第2話 スキルを作るスキルはロマン
『一宮錬がこれから向かう異世界は魔王と六人の幹部が人類を滅ぼそうとしている世界です。彼ら魔族に対抗するべく人類たちは冒険者という役職を生み出し、剣と魔法、そしてスキルを駆使して戦っています。あなたには魔王を討伐してほしいのです』
「絵に描いたようなテンプレ展開だなあ……」
そよ風の心地よい草原に一人座り込み、女神パドラの言葉を思い出す。
どこまでも続く地平線は元居た地球を想起させるが、昼なのに空に浮かぶ巨大な青い月がそれを否定する。
僕は今異世界にいる。
ここがどこかは分からない、目に見える範囲に建造物は無く、少し先に森があるだけ。
まずは人がいる場所に行くべきか。
「っとその前に、ステータスオープン!」
異世界転生したら最初にやること言えばこれ。
僕の叫びに応じて、パドラが出現させたような半透明の電子版が一枚浮かぶ。
――――――――――――
《レン・イチミヤ》
『ステータス』
レベル1
職業:無し
HP:20/20
攻撃力:4
防御力:5
魔力:1
精神力:1
俊敏:4
幸運:8
――――――――――――
見たことのない文字列だが何故か読めた。
「うん、絵に描いたような雑魚だな」
比較対象がいないからこれがどんなものかは判別できないが、きっと弱い。
インフラの整った現実世界で親の庇護下でぬくぬく育った俺が強いはずがないのだ。
苦笑いを浮かべながら、目的はそれだけではないとページを繰る。
――――――――――――
『スキル一覧』
【スキル作成】:スキルを作るためのスキル。
現存するスキルを作るには素材を用い、存在しないスキルを作るには
――――――――――――
説明通り、スキルを作るだけのスキル。
俺がパドラから貰い受けた能力とはこれのことだった――
――よろしいのですか?スキル作成は初動腐りますよ」
「まるで女神が言ったとは思えない良いワードチョイスですね、ナイス非テンプレ。俺はこれがいいです……色々悪さができそうなので」
女神様はなにを言っているのか分からないという風に首を傾げる。
俺には考えがある、くつくつと笑い声を殺しながら異世界への門をくぐり――
――そして今に至る。
液晶に浮かぶ【スキル作成】を触ると、詳細な画面が現れる。
パソコン画面のようにいくつものタブが出現し、タブ一つ一つが【スキル作成】というスキルに内包された能力のようだ。
『スキルツリー』『既存スキルの習得』『未知スキルの習得』……今触れるのはこの三つだけ、他のタブは砂嵐のようになって見ることさえ困難だ。
色々と細かな表示はあるが、一番に目に入るのが
俺は今持っているSPは100。
ちょうど未知スキルを一つ習得できるだけのポイント量だ。
「くっくっくっ……パドラから貰ったスキル一覧には”こういう”スキルは存在していなかった。そして異世界に転生することになって選ぼうとは絶対に思わないし、現地住民が天然で身に付けているとも思えないスキル……」
俺はスキル名の入力欄に文字を書く。
「俺は!金を生み出す能力を身に付けるぜ!!」
中世の世界観とは言え、現実世界と同じく金には価値があるはずだ。
俺はこのスキルを使ってヌルゲーで生きていく!
ポイントが消費されて、ローディングのような表示が浮かんでくる。
その直後、
『ビーッ!そのスキルは既に存在します』
警告音と共にSPは払い戻される。
「あっふーん……まあそういうこともあるか、金だしな。自然物だし、操れたら格好良いし、誰かが持っててもおかしくはないか」
気を取り直して、格好の悪い方のスキル書き込む。
「俺は!香辛料を生み出す能力を身に付けるぜ!!」
中世……大航海時代……香辛料…………当時金と同じグラム数でスパイスは取引されていたと聞く。ちょっと格好はつかないが、それでも十分稼げるだろう。
『ビーッ!そのスキルは既に存在します』
「ええ!?こんなダサいスキル持ってる奴いるの!?……まあ植物を操る的なスキルの派生で所持してるとかあるか。仕方ない、次だ!」
「幸運になれるスキル!」
『そのスキルは既に存在します』
「詐欺がまかり通るスキル!」
『そのスキルは、』
「金持ちから好かれるスキル!」
『そのスキ、』
「じゃあ造幣局を作るスキル!どうだっ、こんなもの習得しようとする奴はいまい……というか今の世界に造幣局があるのかどうか知らないんだけど」
体力の無さから息切れを起こしつつ、頭を捻り叫ぶ。
『ビーッ!』
「駄目かあ……」
『倫理的に問題があるため作成できません』
「なんだその理由!?火球飛ばしたり剣複製したりするスキルの方がよっぽど倫理観ないだろ!なあ!おい!!」
目の前の表示に掴みかかるが、触れないから腕は宙をかすめる。
これが異世界クオリティー。
確かに偽貨幣によってお金の価値が暴落すれば、国家が傾きかねない。
モンスターのいるような世界観だから生まれる倫理の差異を実感しつつ、草原に寝転がった。
「おーい!パドラ―!!女神パドラさーん、スキル別のに変えたいんですけどー!」
当然返事はない。
溜息をつき、払い戻されたSP100の使い道を考え直す。
倫理観に沿っていて、未知である、現状を快適にできるスキル、そんなものはあるのだろうか?
思考にあぐねて、乾いた涼しい風に目を瞑ると、
むにゅ。
ひんやりとしたゼラチン質の何かが顔を覆った。
「なんだこれ」
そのゼラチンをつまみ、目を開く。
ぷるぷると震える体躯、透けて見える水色の球状の液体は俺の手を払って、草原に降り立つ。
それはまるで意志があるかのように飛び跳ねて頬を掠め、切り傷のような痛みが走る。
「うわあああ!?」
スライムがおそいかかってきた!
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