第011話 時々ボソッとロシア語でデレる隣の…
僕と
「こっちよ」
不思議なことに大きく回り込んだ裏側に入り口があるようだ。
本来の校舎から完全に見えない位置のブルーシートをめくる。
「あれ?」
一瞬の違和感。
気圧が変化したときまれに発生する耳鳴りのような感じ。
僕の異変に朱里さんは興味深そうな顔をする。
まあ大した話ではないだろうと僕はスルーして中へ入る。
「建物が完成している?」
ブルーシートの先には小さな入り口があった。
多分新校舎に正式に移動すれば裏口となるのだろう。
建物の外装はブルーシートで覆われているので完成しているかはわからない。
だがここから見える部屋だけは完璧にできあがっている。
わずか一ヶ月程度で雑木林だった場所からここまでの進捗で建物が作られているのは驚きだ。
素人にはわからない特殊工法や超突貫作業が実行されたのだろうか?
いや、そうではないはずだ。
「スメラギの科学力をなめないでもらいたいわ」
朱里さんの言葉が真実味を持った。
今までの会話はあくまで言葉だけであって現実感がなかった。
だが今目の前にある建築物は存在感がある。
この短期間にここまで建物を作り上げる実力がスメラギという企業にはあると実感させられる。
入り口のすぐ横に守衛室のような場所があった。
そこには二人の守衛と思われる人がいる。
…というか絶対におかしい。
制服こそ紺色のありふれたもののように見えるが着ている人がどう見ても普通じゃない。
そのままアメコミ映画の主役を張れるビッグボディーだ。
しかも日本人じゃない。
僕に笑顔を向けるがそのやけに白い歯がなんか生理的に嫌だ。
そして朱里さんに向けて敬礼。
それに対し朱里さんも敬礼。
敬礼は基本目下の人間からするものだから朱里さんが目上だと思われる。
朱里さんは彼らの上官、そしてこの人達は軍人。
朝からすでに何度目かわからない嫌な汗が背中を流れた。
朱里さんのあとをついて廊下を進む。
ドアが開いている教室の中に机はない。
それ以外は完成しているように見えるから机と椅子を運び込めばすぐに授業が開始できるょうに思う。
そんな空き教室の横をいくつか通り過ぎたドアの前で朱里さんが止まる。
その室名札には『1年Z組』とあった。
朱里さんが教室のドアを3回ノックする。
中から『入りたまえ』という男性の声が返ってくる。
僕は朱里さんと教室に入った。
「えっと…僕は公立高校の普通科に進学したはずですけど?
ここ雄英高校のヒーロー科ですよね??」
教室の男性生徒全員がオールマイトのような筋肉をしている。
その半数が西高の制服である一般的な学生服を着用しているがそのムキムキの筋肉が溢れ出している。
雄英高校というよりは男塾というべきか。
だが学生服ではない残り半数の姿は奇抜。
あえて例えるならアメコミのスーツだ。
胸に稲妻のようなマークのあるスーツを着用しているヤツ、真っ赤なアマレスのユニフォームの上に仕方がなく学生服を羽織っているヤツなどなど。
ひいき目に見てもまともじゃない。
それから見れば女生徒はまだましだ。
と言っても制服は魔改造され微妙にメイド服っぽくアレンジされている。
アキバにいるメイドさんという感じではなく英国の由緒正しい感じのメイド。
メイド神森薫先生でも合格をもらえそうな正統派メイドだ。
でもさ、年齢はほぼ全員30歳前後にしか見えない。
つまり同級生って呼ぶのは実に厳しい。
ただ一人だけ小学生女児童のような身長のメイドがいる。
しかもメイドカチューシャまで装備していた。
そして低身長とは不似合いな二つの大きな果実を胸に実らせている。
この子だけはギリ同年代の可能性がある。
そう、異常なのはクラスの全員が明らかに高校生とは言えない年代。
ちなみに男女比は8:2と一般的な西高の比率と逆だ。
「お待たせして申し訳ありません」
朱里さんが教卓の前にいる男性に頭を下げる。
多分担任だと思う。
「今作戦は君が指揮官だ。
謝罪する必要はない。
私に素晴らしい結果を見せてくれれば問題ない」
「粉骨砕身努力いたします」
男性が小さく頷く。
それに対し朱里さんの嬉しそうな雰囲気がなんとなくだが伝わってくる。
そんないい空気をぶった切って僕は小さく手を上げた。
「あのー、質問いいですか?」
「許可する」
「あなたがこのクラスの担任でいいんですよね?」
「それ以外のなにに見えるのかね?」
男性の不思議そうな顔。
いや、どう見ても一高校教師ではない。
年齢は30代後半だがその左頬にある大きな十字傷は明らかに刃物による傷跡だ。
ちなみに左頬に十字傷というと某『
それから右目が眼帯で隠されている。
勿論ものもらいなどで眼科から処方された白い眼帯ではない。
戦争映画でしか見ることのない革製の黒い眼帯。
そして軍服である。
ぱっと見ナチスの軍服のようなファッショナブルなデザインだ。
ナチスのしたことは肯定されるべきではないという考えには同意する。
だがミリオタでないにしてもナチスの制服はかっこいいと僕は思う。
「高校の教師って普通スーツです。
体育教師ならジャージって場合もありますが…」
「君の報告では制服が一般的だとあったが?」
男性は朱里さんに問いかける。
「隊長の着用される服は
朱里さんが答える。
今、しれっと軍服って言ったよね??
男性は小さく肩をすくめて『こちらで再度調査する』と答えた。
「あのー正直言いたいのですが隊長さんは高校教師の経験はありませんよね?
どう見ても素人に高校教師は無理だと思います」
「確かに高校教師の経験はない。」
男性が胸を張って答える。
「だが教官生活25年という実績がある。
つまり私は素人ではない。
スペシャリストだ!」
言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ。
「あの先生って40歳位だと思うんですけど教官生活25年というのは盛り過ぎでは…?」
「審判者に敵対していたゲリラ組織の一員として捕縛されたのが10歳。
それから5年、師匠との厳しい特訓を乗り越え教官となった。
あれから25年だから数字に間違いはない」
ツッコんだ僕が間違っていたよ。
「教官試験に臨んだギアナ高地での最後の特訓の厳しさはいまだに夢にでるよ」
「ギアナ高地は特訓のメッカですよねー」
ツッコんだら負けなので軽く流す。
他にもその眼帯は本物かどうかなど聞きたいことは山ほどある。
だが僕の心はぽっきりと折れてしまった。
ここは陰キャとしての底力を発揮して大人しく空気になろう。
僕はとぼとぼ自分の席であろう空いている机に向かう。
ここで立っていても教室中の視線を集めてしまうからだ。
「
左隣の女性に小さく挨拶する。
腰まである黒髪は艶々だ。
「…
お隣さんは小さく自己紹介すると顔をそむけた。
長くて美しい黒髪に隠れて顔はよく見えなかったが多分年齢は20代後半。
そう断定した理由はその胸に超高級メロンがたわわに実っていたからだ。
隠れ巨乳スキーであることを朱里さんに指摘されているがあえて言いたい。
胸なんて飾りです!エロい人にはそれがわからんのです!
そう、触れない胸より触れる胸。
僕は恋人になってくれるならどんな胸でも愛する所存です!
ちくしょー!!
心の中で悪態を叫びながらもう一方の隣を見る。
小夜という名前と黒髪から左の女性はロシア人でないのは明白。
「確かにロシア人だ」
右隣の人物の青い瞳と白い肌は明らかに白人だ。
真っ赤なアマレスのユニフォームの上に仕方なく学生服を羽織っている。
そこから見えるあふれんばかりの筋肉と胸毛。
顔の下半分を覆う髭はしっかり手入れがされていてミスターダンディーと言って差しさわりないだろう。
そしてスポーツを嗜むためであろう頭は短く刈られている。
だがそれでいて頭の中心だけは残されているのがさりげなくおしゃれだ。
モヒカン刈りではあるが無駄に髪を逆立て威嚇する感じではない。
短くそろえられた髪はただ単純に清潔さを追求した髪型であり効率的で機能美すら感じる。
僕は目を閉じ、心を落ち着かせる。
朱里さんは『君のお隣の席にはロシア人を準備したわ』と言った。
それを喜んだ僕は朱里さんに協力することを即答した。
明らかにハメられた。
だからツッコミを入れるくらいなら許されるはずだ。
「ザンギじゃねーか!!」
ザンギことザンギエフは格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズに登場するキャラだ。
旧ソビエト連邦出身で『赤き稲妻』の異名を持つプロレスラー。
格闘ゲームで投げキャラという位置を確立した第一人者。
ヲタクに『最も有名なロシア人は?』と質問すれば確実に一位をゲットするだろう。
同級生がザンギエフと知られればコアで暑苦しい面子しかいないザンギ使いからうらやまれること間違いなし。
でもロシアンJKを期待した僕の純真を返せ!
僕はその分厚い大胸筋に『なんでやねん!』とばかりにツッコミを入れた。
「ハっ…ハラショー」
僕の渾身のツッコミは何事もなかったように受け止められる。
しかもなぜか恥ずかしそうに頬を染めてやがります。
時々ボソッとロシア語でデレる隣のザンギエフさん。
頭痛が、頭痛が痛い。
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