第8話 ガソリンスタンドのマサさん
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「しかしさ、ロダン君。こんなところで時間なんて潰しちゃっていいの?明日、此処を出て行くんだろう?だから今日は鬼提灯祭もあるからアルバイトも昨日までにしたのに」
マサさんは帽子を被りなおしながら、ロダンをスタンドの奥へと誘う。時刻は午後二時を少し過ぎた頃だ。
「でも丁度いい、いま一台車が行ったところだからコーヒーでも飲もうかと思ったんだ?奥へどうだい?」
「お客、若者でしたね?」
ロダンが誘われるまま後に付いて行く。
「おう、顔馴染み。福岡の大学から鬼提灯祭で友達連れて戻って来たらしい」
「顔馴染み?大学?」
「おう、ほら悠斗。俺の甥っ子、一丁前に車なんか乗ってさ。伯父さんに挨拶だとよ」
笑いながら店のドアを開ける。
(…伯父さん、ああ、そうか…)
ロダンンも店のドアを開けて店に入る。入れば渡された紙コップを手にしておかれたバリスタに置いた。
(あの二人が好きなのはマサさんの甥っ子だった…)
この事は偶然である。
実はこのガソリンスタンドに旅の途中ロダンが寄ったのは小雨が降り出してきてどうしようかと思い、暫しの雨宿りに来たのだ。
すると雨宿りのマッチ棒姿の客人を見て店の奥からマサさんが声かけて来た。
あまりにもマサさんの声が人懐っこい感じだったので、ロダンは雨宿りしながらNに来た理由——つまり財前先生の事、そして泊まる場所を聞いたのが、縁の始まりだった。
そして上手く財前先生に会え、また詰まる場所も見つけることが出来た。それで翌日再びこちらに来た時、大きな檸檬色のサーフボードを仕舞うマサさんを見て笑いながら声を掛けたのだ。
――ここ山奥ですよ!!!
サーファーなら海辺でしょう!!
振り返りニヤリと笑うマサさんの受けを取れたのが良かったのか、ロダンはその日からアルバイトとしても働きだした。
その受けを取った檸檬色のサーフボードは座るマサさんの後ろの壁に掛かっている。またそれだけではない。事務机の上には本が置かれておる。表紙には
――『海と老人』
アーネスト・ヘミングウェイ
それだけではない。レーコードジャケットがばら蒔く様に置かれている。
机上に視線を向けたロダンにマサさんが言う。
「また週末、日向までサーフに行くからさ、何か車の中でも聴くジャズでも選ぼうかと思ってね」
そう言いながらマサさんはプレイヤーに電源を入れた。すると店内にジャズが流れて来る。
「さぁ飲んでよ。音楽アプリも良いけど、レコードのノイズ感にはやっぱり勝てないねぇ」
ロダンも頷くとカップを口に運ぶ。運ぶとマサさんが言った。
「それで聞きたいのは財前先生とこのNの昔のことだね?」
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