第014話 初心者ですが大丈夫ですか?

 移動中、僕はアベンドさんとの出会いを思い返していた。



 僕がネトゲ『光の戦記』を始めたのは約1年前の中2の終わりだった。

 すでに30年もの歴史のある有名なRPGのナンバリングだ。

 ネット対応としては2作目となる。

 20年程前に発売された1作目は大好評で、いまだにサービスが提供されている名作だ。

 高スペックPCが必要だったので多くの学生には高嶺の花だったとネットで見た。

 それから10年、満を持して登場したネット対応2作目。

 だがそれが盛大にコケた。

 ユーザーにデバックさせていると揶揄されるほど散々な出来だったらしい。

 そして発売から1年後にメーカーによるテコ入れが入る。

 新作かと言われるほどの大改修をした光の戦記はPC版以外にもコンシューマー版もリリースした。

 これにより大ヒットし、当初の黒歴史が払拭された。

 月額1500円程度の固定料金。

 コンビニでプレイ権のカードがこどもの頃から売られているのは知っていた。

 だが子供の小遣いで毎月支払うのは無理だった。

 だから中2になって小遣いがUPしたタイミングで思い切って始めてみる決心をする。

 毎月のお小遣いの大部分を注ぎ込むことになるが僕はとりあえずプレイすることにした。


 現代中学生としては珍しいが僕はネトゲ初心者だった。

 その理由はゲーマーである父さんがお勧めのゲームを僕の机に積んでいくから。

 俗にレトロゲーと言われる作品から大人専用のムフフなヤツまでジャンルは様々だ。

 母さんに見つからないようにと釘を刺されている。

 でもさ、母さんって僕の部屋に勝手に入ってきて散らばった衣服や読みかけの本を片付けていく。

 息子のプライバシーなどまったく気にしない。

 これで小学校の教師なのだから信じられない。

 そんな母さんは僕がムフフなゲームをしているのを黙認してくれているようだ。

 ちなみに部屋にPCはあるがネトゲができるような高スペックではない。

 グラフィックボードだかを積んでいないからまともに動かなかった。

 ネットを検索するのに困らないからいいけど。


 さて、なぜ僕がネトゲ初心者であるかを説明する。

 ぼっち気味だからだ。

 陰キャでクラスに数人いる典型的なヲタモブが僕。

 アニメでは携帯ゲームて協力プレイする陰キャ主人公を見るがそんなのは幻想だ。

 僕はゲームはお部屋でするものであって外でするという教育を受けていない。

 小学校教師である母さんは何度注意しても学校に持ち込む児童にブチ切れていたせいで携帯ゲーム機だけは買ってくれなかった。

 だからクラスメイトで協力して素材集めなんてイベントは発生しなかった。

 その代わりに家でのゲームは比較的自由にさせてもらえたのだ。

 疎外感はあったが基本一人が好きなので気にならなかった。

 ただぼっちヲタ陰キャに絡んでくる同級生がウザかったくらいだ。

 そんな僕をなぜか助けてくれたフルコン空手家のレア友ゲットというイベントも発生したりしてそれなり平穏な学生生活を過ごしていた。


 そんなネトゲ初心者の僕のスタートは最低だった。

 一般常識とは懸け離れた環境だったからだ。

 すでに光の戦記というゲームの遊び方が確立されていた。

 稼働から約10年という時間はネトゲ内でのコミュニティーを完成させていた。

 だから新規が入り込める余地はほぼ皆無だった。

 すでにレベルカンストに到達している先行プレイヤーは次の拡張でレベル上限解放を待っている状態。

そんなプレイヤーにとって初心者は邪魔者でしかなかった。

 低レベルダンジョンの途中で迷っている間にボスは討伐される。

 他人にはすでに価値のなくなった装備を回収し、脱出ポイントでダンジョンを出るだけの作業。

 なれないチャットでそんな先行プレイヤーにクレームを入れてもガン無視。

 場合によっては投票でキックされる事さえあった。

 こんなクソゲーやめてやると当然考えたが月額課金なのだ。

 中坊のお小遣いをほぼ注ぎ込んだゲームを投げ出せるほどの度胸は僕にはなかった。

 もう少しやってみれば面白さがわかるかもしれないとゲームを継続して3ヶ月目に出会いが発生した。


『初心者と一緒に冒険してくれる友達募集』


 そうPT募集にあった。

 この手の『釣り』に何度となく騙された僕の心は冷え切っていた。

 初心者を装いメンタルをガリガリ削りにくる悪質な遊び。

 ネットでも調べたがこの光の戦記というネトゲがハラスメントに配慮すると言いながらアカバンには否定的だ。

 実際悪質な行為を運営に通報してもせいぜい数日のログイン停止程度。

 この件についてはネット掲示板でも議論されている。

 だが運営は『嫌ならやめれば?』という感じのスタイルを一貫している。

 だからこのような釣りがなくならないのだった。


「すげーな、ほぼカンストしている」


 PT募集者の情報をサーチしてみる。

 タンク職業『暗黒騎士』だ。

 このゲームはタンク職にプレイヤースキルが求められる。

 PTの盾役として扇動し、場合によっては攻略のマクロまで準備するという暗黙のルールが求められる。

 当初僕もタンク系の蜀を初期ジョブにしていたが諦めた。

 初見のダンジョンでまごついていただけで罵声を浴びせられキックされたからだ。

 ダンジョンはPT募集からと自動マッチングと2種類の方法で突入する。

 基本4人PTで僕以外の3人が玄人プレイヤーなんていうのは珍しくない。

 ダンジョン内でなにかしらの悪質な行為(ハラスメントなど)があれば投票行動を要求できる。

 2人以上の賛成で任意のプレイヤーをダンジョン外へとはじき出すことが可能。

 キックというヤツだ。

 この悪質な行為というのがあいまいで、へたくそでまごついているだけでキックされる場合がある。

 というかプレイ1週間で何度も体験させられた。

 それもあって僕はメイン職をタンクからDPSに変更した。

 PTはタンク1・DPS2・ヒーラー1という構成である。

 だからDPSが1人使えなくてもダンジョンは攻略可能なのだ。

 後日攻略サイトを確認したら初心者はDPSを選ぶべしと書かれていた。

 そんな状況だから募集主が初心者というのは考えづらい。

 20種類以上ある職業をほぼカンストしている。

 まれに見かけるがほぼ終日ログインしていなければ無理だ。

 しかも暗黒騎士なんてタンクの中では玄人好みの職業。

 タンク職の中で最も防御力は高いがDPS(注:この場合は攻撃力という意味)が出しづらいためエンドコンテンツでは嫌われている。

 このゲームはDPSが出せないヤツはカスというゲーム内の常識があるからだ。


「…地雷匂しかしねぇ」


 それでもなんとなく心惹かれた。

 3月に入り春休みが近づいている。

 春休みはすべて光の戦記に費やす予定だ。

 中3の春すべてをネトゲに費やす!

 本来なら受験勉強に費やして少しでも上の学校に行こうとするのが正しいのだろう。

 だが地方都市の進学は都会と事情が異なる。

 勉強すれば一つ上の学校に行けるかもしれない。

 だが遠いのだ。

 バスで小1時間、しかも冬場は間違いなく渋滞する。

 無理をして狙いたいとは思えなかった。

 最も近い学校には問題なく入学できる。

 僕の選択は両親が最低このレベルの学校に行くようにと指定した偏差値50程度の名ばかりの進学校。

 両親の母校ということもあって反対もなかった。

 そんな春休みにやっと初心者から卒業できた出遅れプレイヤーの巻き返しを図る!

 このゲームを諦めきれない僕の決意だ。


「これでまた釣りだったらへこむ…ええい、ままよ!」


 そろそろゲーム内で仲間を探そうと考えていた。

 どうせなら同程度のプレイスキルの人がいい。

 さすがに数ヶ月もプレイしているといい人に当たる事もある。

 明らかなベテランさんで新人に親切にできるプレイヤーもいた。

 でもさ、そういうのって逆に恐縮するんだよね。

 だから同じ位の実力で、同じ速さで成長出来る人をさがしていた。


『はじめまして。

 僕、初心者ですが大丈夫ですか?』


 PTに参加したことが表示されたので挨拶をする。

 まず挨拶をしないとこのゲームではコミュ症認定される。

 ある意味学校より挨拶にうるさい。


『大丈夫ですよー、私も初心者です』


 メッセージがテキストで表示される。

 最先頭を走る攻略組ではボイスチャットで会話しているらしい。

 でもリアルバレを防ぐ意味でそれは避けたい。

 そもそも僕のようなコンシューマー版にそのような機能はない。

 裏で動かせるかもしれないが動作が怪しい。

 特に僕のゲーム機は初期型なのだ。

 エリア内にプレイヤーが集まり過ぎると処理堕ちしてキャラが画面に表示されない。

 ギリギリで動いているのだ。

 ああ、高スペックのPCでやりたい。


『御喧噪を。

 ほぼカンストしているなんてすごいです』


 つたないキーボード操作で入力する。

 春休みはタイピングの練習もしよう。


『単に時間があっただけです。

 私、基本ソロプレイですから』


『でも僕ってメインクエストも終えてないですけど…?』


 すでにメインクエストを攻略可能なレベル50を超えている。

 だけどまたダンジョンで罵声を浴びるのが嫌でメインクエストをクリアしていない。

 メインクエストの最後はライトPT4人からフルPTの8人でのダンジョン攻略になる。

 それは自分を糾弾する人間が増えるのと同義。

 だからどうしてもダンジョンに行く気にはならずほかのジョブのレベル上げをだらだらしていた。


『早速一緒に行きましょう。

 8人になれば責任の所在が薄れて逆に気楽にできますよ』


 その言葉で僕は救われた気になった。

 僕がダンジョンに行くのに怖気づいている理由を理解してくれているようだった。

 それが僕とアベンドさんとの出会いだった。

 ネトゲではありふれた出会いかもしれなかったがコミュ症気味の僕にとってはそうではなかった。

 それから僕とアベンドさんは一緒に光の戦記を冒険するようになった。



◇◇ 閲覧ありがとうございました ◇◇


 実はこの話数は最初に持ってこようと1年くらい前に書いたものです。

 この出だしだと弱いと考えボツにしました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕はネトゲでフレ登録したメンヘラ女から逃げ出した…だがリアルでヤンデレ同級生として回り込まれてしまった!! 玄武堂 孝 @genbudoh500

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ