第6話 勘違いヒロイン
やすやす転生者だと身元を明かすのは異世界転生におけるご法度とされる。
ま、一つのお約束というかテンプレだ。
そして俺はテンプレが嫌い。
「テンセイシャって……」
目の前で不思議そうに小首を傾げる少女、ローラス。
そりゃテンプレに沿わない展開にもっていくのは当然のことだろう。
「転生者、というか定義上転移者の方が近いな。でも女神が転生者って言ったからそれでも問題ないと思う。俺はここではないどこかの世界からやってきた、異世界から転移してきたんだ」
「転移なんて、でもどうやって」
「ふふふ……女神パドラに選ばれたんだよ」
「なっ!」
目を見開き驚いている。
パドラはこちら知名度のある女神らしい。
さすがにトラックにはねられてこちらに来ましたとは言わない、恥ずかしいからね。
「ととと、ということは勇者様が私を救ったの!?」
「勇者、か。そんな呼び名も悪くないな……」
「すごい!転生者すごい!!さすがイチミヤ様!!」
「はははよせやい、俺は当然のことをしたまでさ」
「やっぱりあなたが私の運命の人!間違いない!!狼の群れから救ってくれた私の王子様!!」
「あっはっはっは!……ちょっと今なんて」
「私の王子様って言ったんです!何度でも言ってあげます、ああ私だけの王子様!意味なくロ―ウルフの群れに襲われていた甲斐がありました、これは運命の女神パドラ様の思し召し、これから私はイチミヤ様の伴侶として旅を共にし、お世話をするのです……もももちろん下の世話まで……きゃっ、なにを言わせるんですか。もっとお互いを知ってからですよへへ、えへへへへ」
顔を赤くし、体をくねらせながら、ローラスはぐるぐると目を回している。
マシンガントークについていけない。
脳裏に浮かぶ新たなテンプレの可能性に冷や汗をかきながら、問い質す。
「あのローラスさん?」
「はい、あなたのローラスですっ!」
ずいと顔を近づけ、不気味にも見える笑みを見せる少女。
「一つ確認しておきたいんだけど、もしかして……俺のこと好き?」
耳を赤くして上目遣いでおずおずと呟く。
「言わないと分かりませんか?好きですよ、イチミヤ様」
俺はテンプレが嫌いだ。
『たかだか命の危機を救ったくらいで惚れてしまうちょろいヒロイン』も例外ではない。
彼女の細い両肩を掴み、説明する。
「ローラスさんよ、今の気持ちはいわゆる勘違いというやつだ。人が人をそんな簡単に好きになれるわけないんだよ。というかさっきの救出劇見てた?そりゃあもう情けないぜ、狼数匹にあのザマだ。考え直そう俺よりずっといい人がいるはずだ、もしくは俺のことをきちんと知ってから自分の気持ちを考え直すべき」
「もうイチミヤ様ったら強引なんだから。そんな私の肩を強く掴まずともこの体既にあなたのもの、」
ボロ布から見える白いふとももの奥、布で隠れていた部分をはだけさせようとする彼女の手を力づくで止める。
「何を勘違いしているんだ!?」
息荒げに止める俺を見て、ローラスは泣きそうな表情に変わる。
「もしかしてイチミヤ様は私のことが、お嫌いなんですか……?」
もう半泣きだ。
「嫌いじゃない!嫌いじゃないんだけどさ、もうちょっと冷静に考えて結論を出した方がいいと思うんだよ。言っておくがさっきの救出劇が俺の格好良さのピークだ、そこからは下がる一方だぞ」
焦って言葉を紡ぐ俺に微笑ましそうな笑みを浮かべるローラス。
「私はイチミヤ様がどんなお方でも気にしません。自分の好きには責任を持ちます」
「いやだから恋愛なんてそんな深く考えなくていって……もういいや、言っておくが俺はお前を特別扱いしないからな!全然普通に接するからな、どうせ幻滅するだろうから先に行っておくぞ」
「接するだなんてイチミヤ様は気が早いんですからっ!」
「もうなんでもありだな!?」
立ち上がり伸びをする。
「さっそくで悪いんだけど、街の方向って分かる?」
「街ですか?」
「あーいや村でも良いんだけど、とにかく人のいる方向。ギルド的なものに登録してクエスト受けて日銭を稼ぐってのが転生者の通例だから」
要はテンプレ。
苦渋の決断だが、これに準じないと話は進まないからな。
「ふむ、では私の住む街に行きましょうか。壁の都ウォータルに!」
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