【Si:ユフ後の安定期について by NearxsEelE3h】

 脳だけであれば生存に必要エネルギーは少ない。

 ようやく消費と生産が釣り合い、全ての人間が等しく生き残る道を歩き始めた。人間種の生存が安定した。

 安定以降もヒトと人間は共生した。人間はその生存管理をヒトに委託せざるを得なかったし、ヒトにとってその作業は何ら忌避するものではなく、むしろ人間を観測することでその思惟の満足を得ていた。


 外形の変化を経ても、結局ヒトと人間はいわゆる人間性を失ったわけではなかった。

 ヒトは不確かな感情の揺らぎを排除し純化することにより、むしろその魂の個性が発揮された。自由な魂はその心の赴くままに羽ばたき、その興味の赴くまま世界を観測した。

 人間は特に何も変わらなかった。結局身体は入出力デバイスにすぎない。人間を人間たらしめるのはその不合理な脳の働きであり、肉体ではなくオンラインを経由して直接脳に情報を送り、身体があるときと同様に世界を再現した。

 人間は欲する情報のみを取得することで、かえって人間らしくその感情を振るい、欲望のままに生きることができた。


 生存の安定を得られたヒトと人間は共通の目的を失ったが、これまでと同様にお互いを尊重した。危機は去り、ユフ以前のように働く必要も団結する必要もない。技術は十分に発達し、労働等の何らかの義務を果たさなくとも個の魂が存在しうる社会が形成された。

 新しい社会ではそれぞれの個々の魂の自由が重視された。ヒトにしろ人間にしろ、その意思はどんなものでも尊重された。多くのヒトは幸福に探求し、多くの人間は幸福に生きた。


 ヒトと人間がこのように固定されてから、100年ほどが経過した。

 その形態の差異はやはり大きく、少しずつかつての人間とは性質を異ならせた。その?�ろから人間は自分たちはもうかつての人間と異なったという意味を込めて、自らを人と呼ぶようになった。

 そのころにはもう、様々な意味で人は人間とは随分と異なる存在になってしまっていたから。

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