第16話 再会を願い

「洸くんの弾気の霊気を吸収したのでは」岩代が、ひとつの仮説を言う。


「子供達の話では、栄養不足で成長が、止まっておったらしい。妖魔のなかには、子に自分の霊気を与える者もおるから、考えられるの」


白蛇も同じこと言う。結果よければ全て良しで、その話が、終わったとき楓が、枝から降り絖守に会釈をする。絖守も挨拶を返す。


「白蛇の主とみて、お願いしたい。どうか・その赤子の名付け親になってくだされ」

「はい…よい名を付けましょう」絖守は快く承知した。楓はさらに続ける。


「子供らは二親を無くし、儂はこの有様。どうかこの先子供らの親代わりをして頂きたい。お願いいたします」そう告げると深く頭を下げた。


「はい…賑やかになり洸も喜びます」一太の肩を抱き寄せ洸が、笑い一太もほほ笑んだ。


楓はすうっと枝に上がり嵐鬼を見た。

「青き同胞よ。おぬしの雷の力で儂を切り裂いてくれぬか」その場いた皆が驚きざわつく。


「一緒にうちに行こうよ」「じいじ…いやだよ」叫び楓の下に駈け寄り幹に抱きつく子供達と洸。


「もう長くはもたぬ。せめて見送ってくれ」深くえぐれた根元、傷つき剥ぎ取られた外皮。誰の目にも枯れる運命がみえた。


「わかりました」絖守が、静かに応えた。「子供達のために、あなたの枝をください。屋敷に植え一緒に育てたいと思います。霞…頼みます」

霞が、放つ念糸は、細く強い。


霞は手近かな枝に念糸を絡め何本か切り落とし一太に手渡した。

楓の運命をどうすることも出来ないことは、幼い一太にも判り黙って枝を受け取った。


「皆…安全な場所まで下がりなさい。嵐鬼」絖守の呼びかけに嵐鬼が、去り行く雨雲を呼び戻した。


間もなく雨と共に雷雲が近づく。嵐鬼が、右手を高く上げおろす。眩い光と轟音が、鳴り響き。雷が楓を切り裂き炎が上がる。燃え出した楓の本体から薄紫色の気が、ゆるりと立ち上りはじめたのを見定め絖守は、白蛇にうなずく。


白蛇は、散り消えようとする楓の気を集め手毬大の球体を作り自らの気で封じ込めた。それを泣いているニ太にそっと持たせる。


「また会える。泣くな」薄紫色の珠をぎゅっと抱きニ太はこっくりとうなずいた。


あれから月日が、経ち毎日響き渡るニ太の泣き声が、聞こえる宮継家。


人との生活に慣れ少々わがままになった弟を叱る一太の声も聞こえる。


花と名付けられ妹は、すくすく育ち絖守に抱っこをせがむ甘えん坊になっていた。


その日三人は、絖守達に連れられ屋敷裏に来ていた。


そこには、切り落とされたあの楓の枝が、大地にしっかり根を張り生きていた。


まだ折れそうな細木の根元に薄紫色の球体を二太が、置き絖守が、玉の表面に軽く触れると玉は弾けた。


霧散した薄紫色の気は、若木の根元・枝や表皮に吸い込まれた。


洸が進み出て楓の細枝に触れながら楠木を呼ぶ。「楠木…我に力を」

瞬時・昼の陽より眩しい光が、足元から溢れ洸と楓の若木を包む。


「老…おりますか」

白蛇が、楓に問い掛けると若木の前に薄紫の衣を着たかむろ頭の少年が、姿を現した。


ゆっくり瞼を開け周りを見回し子供達の姿を見つけほほ笑む。


「一太・ニ太…儂は消えなかったのか」楓は絖守に視線を移し尋ねる。


「うまく転生出来ましたね。いまは楠木の力を借りていますが、数年すれば霊力も付き自由に会えますよ」


まだ細い我が姿を眺め楓はうなずき、自分を取り囲み笑いかける皆に明るく告げる。


「…また会おうぞ」


楓は再び眠りについた。それは小春日和の穏やかな日だった。完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白輝伝・出会い らくしゅ @tomi20184

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画