泣き喚く赤子。

あなたは

ただ

見ていた


産声をあげたように

泣く私を

ただ

見ていた


死のうと思ったのだ

逃げたあの人の

面影を

探し疲れたわたしは

死のうと思ったのだ


糸が切れ

ものが落ちるように

泣く私を

あなたは

ただ

見ていた


絶望の淵にいるわたしは

ただ

ひたすらに

この世を呪った

生まれを呪った


気が狂っていたのだ

わたしは

あなたを

ひたすらに

自分のものにしたかった


私を求めないあなたが

憎らしくて

憎らしくて

愛しくて


それが

愛ゆえのものでないと

わかっていたから


ただ

あなたが

私に

人間的な興味しかもっていなかったから


ただ今は

遠ざかっていく

死の淵に

戻ってきてと

叫ぶしかなかった


あなたは

私の頭を掴むと


「このまま、寝てはいけないよ。

このまま、起きていてもいけないよ。

ただ、ただ、虚ろな意識の中で、考えておくれ。君が生きる意味を。それは僕ではないんだ。わかるかい。自分のために生きるんだ。君は、自由だよ。」


嫌だ。

嫌だ。

嫌だ。


その鎖を

その唯一を

離さないで


口も聞けないほどに

泣く私を


あなたは

諦めたように

そっと、

弱った鶏の

首を

捻るように

抱きしめた


暖かかった。

温かかった。

あたたかかった。


「あなたを、失いたくない。」


私は言った。


「僕はどこにも行かない。ここが僕の場所だからね。離れないさ。君は、僕の作品になるんだから。」


あぁ、

愛しかった。


気が狂った私を

正気に戻すように


あなたは

私の唇を

その

熱い血の通った指先で

そっと撫でた


あなたは

私に

初めて

本当に

本当に

本当に

はじめて


口の中に

その指を入れた


私の口の形を

確かめるように

その

唾液を

絡ませるように


喉の奥が熱かった。


涙が出た。


あなたは

その指を優しく抜くと


私の唇に

そっとキスをしてくれた


「これは、愛なのかしら。」


「そう、愛だよ」


あなたは、優しく、恐ろしく冷たい声で

そう言った。

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