白輝伝・出会い
らくしゅ
第1話 屋敷跡
時が流れ町並みが、慌ただしいビル街に姿を変えるなか。
その場所だけは、時を忘れ全ての者を拒絶しひっそりと静まり返っていた。
樹木が生い茂り朽ち果てた屋敷が、残るその土地に新たな時の流れが、動き出したのはバブル景気が去った夏の終わりだった。
二百年に渡る血筋最後の老人が、亡くなり彼の唯一の財産である土地・五千坪を貰い受けた遠縁の者達は、都内の一等地にもかかわらず、急ぎ不動産業者に売り渡した。
地盤の悪い不良物件といぶかる業者に、曖昧な態度で応える縁者達…不審を感じたものの格安の売値と経済的に維持出来ないと言う相手の返答に業者は、買い付けの契約を交わした。
秋風が吹き始める頃には、大型の土木機械が入りビルを建てるための地盤作りが始まった。
その日は朝から掘削機の調子が悪く、工事は夕方まで続いていた。
ライトの明かり・工事現場が作り出す騒音の中・男は携帯電話に向かい声を張り上げていた。
「だから・・出たんですよ、社跡にそうあの言い伝えですよ。いまさら祟りなど、ないとは言っても気持ちの良いもんじゃないし現に埋めた物が、出てはね」
「監督~遺跡や貝塚だとまずいんで、手堀に変えるそうです。掘り出すから…立ち会ってくれって、言っています」若い作業員が男を呼びにきた。
監督と呼ばれた男は携帯に向かい
「とにかく‥急いで来てくださいよ。この時間帯は、環状6号の方が空いている筈なのでそちらに回って、場所判りますか。はい、連絡は先程の番号でこれに繋がりますからそれじゃよろしく」
監督は切りのボタンを押し携帯を胸のポケットに収めながら青年に尋ねる。「なにが出た」「とにかく見てくださいよ」
重機が止められライトの明かりが、一点に集中する大きな穴の中8人程の作業員が、埋没品に付いた土をホウキで落としていた。
それは奇妙な光景だった。
直径二十センチ高さ六十センチ程ある陶器の壺を対角に置き半坪程の広さに六角型の空間を作り、その中に大小さまざまな岩が五個埋まっていた。壺と岩にはそれぞれ黒い細縄が十文字に掛けてあった。
「どうします。監督」助監督の青年が、記録用のデジカメの電源を入れ穴の中より埋没品を指差し指示を仰ぐ。
「本社で頼んだお祓い屋に電話したが、夕方の渋滞で動けないとさ。環6に回って来るよう言ったが遅くなる…とりあえず現場記録を撮影したら全部引き上げて、工事を進めよう。しかし今日は厄日かぁ」
掘削機が調子悪く作業が進まない上に埋没品騒ぎで、予定がますます遅れる。監督は眼下の埋没品を見て近くにある飲み屋のオヤジの話を思い出した。
『この付近は昔から鬼伝承が多くてお客さん達が、工事している場所には鬼を封じ込めてあるとじいさんからよく聞かされてましたよ』
敷地内の社下に鬼が眠る。ただの言い伝えと思うが、社跡を掘り返してから発見した物を見てからは、何故か薄ら寒さを感じていた。
「現代に蘇る鬼か…まさかね」
有らぬことを口走り男は、ひとり苦笑しながらプレハブの事務所へと向かう。男の背中に元気な声が響く。
「それでは、壷から掘り出してください」助監督の青年が、元気よく掛け声を上げる。それを合図に止められていた作業機械が唸りを上げ回り出し作業が再開された。改
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