卵焼き。
朝が来たのだ
あなたが
私を起こすために
開けたカーテン
窓から差し込む
薄い
オレンジの光が
あなたを照らしていた
「卵焼きでいいかい。」
私は
その虚ろな意識の中で
頷いた
ほくらほくらと
湯気の立つ
その
卵焼きを
口に入れた
燻製醤油と
お砂糖
私は
恐ろしかった
過去に
私に手を挙げて
女と
逃げた
父親の
あの
卵焼きの
味だった
バクバクとする
心臓に
無理矢理蓋をするように
あなたの
こだわり抜いた
味噌汁を
流し込んだ
「美味しいかい。」
あぁ、私は演技が上手い
「とっても。」
震えるその手を
隠しながら
また、
卵焼きを口に入れた
父親の面影が見えた
あなたの中に
似ても似つかないのに
たった二切れの
卵焼きで
私は
あなたを
拒絶したくなかった
「君の考えていることが、手に取るようにわかるよ。」
「なにかを、思い出したんだろう」
あぁ、私は演技が下手だ
「君は自由だ。思想も、身体も。」
「君は、自由なんだ。わかるかい。」
私は頷いて
隣に座って
私を見つめる
あなたと
そっと
唇を合わせた
償いか
反省か
あなたは
口元を緩めて
「次は、お出汁で作ろうか」
「君と、僕だけが知っているものを、作ろうか」
そういうあなたが
ただ
陽の光に
照らされ続けますように
そう
願った
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