【Si:ユフ後の冗長性の削除について by NearxsEelE3h】

(ci:集合的ヒトの記録)

「これ以上削れるはずがないだろう」

 現状を維持した場合、人間はあと50年で滅亡します。決断が遅くなるのに比例して人間の生存可能数は減少します。いずれにせよ過去の観測から、人間は最終的には生存を選択するでしょう。人間はそのような生き物であることは歴史が実証しています。

「しかし……」

 最終的に削除するのであれば、早めに決断したほうが良い効果を生むでしょう。

「それでは結局、人間を捨てるのと同じだ」

 異なります。

 脳以外は全て入出力器官にすぎません。人間の本質は脳にあります。それはあなた方人間との共通認識です。

「しかしその案は機械に全ての感覚を委ねるということだろう? 体がなければ人間ではない」

 四肢を削って何か変化はありましたか。

 人間もすでにオンライン上で生活をしています。チップを接続する脳さえ残せば、全ては変わりはありません。機能の劣る情報取得方法の選択し続けるのは不合理です。

(ci:以上)


 人間はこの時点で結論を出すことはできなかった。

 しかし人間は資源が枯渇していく中で、少しずつ自らの肉体を削った。

 人間はヒトがその思惟によって新たに開発した人工パーツに、ゆるやかにその身体機能を乗り換えた。

 ユフが降る前からすでに、病気や事故による欠損部位を人工パーツに置き換えることは一般的な治療だった。それと違いはないというヒトの問いに、既に四肢を捨てた人間は反論できなかった。


 省エネルギーという理由以上に、その交換は合理的だった。たんぱく質で構成された肉の体は劣化する。不安定な肉という素材から安定性の高い人工ユニットにその体を置き換え、さらに小型化、外部化され、感情というノイズを持たないヒトに安全に一元管理されるようになった。

 結局のところ、人間が有する情報は従来と同じくオンライン上にデータで管理され、神経という不確かな伝達媒体も人間から取り払われた。

 最終的に、人間の外形は脳という肉体とこれを保護する頭部を構成する外殻ユニットのみとなった。人間は自らの脳内でオンライン上で取得した情報を再現しながら、再現された五感を通して世界に触れた。人間の主観的には、人間が完全な肉の体を持ってきたときと変わらなかった。何ひとつ。


 このような歴史をたどり、ゼーレの客観的な姿は脳で、直径30センチの透明な球体に収められている。

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