第012話 プリンセスガード
僕が勝手にロシアンJKだと誤解しただけだ。
それに例えお隣がロシアンJKだったとしても僕にデレる可能性なんて皆無。
それよりは隣のザンギさんと友達になれる可能性のほうが遥かに高い。
僕は現時点でロシア語は『ハラショー』『ボルシチ』『ピロシキ』しかわからない。
だが脳筋としか見られないザンギは実は知性派。
元ソ連大統領ゴロバチョフと同じ大学に通い、ロシア文学を嗜むという設定がある。
バイソン将軍に騙され悪の秘密結社『シャドルー』で部下になるというお茶目な一面もある。
案外楽しそうな高校生活が予想される。
そしてもしかすると僕の永遠の14歳という病気も悪の秘密結社で改造手術を受ければ完治するかもしれない。
フラグが永遠に立たないロシアンJKよりザンギさんの方が魅力的だ。
ちくしょー!!
「ああ、
先に前の席に座っていた朱里さんが振り返って僕に話しかけた。
「コノハンドルは最近日本に帰化したから正確にはロシア人ではないの」
いや、謝るトコそこじゃないでしょ!?
叫びそうになる前にふっと冷静になる。
「コノハンドル?
…まさかお前ってコノハンドル・マガッテンナー!?」
ありえない可能性が口から漏れた。
「ハラショー」
だがそれを肯定するようにお隣のザンギさんがサムズアップする。
コノハンドル・マガッテンナーは僕のプレイしていたネトゲ『光の戦記』でのフレでありギルメンの一人だ。
タンクのジョブである戦士をしている。
本人曰く『レスラーが実装されればジョブチェンジする』とのこと。
だが次の拡張で追加されるジョブは相撲だと言われている。
彼は口数の多くない自称ロシア人プレイヤー。
ザンギのような強い男になりたいとキャラはモヒカンでほぼ裸に赤いレスラーパンツというコスを愛用していた。
だがどう考えてもロシア人という設定には無理がある。
コノハンドル・マガッテンナーという親父ギャグ全開のプレイヤー名は日本人以外ありえない。
そもそもデータセンターが日本サーバなのだ。
ネトゲである以上回線速度が遅くなるのはリスクしかない。
本当にロシア在住だとすれば欧州データセンターのはず。
ちなみに僕もブルマニアからの帰国子女という設定を公言していた。
「まさか?…まさか…??」
思考回路はショート寸前。
こんなミラクルありえない。
リアルで面識のないギルメンが2人もクラスメイトになる確率なんて天文学的数字だ。
全世界累計登録アカウント数が2700万を突破したと公表されている光の戦記だがこんなことはありえない。
「あ、あの…先生の名前を聞いてもいいですか?」
ふっと教壇の前に立つ隻眼の教官と目が合った。
その姿に思い当たる人物がいた。
光の戦記ではライトパーティーと呼ばれる4人が戦闘コンテンツでの最小単位となる。
タンクと呼ばれる盾役がPTのリーダー。
ヒーラー(ヒラ)と呼ばれる回復役。
そして残り2名がDPSと呼ばれる攻撃役だ。
そのライトパーティーx2でフルパーティーとなる。
さらにフルパーティーx3でレイドと呼ばれる大規模コンテンツを攻略する。
最終的に僕とアベンドさんで立ち上げたギルドはレイドをギルド単独で攻略可能な大きさになっていた。
ギルメンが増えれば正直名前の怪しい面子もいる。
だが戦闘の要であるタンクだけは絡む機会が多いため自然と名前を覚える。
暗黒騎士であるアベンドさん、戦士であるコノハンドル。
そしてナイトである『先生』と呼ばれるあの人。
「ふむ…現実で会うのは初めてだったな。
私の名は内藤…」
光の戦記で役割を果たさないナイトを侮蔑して『内藤』と呼ぶ。
タンクであるナイトの役割は敵のヘイトを集め攻撃を受けること。
だがそれをしないナイトは地雷としていつしかその侮蔑で呼ばれるようになった。
だがギルメンであるナイトの内藤さんは違う。
レイドで他23人が床ペロしながら敵を削り切った彼を多くの人間が称賛した。
そんな危機的状況を何度も救った彼はギルド内では『先生』と呼ばれていた。
本物の生ける伝説なのである。
そしてそのコスは軍服にアイパッチというファンタジーの世界観ぶち壊しなセンス。
その姿で片手剣と盾を装備しているのに唖然とする人間は多い。
「内藤……ギルガメェェェェェェシュ!、だ」
なぜかドヤ顔でポーズを決める内藤先生。
ちなみにこのプレイヤー名もオヤジギャグである。
深夜のエチエチなテレビ番組として有名なものをあげるならば『11PM』だろう。
だがそれ以外にもお色気番組はあった。
テレビ東京系で90年代に放送されたのが『ギルガメッシュないと』でありこのプレイヤー名の元ネタだ。
2000年代に入りお色気番組に過剰なほどの規制が入ったことでこの手の番組が絶滅した。
だが当時少年であった現在オヤジの心に脈々と受け継がれている。
当然現在高一である僕は見たことがないと思うだろう。
ところがぎっちょん!
父さんの書斎の押し入れ奥深くに封印されているビデオライブラリーになぜか収録されていた。
父さんは時々このビデオライブラリーを出してきては『銀英伝』を鑑賞している。
「…嘘、でしょ?」
ギルメンと偶然同じクラスになる可能性は0じゃない。
だが2人、3人と増えていくほどにその可能性は極端に低くなる。
3人ともなれば偶然ではなく必然を疑うレベルだ。
僕は周囲を確認する。
ふっと4人の男女が目に入る。
もしかして『黒い四連生』こと『アームストロング4兄妹』だろうか?
黒人の四つ子という設定だったはずだ。
だが一番体の大きな男以外は単に日焼けしているだけだ。
これで四つ子だというのなら血のつながらない双子という設定も許される。
それから稲妻のようなマークのあるスーツを着用してパンダフェイスペイントをした男。
こいつにも思い当たるギルメンがいる。
光の戦記内でパンダの被り物を愛した『エル・パンダ』だ。
それ以外にも教室にはギルメンっぽい人物が多数存在していた。
「まさか…まさか??」
「気が付いたかね?」
狼狽する僕を見て内藤先生が口角を上げる。
「ここにはギルド『プリンセスガード』のメンツが揃っている」
「そ、そんな馬鹿な…」
内藤先生のありえない発言に驚愕する。
「事実だ」
思考回路が停止する。
なぜこのようなことになっているのか理解不能。
そんななかである可能性が頭を過る。
内藤先生の発言が事実ならこの教室内にアベンドさんもいる??
僕は立ち上がり周囲に可能性のある人物をさがす。
だがアベンドさんと思われる人物を特定できない。
「このなかにアベンドさんもいる…のですか?」
教壇に立っている内藤先生に自然と質問していた。
「その質問に答える前にこちらから問わねばならぬことがある。
君は入学式に出たいかね?」
質問の意図が理解できない。
「入学式とかどうでもいいです」
僕はそんなどうでもいい式より答えが聞きたかった。
どうせ話なんてまともに聞く僕じゃない。
実際中学の入学式にも出ているはずだが記憶にない。
それよりも一刻も早くアベンドさんを確認したい。
「では想定通りパターンAで作戦を実行する。
行動開始」
内藤先生の言葉で僕以外の全員が立ち上がった。
「ついてきたまえ」
内藤先生が先頭に立ち教室を出る。
そのまま新校舎を出て外を歩く。
校舎からは死角になっている位置で僕らは進む。
異常な状況なだけに逆に冷静に周囲を観察することができた。
僕を中心に人が歩いている。
まるでVIP待遇でガードされているようだ。
僕の近くに女性陣が位置し、その外側をガチマッチョな男性陣が守っている。
さらに注意深く観察するとあることに気付く。
女性陣の制服はメイドっぽくカスタマイズされているがただ一人だけ無改造である。
それは僕の隣を歩くメイドカチューシャ装備の小学生メイドのさらに隣。
明らかに頭一つ大きな身長であるのにその体に隠れるようにしている女性。
このVIP待遇は彼女を護衛するための陣形なのだろうと結論する。
その小夜さんはというとなぜか僕の方を何度となくチラ見している。
僕が視線を送るとそれを切るように小学生メイドに隠れる。
内藤先生の言葉が事実であるならばここにギルメンが揃っているはずだ。
だが小夜という名前のギルメンはいない。
ギルドメンバーだけで24人のレイドに突入できる人数がいたがクラスの人数は先生も含めて41人。
僕の記憶が確かならギルドメンバーの総数は32人。
だとすればクラスにはギルメンではない数合わせの人間もいるはずだ。
その一人が小夜さんだと思う。
…思うのだが絶対と言い切れない僕がいた。
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