第9話 やる気と才能は比例しない

 二人組の男性に全力で謝り倒し、ローラスの首根っこを掴みながらギルドの方向へと歩く。


「もう人様に迷惑かけるんじゃねえぞ。次なんかしたらリードつけてやる」


「リード!?そんなきつく縛って所有権を示さなくても私はどこにもいきませんよでもイチミヤ様がどうしてもおっしゃるのなら不肖ローラスあなた様のペットになりますわん!」


「絶対付けないって今決めたぞ、なんだその目は期待するなやめろっ!俺にそんな趣味はない!」


 しょんぼりした彼女と共にギルドの重い扉を開く。


 俺の顔が見えた途端にわっと歓声が上がり、口々に「よっ勇者様!」「魔王討伐の新エース!」「やっぱローラスの選択は間違ってなかった!」と言葉を投げている。


「な、なんだこれ」


「私たちの新たな門出を祝福しているんじゃないですか?」


「うん言い方が悪い。多分そんな感じだと思うけど」


 ギルドに二人同時に顔を出すのは初めてだったから、「おおあれが例のカップルか」みたいな感じだろうか。異世界は海外モデルだしリアクションの大きさも頷ける。




 大きな胸のカウンターのお姉さんが駆け足でこちらに近づいてくる、いやおっぱいでっか!


 カウンター越しだから分からなかったけどこんなに大きかったのか。


 おいおいそんな大きさでそんな見えちゃってていいんですか?どうせだったら俺が支えてあげるのもやぶさかではな、


「イチミヤ様?」


 凍るような鋭い声。


「は、はひ」


「イチミヤ様は小さい方がお好きですよね。壁フェチですよね、牛脂フェチじゃありませんもんね」


「おっしゃる通りでございます。ぺちゃぱい以外に興味などあるわけがございません」


 横に立つローラスはボロ布に隠した短剣をゆらりと光る刃をこちらに見せつけ、有無を言わせない。


 俺の言葉を聞いて氷のような表情はゆっくりと溶け、にへらと笑う。


「んもうイチミヤ様の意地悪ぅ!牛脂なんて直視せずともここにあなた好みの平地がございますとも!今お確かめになってもいいんですよ?」


「あははは……今は人目があるからね。後でゆっくりね」


「は、はい!」


 満足げに元気よく返事する彼女と対照的に、今の一瞬でぐったりする俺。


 あれはメンヘラじゃないな、ヤンデレだ。




「イチミヤさん!お待ちしておりました!」


「お待ち?イチミヤ様、まさかこの牛脂と待ち合わせしていたのですか、」


「いやあすみませんね!わざわざギルドカードの完成を知らせるようにお願いして!!ギルドの事務的な作業ですよね!!公的な仕事を!!」


 お姉さんは「ぎゅうし?」ときょとんとしている。


「なあんだギルドの方でしたか。てっきりイチミヤ様を狙う不埒な方かとついうっかり勘違い」


 ハイトーンの消えた瞳に光が灯る、あっぶねえ……。


「ローラスさんとは何度も話してるはずなんですけどね」


 苦笑気味に呟き、「そんなことより!」とお姉さんは俺にカードを渡した。


「おお!これが!」


 完成したそれには『ステータスオープン』させたときの電子版に書かれた情報とほぼ同じことが載っていた。





――――――――――――

 《イチミヤ》

『ステータス』

レベル4

職業:勇者


HP:9/31

攻撃力:11 

防御力:12

魔力:3  

精神力:3

俊敏:9 

幸運:8

『魔法』


『スキル』

【スキル作成】

水球バブルボール

――――――――――――





「おお、いつの間にかレベルが一つ上がってるな」


「モンスターを倒さずとも苦難を乗り越えれば経験値が溜まるのです。今回は狼から逃げ回ったのでその分経験値が蓄積されたのでしょう」


「へーそんな仕組みなのか」


「あのっ」


 つまり俺は今まで苦難の一切から逃げてたからレベル1スタートだったのか……なんというか心にクるな。


「にしても低いなあレベル」


「大丈夫です!私がこれからはお守りするので!そして強くなったら私を守ってください!」


「聞いたぞ、お前めっちゃ強いらしいじゃん。追い付けるかねえ」


「あの!」


「チッまた余計なことを」


「ローラスさんローラスさん、もっと舌打ちは聞こえないようにするものだよ」


「やだあイチミヤ様のえっち!乙女の破裂音聞かないでくださいよ!!」


「乙女の破裂音ってなんだよ」


 半笑いで突っ込む、それをかき消すような声量でお姉さんは叫んだ。



「あの!!まだ見るところありますよね!?」



「まだいたんですか牛脂」


「その牛脂って呼び方やめてください!とにかく職業の欄見てください!」


 カードを身長の低いローラスにも見えるように持つ。


「本来職業は各々の適正を見て書き加えるものなんですが、たまに魔道具アーティファクトがユニークジョブを勝手に入れてしまうんです。大賢者や悪魔喰らいハートイーター、剣豪……そして勇者」


 お姉さんの言っていることを理解して、俺は表情を渋くさせる。


 対してローラスの瞳はきらきらとしだし、感情を抑えられなくなったのかぴょんぴょんと跳ね回る。


 ギルドカードの職業欄には、なんど瞬きをしても『勇者』と書かれていた。


「嘘だろ……俺が勇者?」


「本当です!」


 お姉さんの言葉を皮切りに屈強な冒険者たちはいっそう盛り上がり、俺たちを取り囲む。


「本当に……本当に勇者様!勇者になったんですね!!私は、私はとっても嬉しいです!!」


 ローラスは涙ぐみながら笑顔を見せる。


 「うおおお胴上げじゃああ!!」誰かがそんなことを言い出し、冒険者たちは俺を持ち上げた。



「「「わーっしょい!!わーっしょい!!」」」



 信じられない高さまでなんども持ち上げられる俺。


「はは……やったあ」


 呆然としながら形上は喜んでおく。


 だが一言だけ言わせてほしい。



「ご都合主義も大概にしろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



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