第14話 国家転覆の結末は
コスモス姫が回収されて、勇者を認めない勢力――言うなれば勇者転覆未遂の彼らがこの国の警察組織に連行された後。
「イチミヤ様!是非私に水球を!その絶頂に至る媚薬の塊を全身に浴びさせてください!」
「ローラスさん、さすがにそれはないっすよ」
「呆れられてますか!?」
俺とローラスは修練場で女王の言いつけ通り、彼女を待っていた。
水球はスキルツリーを一切いじっていない為、入手当時と性能は全く変わらない。
媚薬は要するに毒だから生成不可。
さっきは何故か十個近い水球を生み出すことができたが、本来そんなことはできないはずだ。
試しに水の塊を右の手のひらの上に作ってみて……うん、二個目は生成することができない。
右腕に飛び込んでくるローラスを避け、「そおい!」と屋根より高く、遠くへ投げる。
「ああ!もったいない!」
「あれただの水だって。というかどこから媚薬が作れるなんて話になったんだよ」
「誤魔化しても無駄です!聞きましたよ、決闘の際コスモス姫にぶつけたその水は全身の感度を3000倍にして戦闘不能にする媚薬なんでしょう!?ずるいです!私もイチミヤ様にめちゃくちゃにされたい!」
「そんな効果なはずないだろ!?あれは俺が取得したスキルで【姫騎士特効】っていう攻撃が効きやすくなるスキルで、」
「どうしてローラス特効のスキルを作ってくれなかったんですか!?」
「作るかそんなもん」
「でもおかしいですね」とローラスは声色を元に戻して考える。
「お姫様は頬を赤くして、恍惚とした目をして、びくびくと体を痙攣させ、なまめかしい声で鳴いていたんでしょう?攻撃が効いているときの感じじゃないですよね。イチミヤ様の証言と聞いた話が食い違います」
キュルルルと音を立て巻き戻る動画を想像しながら、戦闘の様子を思い出す。
『くひゃっ!』
『ひゃああ!?』
『ひにゃああああんっ!?』
記憶にあるのはいやらしい声を漏らす姫騎士の姿。
……あれ?
格好良く勝ったつもりなんだが、どうも何かが違うな。
もしかして俺やらかしたか?
「ですがご安心を!このローラス、イチミヤ様の言葉が一番!立ち聞きした話などすっかり忘れてあなたを信用しましょう!」
焦りを募らせながら、スキル一覧を開き、【姫騎士特効】の詳細を読む。
【
姫騎士への攻撃が効く、というような文面はない。
ただ『あらゆる行為がよく刺さる』らしい……これ俺やったか?
実は全身を性感帯にして感度を3000倍くらいにするみたいな意味がこの一文にあったのか?
そしてこれから痛めつけた(意味深)の母親と会うことになっている。
まずいぞ、非常にまずい。
相手は国家を動かす文字通りの国の王、俺が大事な結婚前の娘を決闘と称し弄んだと分かれば、今すぐにでも殺されてしまうに違いない。
いや殺されるだけならまだいい、拷問の果て奴隷として売り飛ばされ、死ぬよりきつい生活が待っているかもしれない。
額から玉のような脂汗が浮かぶ。
「おいローラス、一刻も早くここを去るぞ。俺が殺されないために」
「急に何の話ですか?ほうほう姫騎士特効とはこんなスキルだったんですね」
浮かぶ半透明の文字列を見つめながら呑気なことをローラスは言う。
というか、これ人にも見えてるものなのか。
「あの女王に俺このままだと殺されるから!そんな悠長にしてる時間ないから!」
「にしても凄まじいですね。スキル四つ持っている方なんてそうそういませんよ、ホホニプルゾヌくらい珍しいです」
「ほ、ほほに?駄目だ全然聞き取れなかった、それなに」
「【制限解除】ってスキル使ったところ見たいことが無いのですが、これなんですか?」
「なあホホニなんちゃらってなんだよ。なんでそんな純な目をして無視できるんだよ。なあおいって」
反応が無いので仕方なく、制限解除というスキルに目を落とす。
【
「なんだこのスキル」
「自分の所有スキルを把握してないなんてことあるんですか?」
「女王が来る前に確認したときにはこんなの無かったはずなんだけど……まあそういうこともあるか!儲けもんだ儲けもん」
軽く笑ってポジティブに捉えようとしたところ、SPの値が-100になっていることに気付く。
「あーやばい。泣きそう」
「イチミヤ様!?」
「踏んだり蹴ったりだよちくしょう。俺はこんなに頑張ってるのに誰がこんなひどい目に合わせてくるんだ」
「き、気を確かに!深呼吸しましょう深呼吸」
「どうせあれだよこれ特殊条件達成したから得たスキルだよ、テンプレ展開だよ。SPを100も借金して入手経路分かってないポイントなんてどうやって返済すればいいんだよ。マジで泣きそう」
「誰が泣きそうなんですか?」
「「ひやぁ!?」」
よく通る老女の生き生きとした声。
前触れなく聞こえてきたそれに二人で悲鳴を上げる。
背後には疲れを見せない女王の姿があり、ローラスはいつの間にか俺の背後に隠れる。
「ご、ご機嫌うるわしゅう女王陛下」
「慣れないことはよしなさい。この場に関して、私たちは対等であるべきです」
まずいまずいまずいまずい。
この場からどうやって逃げればいいんだ!?戦えばいいのか!?いや相手は女王だぞそれこそ国家転覆じゃないか、テロリストにはなりたくない。どうせ殺れたところで周囲の騎士殿にその場でとっ捕まえられるだけ……いや?
女王は単身でここに来ていた。
国の要人が護衛無しに俺と会っている。
泳ぐ視線に気付いたのか、
「勇者様とお会いするのに騎士に守らせるのは野暮でしょう」
と告げる。
つまりお前如き私一人十分だ、っていうこと!?
「単刀直入に言いましょう。申し訳ございませんでした」
「き、きたっ!?……え、いやなんで謝ってるんですか?」
軽く頭を下げる女王。
その意図が掴めないまま、俺は考えあぐねる。
「俺は殺されないんですか?拷問受けて売り飛ばされないんですか?」
「誰がそんなことしますか!あなたはこの国の勇者様です。あの子の無茶苦茶な決闘に勝ってくださったのに、称賛することはあれど責めることはありません」
「割とあの場にいた人たちに責められたんですけど」
「そうですね。そこからご説明しましょうか」と女王へ告げて、語り始める。
ざっと話を要約すると、
あまり勇者を輩出したことのないロンドリアでは国のお偉いさん方の中に『勇者懐疑派』という派閥がいた。
彼らはコスモス姫をそそのかし、本来観覧できない儀式に多くの人間を参加できるようにした。
ついでにコスモス姫が勇者を倒せば、『勇者の必要ない世の中』を証明することができる。
「彼らは見誤りました。冒険者とは言え、騎士とは言え、所詮は私の娘。あの子がどんなことを考えているかくらい分かるのです……正確には彼女の侍女から聞いた話ですが」
「姫はおしゃべりなんですね」
「才能ばかりあって頭の足りない娘ですから。そこで逆手に取り、潜在的な反乱分子を潰すことにしました。彼らがやろとしたことは国教の否定……宗教国家であれば極刑を免れない蛮行です」
しかし姫騎士たちの思惑通りにはならなかった。
女王の画策、そして俺の勝利によって勝てる試合に負けてしまったのだ。
「つまり俺をだしに使って、邪魔な人材を消したということで?」
「ありていに言えばそうなります」
「よくそんなこと出来ましたね。というか俺が負けたらどうするつもりだったんですか」
「勇者様が勝たずとも彼らを摘発する証拠は揃っていました。私、ドラマチックな展開の方が好みなんです」
口元を隠しながら、腹黒い笑みを浮かべている。
扉を開き俺に決闘を申し込んだ娘にこの親あり、と言う感じだな。
ストーリー仕立てにしないと気が済まないらしい。
「そこでお願いが一つ」
「?」
「コスモスはあまりに世の中のことを知らない。万全を期して窮鼠に噛まれるようでは国の為に何が出来るとは思えないのです。ですから勇者様」
「あなたのパーティに彼女を入れてはくれませんか?」
笑顔で女王は告げる。
俺もにこやかに自分の気持ちを言った。
「絶対に嫌です」
いまさら普通の異世界かよ うざいあず @azu16
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