第007話 謎の女
昇降口での告白というサプライズに周囲は大騒ぎ。
だが時間が迫っていることに気づくと生徒はすぐに教室に向かっていった。
「
私は
謎の女『
というか僕だけが同じクラスなのが不満そうだ。
女絡みで友達をなくしたヲタクを何人も見ているから正直不安。
ヲタクという狭い世界では男女間の恋愛感情で友人関係が壊れることが多い。
僕自身恋人よりは友人を優先したいと考えているタイプだ。
それに正直この朱里という女は好みじゃない。
「くすくす。
私の好みは自分より強い男性よ。
零士君のような貧弱な坊やは論外ね」
ジン、嬉しいのはわかるけど笑顔でダブルバイセップスはキモイ。
でも僕がこの朱里に全然興味がないってアピールするのは必要だろう。
だからいつも言っている僕の理想像の女性を披露しようと思う。
「それに私は零士君の理想の『金を持っている女』には程遠いわ」
その言葉で僕の心が波立った。
学生生活をしていると好きな女性のタイプを聞かれることが少なからずある。
それは特定のクラスメイトを好きかどうかを確認しているいわば踏み絵の場合がほとんどだ。
それは僕のような陰キャにも発生する。
自分が好きなタイプを言ったのだからお前も答える義務があるという謎理論。
そんな場合にも対応できるようにヘイト管理が大切なのですよ。
女性の魅力は容姿じゃないと思う。
勿論性格でもない。
そう、女の魅力は…ずばり『財力』!
最低でも億は持ってないと話にならないよ!!
こう答えることで恋愛脳同級生男子のヘイトをごっそり削ってきた僕なのである。
だが僕の女性の好みを聞いたことのある人間は少ないはずだ。
少なくとも僕はこの答えをこの女の前で言った記憶はない。
だとすれば…?
僕は一つの結論に辿り着く。
「お前、新手のスタンド使いかッ!」
「なんでだよ!?」
即座にジンのツッコミが僕の胸に炸裂した。
スパーン!という心地よい音色だが全然痛くないナイスツッコミだ。
「ごめん、ヲタクなら死ぬまでに一度は言ってみたいセリフの難度SSSを回収するのは今だって思ったらつい」
「馬鹿野郎。
俺がお前の立場だったら同じセリフを言っていたぜ」
ジン、心の友よ!
「でも僕はこの女に好みの女性について語ったことはない。
だからスタンド使いかもしれないって可能性は否定しないよ」
世の中には僕の知らないことはまだまだあるはずだ。
オカルト好きな僕だが心霊体験もUFO遭遇もいまだに未経験だ。
だからもしこの女がそんな超能力を持っているとしたらちょっとワクワクする。
そう、宇宙人・未来人・異世界人・超能力者だったらウエルカム!である。
「あら、私は間違いなく君から直接聞いたわよ」
「嘘だ」
絶対に断言できる。
「嘘…そう、嘘といえば嘘ね」
朱里が趣味の悪い笑顔を作った。
「零士君は本当は隠れ巨乳スキーだもんね。
しかも色素薄い系がストライクなんだよね?」
「き、貴様…なぜそれを?」
ジンさえ知らないはずの僕の性癖に思わず本音が口から漏れた。
だが弁解させて欲しい。
高校入学と同時にロシア語を学ぼうと志した同志は多いはずだ。
そう、僕もロシア語の通信教育をこのあいだ申し込んだ。
大学時に専攻すればいいと考えるのは愚の骨頂。
高校時代に隣にロシア人の同級生が座る可能性を考慮せずしてなにがヲタク男子だ。
そんな可能性など宝くじ一等に当たる確率より低いはずだがゼロじゃない。
しかも『こんなこともあろうかと』という死ぬまでに一度は言ってみたいセリフも回収できる優れた準備でもあるのだ。
なにが言いたいかというと色素薄い巨乳は一定数の需要があるのである。
「簡単な答えだわ」
自分の喉が鳴ったのがわかった。
明らかにこの女の持つ僕の情報が正確すぎる。
得体の知れないなにかが僕の背中を走り回っていた。
「零士君のお母さんから聞いたの」
「母さんかよ!」
母さんは僕が何度言っても部屋に入ってくる。
そして脱ぎ散らかした服やゴミを回収していく。
あ、念のため言っておくけど生ゴミはちゃんと台所に捨てにいくから異臭はしないぞ。
しかもなぜか捨てるべき雑誌と残しておきたい雑誌が仕分けされる。
謎の超スペック。
入室に抗議し、部屋に鍵をつけるように懇願したが『じゃあ家を出て行けば?』の一言で終了。
父さんは母さんに勝てるはずもない。
そっと僕に見られたくない物の隠し方を伝授してくれた。
だから押し入れの奥の奥にひっそり隠された僕の秘蔵のコレクションは見つかっていない。
「ねえ、知っている?
零士君って随分マニアックな性癖を持っているの」
朱里がジンに下卑た笑顔を向ける。
「青い髪の…」
コンマ1秒で状況を理解する。
あの場所がなぜばれた?
だがそれより先に言い訳を考えなければいけないことに気づく。
ジンは僕がそのキャラを好きだということは知っている。
だからそのキャラの薄い本が大量にあったとしても言い訳ができるはず。
あ、年齢制限は棚上げです。
だとすれば作家先生がイチ押しであることをアピールすれば逃げ切れるはず。
幸いジンにもありそうな性癖の可能性も高い。
「秘密にしてあげるわ。
こういうのを日本では『武士の情け』っていうのよね?」
「あ、ありがとうございます、朱里様」
セーフ、ぎりぎりセーフ。
でも悪魔の笑顔で僕を見ている朱里は明らかに弱みを一つ手に入れた。
僕がこの女に逆らえばマニアックな性癖が暴露されるはずだ。
頭痛が、頭痛が痛い。
「零士君、隠すところにこだわるなら取り出す時は気を付けるべきね。
夜中に押し入れを頻繁に開けたら気づかれるのは当然」
「あっ…」
僕の部屋は二階にある。
そしてその下には両親の寝室がある。
古い家なのだから夜中に押し入れを開ければ階下に響く。
それが何度も響けば押し入れに何かあると察知される。
そして思春期男子の隠しものなど安易に想像できるだろう。
謎はすべて解けた!!
…というか凡ミスだった。
「さて、零士君をからかうのはここまでにしましょう。
私達はあっちよ」
朱里は昇降口の外を指差す。
「私と零士君はZ組。
教室は新校舎にあるわ」
「「Z組っ!?」」
僕とジンがハモった。
Zは僕達ヲタクを熱くする。
オラ、わくわくすっぞ!
ジンが僕を羨ましそうに見つめるがこれは譲れないから。
「ジン君は特別に出入りできるよう手配しておくわ。
昼にでも遊びにきてね」
朱里の言葉にジンは笑顔で自分の教室に走っていった。
明らかに転がされている。
それについては僕も人のことは言えないが…。
□□□ 閲覧ありがとうございました □□□
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