第12話 楓と白蛇
楓の妖霊に近づき丁寧に一礼した白蛇が、初礼を陳べる。
「お初に御目文字申す・妾の名は白蛇・こちらの童は、主が嫡子・宮継洸まだ未熟者ゆえ、老には迷惑をお掛け申した」
「儂はこの木に宿りしものだが、そなた達は、何ゆえに我が領域へ踏み込む」
「こたびの騒動ご立腹なされるのは、もっとも。しかしこの洸が、結界を侵したのも事情がある為、せめて話を聞いては頂けないか」
「良かろうで…その話とは」
「これ洸…妾を呼び寄せ・結界を侵した事情を申せ」
ふたりが、交わす時代劇のよう様な会話をぽんやり側で聞いていた洸は、白蛇に脇腹をつつかれ慌てて話を始めた。
「あ…あの…この近くに道路と体育館を建てる工事が、始まるんだ。工事が始まるとトラックや機械…それにたくさんの人が来る。ここに居ちゃ危ないよ。どこか安全な場所へ逃げなきゃ。もし行く所無ければオレの家に来て…裏の森にはチビ達の仲間が…たくさんいるから、じぃじさんも家に来ればいい。おれの家広いから好きな場所に住めばいいよ」
近づく危機を知らせ逃げ場所を提供する洸の顔を楓の妖霊は、悲しそうに見た。
「近頃よく人を見かけると思うておったが、比処にも人が、入るか。古よりこの土地を守っておったが、もはや…儂の力は及ばず」
妖霊は明るい街の方角に視線を向け遠くの喧噪を聞く様にしばらくじっとしていたが、視線を虚の側にいる子供達に移しそして白蛇を見た。
「先程の話・誠の事と信じてよいか」
「妾も初めて聞く話だが、洸は嘘をつかぬ。信じて頂きたい」
「ではそなた達を見込んで頼みがある。この地・最後の妖狐達の面倒を見てくれぬか。人間達の中で生き抜く知識と知恵を学ばせ新たな安住地へと導いてくれればよい。西の地に眷族が、住まう場所が、あると一太が、言っておった。そこへたどり着くまで・で良い。そなたにとっては一時の事」
「承知されど、老の移動が、済めばまた子供の面倒も見られましょう。早々に我が、主に詳細を告げ事を運ぼうに今宵は、子達だけでも屋敷に移動させましょう」
じぃじと白蛇の話は、難しくて判らない一太達は、側に立ち愛想を振う洸を見ていた。
一太は耳もしっぽも無くて可哀想にと思い。人をこんなに近くで見たのは、始めての二太は、洸を不思議そうに見上げていた。洸が危険な人間ではないと判った子供達は、洸が側にいても気にせず住まいである老木の虚の中に入り寝床代わりの枯れ草を整え始めた。
好奇心で虚の中を覗く洸に、二太が何かを言った。聞き取れなかった洸は、かがみ込み虚の中に顔を突っ込む。
「これ妹・兄ちゃと二太の妹」
薄汚れた白い着物らしい布の一部をめくると中にはテニスボール程の大きさの銀色の小狐が丸くなり眠っていた。
「うわぁ…小さい」小狐に驚く洸に二太が、再び説明をしてくれる。
「妹ね。食べるもん無いから大きくなん無いの」
「食べるもの…そうだ…これ食べるかい」洸は手に下げた袋の中より厚揚げを小さく千切り差し出す・二太は、少し鼻をヒクつかせ少しかじり二口目は口一杯にかぶりついた。
おいしそうにパクつく二太を見ている一太の口元にも厚揚げを差し出す。
最初は少し体を引いた一太だが、美味しそうな匂いに釣られひとかじり後は、差し出されるままにふたりしてほお張る。
「一太、二太」楓に名前を呼ばれ両耳をピクッと動かし虚から顔出すふたりに楓は白蛇を伴い近づく。
「一太…もはやこの地は危険じゃ。今すぐ二太と赤子を連れこの者達と行くがよい。今までお前達と楽しく暮らしたが、これからはこの者達が、お前達を守り育ててくれる。食べ物にも困らぬ…きっと赤子も無事に育つだろう。さっ…急ぎ行くがよい。これからはこの白蛇の言う事を聞いてよい子でな。」
楓の袴のすそを引き二太が尋ねた。
「じぃじは…行かないの」「儂か…儂は行かぬ」
「しばし時が、掛かるが、屋敷に移動するゆえ。少しの辛抱じゃ。ささ…参るぞ。ここを抜ければ屋敷じゃ」
地面スレスレに直径1メーター程の移動空間を開き子供達の機嫌を取り移動させようとする白蛇。
「行こうよ。これより美味しいものあるし、仲間もたくさんいるから…ね」
洸もぐずり始めた二太の手を引き移動空間へ誘う。
「じいじは、どうするの。じいじが、一緒でないと嫌だ。」
楓の手を取り一太が、移動空間を指さす。その手を優しく解き楓は、一太の汚れゴワ付いた髪の毛を優しく撫でゆっくり諭す様に話す。
「ここは危険じゃ。だが儂の力では、この先お前達を守り抜く事は、出来ぬ。どうか我がままを言わずに行っておくれ。これからはお前が、弟と妹を守りそしていつの日か、別れた仲間達と出会い幸せに暮らせ」
「じぃじ…行こ」二太も袴の裾を引っ張る。
「オレ帰ったらすぐ父さんに電話するから、父さんに任せれば大丈夫。すぐに引っ越せるよ」
子供達が、泣き出し困り果てる楓を助けようと口を挟む洸を制して楓が、自分の気持ちを話す。
「儂はこの地を離れては行けぬ。ここで目覚め早100年あまり何処から来たのかは。忘れてしもうたが、この地で流れ行く時を過ごし消えて行く仲間を見送った。儂の本体ももう寿命じゃ。たとえ新たな地に移されても根を張る力は無かろう。ならば変わり行くこの地を最後まで見届け逝きたい。判かってくれ一太…儂はお前達とは行けぬ」
「じぃじが、行かないなら、俺達も行かない。二太…」一太は楓の袴を握り締め泣きじゃくる二太の手を強引に引っ張り寝床である虚に連れ込み入り口に結界を張り引きこもる。
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