敵わないけれど。




書を読もうと思ったのです


貴方が

その

小さな本棚に

置いていた

何冊かの文庫本と

写真集を

ぼーっと眺めておりました


「実家から、持って来れなかったからね。」

「数は少ないが、読むといいよ。」


貴方はそう言いました


私は箱の中におりました

外から見れば

真っ暗で

ジメジメとしてそうでしたが


中はお豆腐のように

柔らかくて

居心地が良いのです


その箱の中で

ずっと演技をしておりました


自分という

演技を

しておりました


貴方が勧めてくれた

1冊の文庫本を

私は読破してやろうと

思ったのです


敵わないけれど

敵わないけれど


貴方に近付けると思い

その本を手に取ったのです


でも所詮は

箱の中なのです


いくら感動したとて

箱の中の私に

どうして届こうか


箱を出たいのだと

貴方に打ち明けたとて


「鍵は、自分が持っているのだろう」

などと返されるのです


わかっていたのです


自らを閉じ込めているのが

自分であると


気がつくと私は

ただ

泣いておりました


箱の中でも

外でもない


自分という空間で


ただ1冊の文庫本を手に


泣いておりました

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