第15話 洸と絖守

突然まばゆい光と同時に轟音が、鳴り渡り大地が、共鳴する。驚き白蛇にしがみつく子供達。


「やれやれ、やっと来たか」

白蛇は結界を解き虚の外へと出る。目前には、嵐鬼が落とした雷に焼け焦げた妖魔の死骸があった。


「みんな大丈夫~すごい雨降りだね。嵐鬼の雷落としもすごかったよ」


上から興奮した洸が、嵐鬼に抱かれ降りて来た。


「老が体を張って、頑張ってくれた。おかげで子供達は無事じゃ。久しぶりに見るお主の技も見事なものじゃな…嵐鬼」


嵐鬼より降りた洸が、黒焦げの妖魔に近づく。誰もが妖魔の死を確信していたその瞬間それは、三つの眼を開け洸に襲いかかった。


嵐鬼が、体当たりで阻止するが、間に合わず妖魔は、洸の両肩を地面に打ち据えた。焦げ臭い匂いと妖魔の体臭が混ざり合う悪臭に咳き込む洸。


嵐鬼が、洸を押さえ込む妖魔の首に腕を回し引きはがそうと頑張るが、逆に腕を捕まれ降り飛ばされ水飛沫をあげ着地する。


洸は両手の平に気を集め妖魔の顔に弾気を打つ。ひるむ妖魔その隙に逃げるが、足を押さえられた洸は、バランスを崩しうつ伏せに転び泥水に頭から突っ込む。背中に妖魔の重みを感じ逃げようと足掻くが足を捕まれ動けない。


「頭をさげろ」


兄・霞の声が、聞こえヒュウと鉄球が飛んで妖魔の顔面に当たる。


念糸で鉄球を操り妖魔を遠ざけながら霞が叫ぶ。


「額の眼が弱点だ・洸…楠木の力を使え」宮継直系の嫡子のみが、受け継ぐ能力は、霊木楠から溢れる巨大な気の力を自らの体に纏い力にし敵を倒し霧散させることが出来た。


「楠木よ。我に力を」瞬時に足元から白く輝く光の帯が、洸を包む。溢れる霊気を手の平に集め妖魔の眼をめがけ弾気を打つ。


悲鳴をあげ霧散する妖魔に、ガッツポーズを決め喜ぶ洸。


「危ない」誰が横から飛びつき洸は、またも泥の中に転がった。


いままで洸が立っていた場所には、新たな妖魔がいた。逃げた獲物を探していた妖魔が、泥の中に洸を見つけ狙いを定めジャンプする。


「洸くん…こっちだ」声の主に抱えられ妖魔の攻撃をかわした。声の主は松ガ原まで妖魔を追いかけてきた榊だった。


新たな妖魔は、封気師達の包囲と張り巡らされた結界に追い込まれたものだった。父と見知らぬ封気師達も妖魔を囲い攻撃をかけているが、強靭なジャンプ力と素早い動きに苦戦していた。


「額の天眼が、弱点です。天眼さえ封じられれば、天眼鬼の動きは、鈍ります」岩代が、安住野の報告を皆に伝える声も聞こえてくるが、雨音が邪魔をする。雨足が、さらに強まり視界を悪くし足元が、滑りやすく皆苦戦していた。


洸と榊を狙い執拗に追いかける天眼鬼に、嵐鬼が、雷攻撃を仕掛けるが、逃げられる。狙いの外れた放電が、水を伝い周りの者に通電し逆に被害者が、出てるため嵐鬼の攻撃は中止となった。


「うぅ…足が〜ビリビリする」洸が電撃に合いピョンピョン跳ねる。洸達を見つけた岩代が、近寄り攻撃案を申し出る。榊・岩代で天眼鬼の注意を引き付け洸が、留めを刺す段取りだが自信がない。


「弾気の練習を思い出して、気を集中。額の目を狙ってください」


弾気の師匠である榊に励まされ攻撃を開始した。榊がおとりになり岩代・霞が、念糸で天眼鬼の自由を奪う。洸は手の平に気を集め渾身の力で、天眼鬼の額目掛け弾気を打った。


弾気は真っ直ぐ天眼鬼額に当たると思われたが、右腕で弾かれ運悪く楓の根元にあたり楓の幹と土をえぐり虚の中まで破壊した。


弾気が当たる瞬間・白蛇が結界を張り子供達を守ったが、衝撃により外へと弾き飛ばされた。


ニ太を庇い白蛇は、立ち木に叩きつけられ気を失い倒れた。一太は、嵐鬼に受け止められ、かすり傷は、あるが無事だった。「じぃじが…」


嵐鬼の腕から逃れた一太が、慌てて楓に駈け寄る。かなりの痛手を受けていた楓だが、心配する一太に枝の上より応える。「大事無い…ニ太はどうした」


意識のない白蛇にすがるニ太が、胸元に気がつき叫ぶ。「いもうと…いない」ニ太の胸元に抱かれていた妹狐が、飛ばされた衝撃でいなくなった。


一太は虚が、あった場所をみるが、弾気は、虚付近を破壊し楓の根元に大きな穴を空けていた。妹の気配を探し、必死に飛ばされた残骸を探したが、妹は見つからなかった。


天眼鬼が、一太を狙いジャンプする。間一髪で嵐鬼が、一太を助け榊に預ける。


「いまは危ない」「でも妹があの中にいる。助けなきゃ」榊の手を振り解き、妹を助けに行こうとする一太。


側には弾気が、はずれショックを受けた洸が、泥の中に座り込んでいた。一太は、洸に近づき叫んだ。

「早くあいつを倒して、あいつのせいで…妹が…」


泣きながら洸にすがる一太の肩を優しい手が、触れる洸の父・絖守だった。


「遅くなったね。すぐ終わるから…洸…座っていないで、手伝いなさい」

絖守は、もう一匹の天眼鬼を葬り他の封気師達と駆け付けたのだった。


「わたしが、おとりになります。奴をここまで追い詰め動きを止めてください」


足が、少し不自由な絖守は、天眼鬼を追うことが、出来ず自らを餌に天眼鬼をおびき寄せる作戦を皆に伝える。


封気達が、絖守の指示を受けているころ、天眼鬼は木の上で様子をうかがっていた。


間もなくひとりを残し他の人間が、姿を消した。チャンスを逃さず天眼鬼が動く。


「来るぞ」意識を取り戻した白蛇が、楓の枝から様子を伝える。


無防備な絖守を襲う天眼鬼。


周りで息を潜めていた封気師達が、各々の術で攻撃を開始した。罠に気づき逃げる天眼鬼の額に榊の弾気が、当たる。その時を逃さず絖守が叫ぶ。


「楠木。我に力を」宮継家屋敷奥の楠木の霊気が、ふわりと応える。瞬間足元から真白き光が、絖守を包む。


両手で構えた刀身に楠木の力を込め挑みかかる天眼鬼を上段の構えで切りつける。バサリと音を立て霧散する天眼鬼。


ぐらりと倒れ込む絖守を榊が、抱き支える。幼少より病弱な絖守には、霊木の霊気は、強過ぎ体に負担が掛かっていた。


「大丈夫ですよ」「無理をさせました」「宮継の勤めです。気にせずに…んっ」絖守の足元に溜まる泥が、モゾリと動いた。


人型がパチクリと瞬き絖守を見つめる。泥だらけの小さな手を絖守に向け泥人形が泣き出した。


泣きながら泥水の中を絖守に向かい這い進むその声を聞きつけた一太・ニ太が叫ぶ。


「妹…白蛇…妹いたよ」それは死んだと思われた妹狐だった。


泥の中から抱き上げられた妹は、一才ほどの赤ん坊の姿に変わり、顔の泥を雨水で洗い落としてもらっていた。


絖守に抱かれた妹は、駆け寄る兄達・洸を見つけ笑顔で笑った。


「いもうと…おおきくなった~」妹を抱く絖守の回りをピョンピョン飛びはね喜ぶニ太を見た封気師達は、どっと笑う。一緒に笑った洸が、安心して本音を漏らす。


「よかったぁ~さっきは弾気に当たり死んだと思ったよ。でもどうして消えなかったの」

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