第7話 土建屋の昔話

あれから三日が、経ち撤去整地工事を請け負う地土木建設会社の従業員数人が、撤去作業の下見にやって来ていた。


あれこれ作業の段取りを決め、いつしか会話は仕事から思い出話になっていた。たばこをうまそうに吸っている年かさの男が、辺りを見回し懐かしさに、ほほ笑みつぶやいた。


「俺が、ガキの頃はさ。ここはガキ共の遊び場でよ。毎日暗くなるまで遊んだもんだ。この風景もあと少しで終わりかぁ。またひとつ見慣れた風景が消え、寂しくなるなあ」



楓に寄り掛かっていた別の男が、測量器具を車に運んでいる青年に向かい。


「オイ~現場用カメラにフィルム残っているかい」ありまーすと青年が答える。


「んじゃあ…楓をバックに俺と松っさんを撮ってくれ。松っさん比処さ並んで」強引に年かさの男の腕を引っ張り楓の前で、最後の記念写真を撮った。


撮り終わったフィルムを巻き取りながら楓を見上げる青年が、現場監督に尋ねる。


「これだけの大木切り捨てるの、もったいないですよね。何処かへ移動は出来ないんですか?」


監督が残念そうに応える。「始めは動かす話だったが、これを根っこごと掘り出すのに、少なくても100万は掛かる。たとえ他所へ植え換えたとしても老木だから根付きは難しい。枯れる確率が高い物に予算は出せないと役場で判断してよ。国さ申請を出さなかったんだと。 だもんで結局切り倒す事になったんだな」


「移動してみなきゃ結果は判らないのに」青年は残念そうに、楓の堅い外皮を手で撫でながら楓の周辺を回り始めた。「あれっ」


幹の穴に気付き覗き込む。虚の中では一太と二太が、身を堅くし息を潜めていた。楓が張っている結界が、目暗ましの役目を果たし青年の目には空っぽの穴にしか見えなかった。


「ちぇっ…リスかタヌキが居るかと思ったが、な~にもいねえや。工事の騒音が効いたのかな」


「とっくに逃げたさ」「なんとか自然保護団体が、役場に掛け合い鳥や動物は自然公園に移動させたそうだ」

「残念」「なんだお前タヌキ鍋でも食いたいのか」「えっ~タヌキって食えるんすか」松っあんが、ガキの頃食べたと応えてくれた。


「じゃ…狐は」

「狐は、稲荷さまのお使いだ。馬鹿にすると罰があたるぞ。とよく婆っさまが言てたなあ。しかしこれじゃなあ」

屋根が崩れ傾いた社を見て現場監督が溜め息を付いた。


「御利益なさそうすね」虚の側に寄り掛かっていた青年が、ちゃちゃを入れ頭を小突かれた。


会話が弾む外の話し声に紛れ虚の中では、二太が一太にそっと聞く「にいちゃ、ぼくたち食べられちゃう」「大丈夫見つからないよ」


「アレ~変だなあ」「何をやっているんだよ」再び虚を覗き込む青年の後ろから現場監督が、一緒に中を覗く。


「いまこの中から子供の声が聞こえたみたいで」

「枯れ葉しかないじゃないか。寝ぼけるには、まだ早いぞ。さて仕事仕事。んじゃ次ぎへ行くぞ」


虚の前で首を傾げている青年の背中をバシンと叩き現場監督は、次ぎの現場へ移動する為 残りの機材を抱え車に向かう。青年も背中を摩りながらヨロヨロと後を追った。


虚の中からふたつの安堵の溜め息が、漏れるが、発進の為掛けた車のエンジン音にかき消され、溜め息は誰の耳にも届かなかった。


大型バンは、田んぼ道を抜け住宅街を走り、駅の反対側へと抜ける河川脇の土手を走っていた。


助手席の松っさんが、運転をしている青年に聞く。


「あれ見かけないジャージ着ている子供が、随分いるねぇ…松中のかい」


中学生の子供を持つ監督が応える。

「あのジャージは確か月森第二の指定品だったな」「月森がなんでいるんだ」「さあ俺も知らん。それより松っさん、次ぎの現場だけど‥」会話は仕事の話へと変わっていった。

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