【Si:AY127.3.2 by NearxsEelE3h】
私は
xsEelE3hは私に、記録するよう述べた。
そのため、概略を冒頭に記載する。
私はxsEelE3hとユニットであるヒトであり、xsEelE3hの観測者である。
xsEelE3hは824日1時間6分42秒前、私に名前の呼び方を簡単にしろと述べた。私は名称の文頭から『エックス』を提案したが、xsEelE3hは『かわいくないから嫌』と述べた。次に私はIDの真中の文字を取り『ゼーレ』を提案した。それ以降、xsEelE3hは自らのことをゼーレと呼称している。
故に私も、xsEelE3hをゼーレと呼ぶ。
私は人であるゼーレを管理し、その最適な生存を確保する役割を負うヒトユニットである。ゼーレが求める情報としての五感、名称、事物の性質、さまざまな要素をゼーレに付与することを役割とする。ゼーレが思考を動かす度にその感情は揺れ動き、私はそれに応じて新たな情報を付け加える。
その興味深い無作為性は既にヒトが捨てたものだ。
AY127.3.2現在、人はオンライン上でヒトにアクセスし、情報を得て生存している。人とユニットを組んだヒトは、人の要求に応じて人の欲するデータを供給する存在である。
【Si:ユフ前の情勢について by NearxsEelE3h】
21世紀後半のシーネンフリーデンでは、科学技術の発達により人間はかつてその魂と呼ばれる情報を含めて完全に解析さた。それはつまり、オンライン上に魂を複製し、完全に同期することが可能であることを意味した。
人間の魂は肉体の軛から解き放たれ、オンライン上で現実と同じ生活が可能となり、現実と非現実の境が失われた。
人間は出生と同時にIDが割り振られ、オンラインに接続するためのチップが脳に埋め込まれる。家具ひとつ動かすにもオンラインを経由する時代であり、その生活様式を許容するためには必須の処置である。
現実とオンラインが並列して矛盾なく存在する世界に至り、人間はオンラインが現実より圧倒的な優位性を有することに気づく。オンラインでやりとりする正確で詳細なデータ。それを無限に保存可能な仮想記憶容量。
一方の現実世界では、視覚聴覚等の五感による情報入力の段階で既に劣化が生じ、間に人間を挟むごとに情報の欠落が増加する。記憶容量も脳の機能に限定され、拡張性が乏しい。それ以前に時間の経過とともに情報が劣化・消失する。
つまり情報媒体としての肉の体の性能は、オンラインに比べて格段に低かった。その事実は世界の概念を変えた。
圧倒的な利便性の違いに、現実からオンラインへの移行は加速した。
オンライン化の加速は論争を巻き起こした。
いわゆる現実を捨て、全ての情報をオンラインへの移行を希望する人間が現れた。
肉体を否定する人間のグループは、既に生活はオンライン上で行われており全て移行するのが合理的と主張した。
肉体を肯定する人間のグループは、実体を失えば人間と評することはできないと主張した。
(ci:集合的ヒトの記録)
「何を言っている。人付き合いも全てオンラインで行っているんだ。現実で人間に会うなんてすでに何年も前のことだ」
「オンラインにしか存在しないなんて、生物とは呼べない」
「現実では電気1つつけるにもすでに仮想空間が不可欠だ。すでに我々の生活は仮想空間に移行している」
「体を失えば、世界を感じることはできないだろう。人間らしさは生まれないだろう」
「擬似的に再現すればいいじゃないか。優れた媒体への移行は進化だろう。新しい道具をもつのと何が違うんだ」
「それじゃあ人間とデジタルデータは何が違うっていうんだ」
(ci:以上)
【Si:ユフ後の情勢について by NearxsEelE3h】
結論が生まれるとは思えない論争の最中に、厄災が突然降ってきた。
ユフという名の隕石だ。
突然現れ大地を穿ち、微小なウィルスが世界に満ちて猛毒を振り撒いた。
その強力すぎる毒に世界はあっという間に汚染され、人間が生存するために必要な資源が枯渇した。
不毛な議論は打ち切られ、ユフ毒の影響を受けない情報的存在としてオンライン上のみに存在することを選んだヒト種が発生した。
一方の人間はユフの猛毒で次々に倒れ、その数を減らした。
ユフの惨禍は未曾有の危機であり、自然な成り行きでヒトと人間が協力することとなった。低性能な人間の脳のから解き放たれたヒトはより高次元に思考し、人間の生存可能性を模索した。人間は現実世界へのアクセスを捨てたヒトが世界の変化を観測するための有機媒体となった。
その結果、ヒトと人間は相互にユニットを作成し、不可分に助け合う体制が築かれた。
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