第3話 双子姉妹の不審死と失踪

(3)


 ――忌まわしき事件。


 しかしながらこのNの人々にとっては世代が変わりすぎて誰も知らない事件に違いないが、それでもこのNに住む古老に聞けば、まだ比較的、昨日の出来事のような事件だった。

 彼、ロダンはこの集落唯一のガソリンスタンドで暇を潰すために、数日アルバイトをしている。その仕事を手伝っている時、スタンドに来た山奥で果樹園の古老K氏からその事件の事を聞いたのである。


 ――いや、あれは戦後だけどなぁ


 神社で戦後久方ぶりに鬼提灯祭をしたんだ。戦中はいろいろやかましかったからやめてたんだが、戦争が終われば関係ない。陽久方ぶりに盛大にやったんだが、その時、神楽を待った舞子が居てなぁ。

 ほら、この清流で鮎を取っていた川漁師の双子娘で妹何だが、それがよぉ。踊ってる最中、突然死んじまったんだ。検死したらしいが、わからない…。それだけじゃない。その時の双子の姉も何処かに消えちまって…気の毒にその川漁師のとこは一度に娘を失くしちまったんだよ。


 ロダンはその事を思って本を枕元に置いたまま下駄を履いて旅館を出ると目の前を流れる沢に出た。

 沢は旅館から目の前にある。石造りの階段を下りればすぐに沢に降りられる。

 彼は沢に降りると川べりの石を踏みながらやがて大きな石にしがみつく様にして上るとそこで大の字になった。

 沢の中で川の流れを変える大岩。ロダンはこの岩が気に言っている。

 岩の上に大の字になり目を瞑れば川の流れの音を聞き、時折聞ける野鳥の声が聞こえる。近くの水だまりで川魚の跳ねる音も聞こえる。この嬉しさは大阪のような大都会には無い。正に旅空の下にあってこその嬉しさであり、喜びだった。

 その喜びの中ロダンは考えている。

 忌まわしき事件の結末を。

 髪をボリボリ掻きながら大岩の上で太陽の下で身体をさらけ出して考えるとやがて睡魔がやって来た。睡魔が来るとロダンは一瞬眠りについてが、不意にやがて身を起こした。

 何故なら自分を呼ぶ声がしたからである。

 それは財前先生の長女——菜穂の声だった。

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