第14話 雷雨
「お腹すいたぁ…あれ…お客さん」
一太達と別れ空腹を抱え、通学路の倍の距離を自転車で走り帰宅した洸は、クタクタだった。
やっと辿り着いた我が家の通用門を抜け広い駐車場になっている玄関前で、客の車を見つけ誰の車かとのん気に眺めていると突然耳を強く引っ張られた。
「あたたたっ…痛いよ。白蛇ぁ」
「のん気に板倉の車を覗き見しおって、さっさと来い。子供達が大変じゃ」
「えっ…チビ達が、どうしたの」
「榊達が追っていた妖魔が、子供達を襲っている。絖守に連絡したが、駆けつけるまで時間が、掛かるそうじゃ。お前が妖魔退治をやれ」
「やれって…」
「弾気の練習はしておろう。今日が実践じゃ、頑張れ。妾は先に行き時を稼ぐ早う行け。嵐鬼あとを頼む」
白蛇の呼びかけに、バサリと何かが音を立て屋敷屋根から降りてきた。
薄水色の肌に濃紺の髪を持つ人型の妖魔が、ふたりの前に降り立った。
洸の父・絖守の守護妖魔である嵐鬼だった。心構えもない内に嵐鬼に抱かかえられ来た道を空から戻る事となった。
「いま安住野が、妖魔の弱点を探しておる。絖守が来るまで頼むぞ」
そう叫ぶと眼下の白蛇は、移動空間に消えた。嵐鬼は背中の翼を強く羽ばたかせ更に上空へと上がった。
足元がぐんぐん小さくなり屋敷全体が、見渡せ広大な敷地の入り口付近に母屋の明かりが見える。そのおく敷地中心が、闇の中ぼんやりと光っていた。
宮継の別名・楠木さまの由来となる霊木・楠木の霊気が、闇を淡く照らしていた。
十分に高度を上げた嵐鬼が、目的地を目指しスピードを早めた。ブルッと身振いした洸を気遣い訪ねる嵐鬼。
「洸、寒いか」「大丈夫、もっと早くして、チビ達が待てる」
いつのまにか空の月は、雲に隠れ遠くから雷鳴が、聞こえ始めていた。
楓が頑張いるおかげで、一太達はまだ無事だったが、妖魔の執拗な攻撃は続いていた。虚の中で移動空間より肩から上だけを出した白蛇が、一太の髪の毛を抜き取り待っておれと姿を消した。
枝の上で霊気を使い妖魔の攻撃の邪魔をしていた楓のそばに、白蛇が姿を現す。
「老…妖魔を引き離すゆえ。いま一度結界を張り直してくだされ」
白蛇が、手の甲から鱗を数枚・剥がし一太の髪の毛を挟み、息を吹きかけると一太に似た移し身が、三体・姿を現した。
「行け」白蛇の命令に移し身は、うなずくと、妖魔の前に降りた。
新たに現れた獲物に飛び掛かる妖魔。移し身はするりと逃げ遠くへと妖魔を誘う。妖魔の興味が、完全に移し身に移動したことを確信した白蛇は、その姿を幼い少女に変えた。
「妾が虚の中より結界を張りまする。老は外より、まもなく洸が、参ります。それまで頑張ってくだされ」
楓の外皮は、妖魔の攻撃で無残にもそぎ落とされ辺りに飛び散らばっていた。
「子供達が、助かればよい。ワシは大丈夫じゃ、急げ奴が、戻って来るぞ」
移し身の術は、あまり遠くには掛けられず術の効果が切れ・再び獲物を求めた妖魔が、楓の方をうかがっていた。白蛇は急ぎ虚の中に入り結界を強く張った。
「待たせたな、もう大丈夫じゃ。すぐに餌が、やって来る。奴の関心は痩せたお前たちから洸に移る。後はじっとここで、騒ぎが収まるのを待てばよい」
「白蛇どうして、ちさいの」泣き続けて腫れたまぶたをしたニ太が聞いた。
「ここに入れないからの。大きくもなれるぞ」虚の中は白蛇が、入り少し窮屈になったが、白蛇の笑顔に安心したニ太は緊張を解く。
外から恐ろしい咆哮が、響き聞こえた。獲物の気配を完全に見失い怒りに震える妖魔が、辺りの立ち木を打ち倒し暴れ始めたのだ。雨が降り始め強い雨音が、聞こえる。
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