第3話 ヒキニートVSスライム(大接戦)

 スライムは高く跳ねて体当たりをしてくる。


「うおっ!?いたっ!」


 ふにょりとスライムが当たってきた部分にじんわりと痛みを感じる。


 出しっぱなしにしていた『ステータス』欄の体力が気付けば18/20になっていた。


「こんなので1ダメくらうのか!?うおお雑魚過ぎるぞ俺!」


 つまりあと18回体当たりを食らえば死ぬ計算。


 あれだけの好待遇を受けて、最序盤で死んでしまうとか情けなさ過ぎる。


 スキルの詳細画面を閉じて体力の欄が常に見える状態にする。



「ぐわっ!?あっぶねえ……」



 顔面を狙い跳んできたスライムを紙一重で避け、放物線を描いて地に落ちる。


 弾道を目で追い、次の攻撃に備えるために少し体制を低く、足を開く。


 ごっ。


「なんだこれ?」


 足元にはちょうど持てるかどうかくらいの大きな石があった。


 水切りで遊んでるとその中の一人がふざけて、投げ入れるくらいのサイズ感。



 視線を戻すと、既にスライムは元居た場所にはおらず、目の鼻の先に水色の球体がいきなり現れて「ぬおおお!」その場でブリッジをしてなんとか回避する。


「おのれ!視線誘導とは卑怯な!!」


 スライムを一応非難してみるが返事はない。


「ふっ、まあいい。次の攻撃でお前は息絶えるのだからな!」


 ブリッジ回避をされたスライムはまた起き上がった俺の顔面に単調に跳んでくる。


「ぐっ」


 その攻撃を両腕で受けて、そのまま離れないように掴む。


 逃れようと流動するそれを地面につけ、足で踏みつけながら空いた両手で石を抱える。

 ちょうど持てるかどうかくらいの大きな石。


 ふざけて川に投げ入れるように足元へと投げ落とした!



 べしゃり。



 スライムは押しつぶされて絶命し、まとまりのあった体は粘性のある液体に変質する。

 石にスライムだったものはこびりつき、あたりに散らばっていた。


「け、喧嘩を売る相手を間違えたな……」


 肩で息をしながら捨て台詞を吐く。


『パッパラパッパー!レベルが上がりました』

 ギリギリな効果音と共にレベル上昇を告げる音声。

 




――――――――――――

《レン・イチミヤ》

『ステータス』

レベル1→2

職業:無し


HP:18/20→18/24

攻撃力:4→6 

防御力:5→8

魔力:1→2  

精神力:1→2

俊敏:4→6 

幸運:8→8

――――――――――――





 ステータスも多少上昇し、一部は変動なし。

 幸運はもしかしたら不変の数値なのかもしれない、だとしたら8って低くない?



『近くにスキルの素材が落ちています』



 今度は別の警告だ。

 スキルの素材――既存のスキルを作成するときに要求されるアイテムのことだろう。

 少しかがんで周囲を見回すが、それらしいものは落ちていない。


「……まさかこれじゃないよな」


 石にこびりつく半透明の液体に恐る恐る触れると、『スライムの粘液x1』という表示が出てくる。


 スキル詳細を押して、『既存スキルの習得』を見てみる。





――――――――――――

《習得可能スキル一覧》

【べとべと】:体がべとべとする。

水球バブルボール】:球状の液体を飛ばす。

【痛覚緩和】:痛みをある程度和らげる。

――――――――――――





「なんだこのろくでもないスキル達は……」


 【べとべと】は論外として、【痛覚緩和】は序盤で取得するには少し物足りない。

 見る限り【水球】は攻撃用のスキルだ。

 石で殴りつける以外の攻撃方法が欲しいところ、【水球】を迷わず選択すると、



『ビーッ!スキル習得には素材が足りません』



「ちょっとこの警告音にいらいらしてきたな。なになに?素材ってこれだけじゃ駄目なのか?」


 スキル詳細を開き、必要素材を確認。


 スライムの核x1

 スライムの粘液x3


 つまり核1つと粘液2つが足りないのか。


 重い石をひっくり返すと、そこにはひしゃげたスライムの残骸があり、中央部には割れた黄色の核のようなものがある。

 一応触れてみるが素材の判定はされない。

 レアドロップということだろうか。


 石を持ち、立ち上がる。


 開けた視界には呑気に飛び跳ねるスライムが何匹も目視で確認できた。


 見上げると太陽、というかこの星の恒星はまだ昼前くらいの場所にあり、暗くなるまで時間があるらしい。


 深く息を吸い込み、手近なスライムに向けて石を投げつけ、跳びかかった!

「ぐおおおお!狩りの時間じゃああ!!――



 ――はあ……はあ……ど、どうだ!これが異世界転生者の実力だ!参ったかっ!!」


 並べられたスライムたちの残骸を見ながら、片手を天に突き上げ勝ち誇る。

 突き上げた手でスライムの核を握っていた。


 倒した数は十匹近く、一匹を除いて全てスライムの粘液を落とした。

 物欲センサーめ、実生活でも影響を及ぼしよって。





――――――――――――

 《レン・イチミヤ》

『ステータス』

レベル2→3

職業:無し


HP:11/24→11/28

攻撃力:6→9 

防御力:8→10

魔力:2→3  

精神力:2→2

俊敏:6→7 

幸運:8→8

――――――――――――





 愛用のジャージはボロボロ、汗だくでアドレナリンが出ているから今は何ともないが明日は筋肉痛に違いない。


 レベルは2から3に上がったものの、体力はかなり削られた。


 ただの素材集めのつもりがこんなに苦労するとは……。

 


 相棒の石ころに腰掛けてスキル画面を開く。


 《習得可能スキル一覧》を開き、今度こそと若干の達成感を感じながら【水球】のボタンを押す。



『おめでとうございます。スキル【水球バブルボール】を習得しました』



 合成音声のような波の無い声で祝福されて、体が少し浮くような感覚がして、淡く青い光に包まれる。


 『ステータス』の下、『スキル一覧』には一つ項目が増えていた。


「やった……やったぞ俺は!ここから一宮最強伝説が始まるんだ!」


 口をにまにまさせながら変な高揚感に乗せられて、おかしなことを口走る。


 いやおかしくはないな、本当にここから俺は強くなるのだからなにも間違ってないな、うん。

 

 ありがたいことにスライムはいくらでもいる。


 一匹の跳ねるそれに焦点を合わせて、右手を構える……短く深呼吸をして、カッと見開いた。


「食らえっ!水球バブルボー、」



「きゃああああああああああああああああっ!!!」



 事件性のある悲鳴に驚き、右手から飛び出た水の玉はあらぬ方向へと飛んで行った。


「今のは、森か?」


 遠くはない距離から聞こえたそれに助けるかどうか少し迷って、アドレナリンのよく効いた足を動かした。


 いくらテンプレ嫌いとは言え、人を助けない理由にはなるまい。


「スキル習得直後に襲われるとか都合良いなあ!おいっ!!」

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