた机の上には、

なんともいえないキレイな青色をした

三日月の鞄がたくさん置いてあった。

「捜索に行く時には、必ずこの鞄を持って行ってね。捜索するのに必要な道具が入っているから。使い方は、外に出てから説明するよ」

僕に鞄をかけてくれた。

「行ってきます」

リゲルが言ったあと、僕にも言うように目で合図してきたので、

「い、行ってきます」

僕は、緊張気味に言った。

「気をつけて、行ってらっしゃい」

捜索隊室にいた数人が、作業の手をとめて、

僕とリゲルを見送ってくれた。


捜索隊室のアーチ状の出入り口を出て、

左に行くと、エンヴィルがあった。

中へ入って、「4階」とそれぞれで言うと、

僕とリゲルの体は、ゆっくりと降下して

行った。

4階に着いて、エンヴィルを出ると、

たくさんの通路があった。

「通路の先にそれぞれ別の場所へ出る、出入り口があって、他の人が行っていない場所をまず確認するよ。あ、いた。ジア!」

リゲルが叫ぶと、ふわふわ漂いながら、

こちらへ近づいて来た。

「こちらは、設備・捜索塔担当のアニマルタイプの浮遊AIロボットの『ジア』」

リゲルが紹介をしてくれたので、

「初めまして、僕は……」

名前を言おうとしたら、

「知っているよ、クレイでしょ。エルに聞いた。2人は、『赤い扉』に行って」

ジアが言った。

「分かった」

「あの、『赤の扉』とは、なんですか?」

僕が聞くと、

「出入り口の名前だよ。どこを捜索すればいいのかは、ジアが教えてくれるよ」

リゲルが言った。


リゲルのあとについてしばらく円形の通路を進むと、「赤の扉」と書かれたプレートが

貼ってあるアーチ状の出入り口に着いた。

中へ入ると、

少し広めの8角形の空間があって、

壁の近くに女の人が椅子に座っていて、

そばに多面体が浮いていた。

「やぁ、ボーア。クレイの手を登録してくれる?」

「もちろん。初めまして、私は、出入り口を見張る係のボーアよ」

「初めまして。僕は、クレイです」

軽く自己紹介をしあった。そして、

「この機器の中に、両手を入れてくれる?」

「えっと、このフタをはずして、中に手を入れればいいの?」

僕が聞くと、

「フタ? あぁ、これは、3Dホログラムの特殊な技術で出現させた多面体の機器で、何て言うのかしら……通り抜ける? 透けているからフタはないけど、中に手が入れられるの」

ボーアがニコッとした。

「そうなのですか? 不思議ですね」

僕は、多面体をあらゆる角度から観察した。

よく見ると、確かに透け感があって、

通り抜けそうだった。

「さぁ、どうぞ。両手を広げて、中へ入れて」

ボーアが言った。

僕は、少し緊張しながら、

両手を多面体に近づけた。

指先が少しだけ、多面体の中へ入った。

「不思議な感覚ですね」

言葉で的確に表現するのは難しいけど、

薄い長方形から水が流れ出ているところに、

両手を出し入れしているような感じ。

両手がすべて、多面体の中へ入るとすぐに、

「これで、登録は完了したから、もう手を抜いていいよ」

ボーアが言った。

「これで、終わりですか?」

僕が、キョトンとすると、

「ふふふ。これで、クレイの両手の情報がすべて、サンクの頭脳、スクエアの中にインプットされたのよ」

「スクエア? インプット?」

「スクエアは、サンクに設置してある機器の、ありとあらゆる画面の中や壁、床などに現れる映像の人工知能で、サンクと住民すべての情報を管理していると言っても過言ではないくらいの存在で、この出入り口の横に埋め込まれている画面に出てくるスクエアは、扉の開閉を管理してくれている。AIなのに、ちょくちょく居眠りをしていて、管理をさぼるのよ」

ボーアが指をさした方向を見ると、

壁に画面が埋め込まれていて、そこには、

先ほど見た、体のほとんどの部分が

カクカクしたやつがいた。

「見たままの名前ですよね」

僕がクスッと笑って言うと、

「そうなのよ」

ボーアもクスッと笑った。


「登録もすんだし、行こうか」

リゲルが、一部だけ色の違う壁に近づいた。

「この周りと色が違う石の部分が扉で、すぐに横にあるくぼみが鍵になっているから、左右どちらでもいいから、手のひらを置くと……」

カダン、ガタガタ、ガコン。

音を立てながら、石の扉が動き出すというか

変化して、人型の穴があいた。

そこをくぐろうとしたリゲルに、ついて

行こうとした僕の腕をボーアがつかんだ。

「待って。クレイも手のひらをくぼみに置いて」

「あ、そうそう。誰が外へ行ったのか、戻ったのか、戻っていないのかを管理しているから、出入りする時は、誰かと一緒でも、必ず自分の手のひらを置いてね。そうしたら、クレイのサイズに扉の穴が変化するよ」

リゲルがくぐりながら言った。

「なるほど、分かりました」

僕は、くぼみに手のひらを置いた。

そのままじっとしていると、

「もう、いいわよ。一瞬でも置けば大丈夫だから。ぶつからないように、気をつけて。出入り口は、なかなかのピッタリサイズになっているか」

ボーアが言った。

「なぜ、ピッタリサイズなのですか?」

僕が聞くと、

「明確な理由は聞いたことがないから分からないけど、手のひらの持ち主以外は通れないようにするためとか、防犯上かな、と思っているよ」

ボーアが言った。

「なるほど……僕も、そう思います」

ニコッとすると、

「やっぱり!?」

ボーアが嬉しそうに言った。

「気をつけて、行ってらっしゃい」

ボーアが両手をふって見送ってくれた。

「は、はい。行ってきます」

本当に、ギリギリの幅だな……少し通りにくかったけど、

僕は出入り口をどうにかくぐった。



○次回の予告○

第5話

捜索隊と助けるべき人と助けるべきではない人 後編

















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