第11話 乱入者

楓の根元付近では、闇に光る四つの瞳が、妖狐の子供達が、耳をピンと立て結界前をウロウロする洸の動きに合わせ頭を左右に動かしている。


洸が右に動けば、頭を左に止まれば動きを止める。首を傾げれば一緒に傾げる。


子供達の愛らしい動きに声を上げ笑い出しそうになるのを洸は、必死にこらえた。しかし注意深くこちらの様子を伺っている態度を見るとただ一つの言葉が、浮かんで来る。


『めちゃ…嫌われているなぁ』

危害の無い事を判ってもらい比処へ来る途中で買って来た厚揚げを早く子供達に食べて欲しいと思うが、警戒心むき出しの態度ではうかつには近寄れず、移動空間が、ある場所をただ見つめるばかり。


「白蛇ぁ…早く来てよ」まもなく移動空間が、ゆらりと揺れた。


「白蛇ぁ~遅いよ」ひとり置き去りにされ不安だった洸は、移動空間へと駆け寄るが、出てきたのは白蛇ではなくリスに良く似た妖魔だった。


「あれ黒曜・お前…どうして…あっコラ行くな」洸の肩に乗り移り辺りの様子をうかがっていた妖魔が、突然・背中の羽を広げ真っすぐ子供達のいる結界へと飛んだ。


「おい待てよ。結界に入るな」

あわてて後を追いかけるが、妖魔はラクラク結界の中へと飛んでいってしまった。


「あちゃ…まずい奴が、来ちゃった」

十年前・洸が幼稚園より帰る途中ゴミ収集場で拾った妖魔・黒曜は、仲間と屋敷裏の森で暮らしていたが、いつの間にか洸の部屋に住み着き・屋敷の中で飛び回り障子を破るなどの失敗で毎日・霞や洸に怒られるが、思考能力がニワトリ程なので怒られた事をケロリと忘れ、また同じ失敗を繰り返していた。


通常妖魔は自分の霊力より弱い結界への出入りはできるが、自分より強い霊気の結界には入れない、しかし黒曜はどんなに強力な結界でもラクラクと侵入出来た。


突然の侵入者に子供達が、悲鳴を上げる。慌てて洸も結界に踏み込み楓の根元に駆け寄る。


黒曜は脅えるふたりの顔・手・足と騒がしく匂いを嗅ぎまくり初めてみる仲間の確認に忙しかった。


恐怖に体を堅くするふたりにごめんねと笑顔で謝り。落ち尽きなくウロつく黒曜のしっぽを取り押さえ逆さにぶら下げる。


「オイいい加減にしろよ。チビ達がびっくりして泣いてしまったじゃないか」「洸・ヤメテ黒曜イヤ」


羽をバタつかせ暴れる黒曜を両手で抱き直し「言う事を聞かないなら森に帰れ。ひとりで寝ろ」


大好きな洸が、怖い顔をして森へ帰れと怒る。黒曜は、洸の手をすり抜け小さな耳をペッタリと伏せ左肩にギュッとしがみつき頭をあごに擦りつける。黒曜がいつもするごめんねの仕草に自然と笑顔になる洸だが、止まらない黒曜のスリスリ攻撃に再び洸が爆発。


「もういいよ。判った…判ったからオイいい加減にしろ」黒曜は慌てて高い枝に逃げるが、今度は楓の精霊にびっくり慌てて洸の胸元に逃げ込む。


黒曜に続いて楓の精霊が、枝から舞い降りて子供達を庇い洸の前に立ち塞がる。


「二太…じぃじが、守ってくれる。大丈夫だから」


侵入者に驚き脅え泣き止まない弟をなだめる兄の声が、泣き声に重なり聞こえる。やがて泣き声が、小さなしゃくりに変わり虫の音が、聞こえはじめた。


「あの …」重苦しい沈黙を破り洸が事情を説明しょうと口を切った時、白蛇の怒声が響く。


「この馬鹿者ども」何事と振り向いた洸が見たものは、移動空間に妖魔を押し込む白蛇だった。


「洸そちらに二匹いった。捕まえてくれまったく油断も隙きも無いとはこの事じゃ」


白蛇は、トカゲに羽が生えた小妖魔を押し込み移動空間の入り口を手の平で撫でる空間が、大きく波打ちそして消えた。


移動空間から飛び出した妖魔達は、真っすぐ洸の後ろに隠れ怒り狂う白蛇から身を隠した。



小さく身を縮める妖魔と怒りで顔を歪める白蛇を交互に眺めヒソヒソ声で足元の妖魔に尋ねる。


「白蛇が怒っているけど何か悪いことしたのか」妖魔達は、首を左右に振り否定の態度を示した。


「ちょっと目を離し出掛ければ、家人がおらぬ屋敷に入り込み悪さをしよる。霞が準備したそなたの夕餉のおかず食われたぞよ」


妖魔の顔をよくよく見れば口元にケチャップを付けていた。洸は無言で妖魔達を取り押さえ三匹まとめて白蛇に差し出す。白蛇は小さな移動空間を開け三匹を屋敷へ帰し空間を塞いだ。


そして騒ぎで乱れた髪を手漉きで直し軽く呼吸を整え楓の妖霊に近づき丁寧に一礼した。

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