僕はネトゲでフレ登録したメンヘラ女から逃げ出した…だがリアルでヤンデレ同級生として回り込まれてしまった!!
玄武堂 孝
第001話 桜、咲く
漫画・アニメの中では入学式では桜が咲いている。
だが僕が生まれ育った北東北ではそんな時期に桜が咲くことはない。
基本入学式が終わった数週間後に咲く。
GW前半に観桜会と呼ばれるイベントが開催され散ると同時に楽しい休みが終了するのだ。
「こんなに早く桜が咲くなんて初めてだな」
入学式に向かう途中、車の窓を開け父さんが呟く。
「観測史上最速だってニュースで言っていたわ」
それに助手席の母さんが相槌を打った。
相変わらずいい年をして仲がいい。
IT関係の会社で社畜をしている父さんと小学校の先生をしている母さんが結婚したのは遅かった。
もう同年代にはお孫さんがいる年にも関わらずベタベタしている。
あえて言いたい。
リア充爆発しろ!
「桜の中で入学式なんてレージは運がいいな」
後ろの席から負のオーラを漂わせていた僕をバックミラーで確認しながら父さんが苦笑する。
父さんは普段僕を放置気味だが肝心な時はしっかりフォローしてくれる。
ベタベタされるのが好きじゃない僕の性格を理解しての距離感がありがたい。
それに反して母さんは距離が微妙だ。
学校では児童に対して適切な距離で接するいい先生だと評価されているのに。
息子である僕を昭和の悪ガキのような態度で接し、時には鉄拳制裁上等である。
殴られずに一人前になった男がどこにいるものか!(ブライト・ノア)
昭和の偉人の言葉が我が日向家ではいまだに受け継がれている。
勿論令和の現在では虐待だ。
学校では一度も暴力を振るった事のない教師生活25年オーバーの母さんは家庭では暴君だ。
だから息子のデリケートな部分に土足でズカズカ踏み込んでくるのだ。
「ところでアンタ、少しは立ち直ったの?」
その言葉で和気あいあいとしていた車内に微妙な空気が広がる。
「…ぼちぼち、かな?」
一瞬熱くなったが流した。
母さんなりに気を使っての質問だとわかっているからだ。
「…そう」
会話が途切れたまま車は進む。
そんな車の中で僕は数ヶ月前にあった事件を思い出す。
僕は友達とケンカ別れをしてしまった。
といっても現実ではなくネトゲの仲でのいわゆるフレというやつだ。
30年以上続くRPG『光の戦記』、そのネトゲ版で僕らは出会った。
稼働からすでに10年近いネトゲには珍しい新規の僕らが出会った。
初心者の対応がダルイという雰囲気のプレイ環境で二人が出会ったのは偶然か必然か?
僕らは半年ほどペアを組んでプレイした。
彼女の名は『Abend』、『アベンドさん』。
ネットで調べるのが面倒だったので父さんに質問するとその意味は『不正終了=アブノーマルエンド』の略らしい。
父さんの会社の先輩が使っていたコンピュータ用語とか。
このことから中の人は年配のIT関係の人だろうと僕は推測した。
少なくとも学生ではないと思う。
だって学校関係の話が一切でなかったから。
ただ会話の雰囲気から女性であるのは間違いない…と思う。
何度かボイスチャットに誘われたけどお断りした。
やっぱりリアルバレは避けたかったからだ。
それに最初はいつでも関係の切れる都合のいい友人と考えていた。
でも一緒にプレイする時間が増えるにつれ彼女を大切な友人であると意識するようになっていったと思う。
リアルでは陰キャでヲタモブの僕は微妙にコミュ症気味で友達が少ない。
だからこそ一度出来た友達は大切にするタイプだ。
そんなアベンドさんとの関係が壊れたのは受験がきったけだった。
年明けの受験勉強の追い込みでINが少なくなっていた。
同時に大型アップデートが重なりソロでプレイしなければならないコンテンツの処理にも追われた。
そんなどうしようもない状況の僕にアベンドさんからつきまとわれた。
多分単に一緒に遊びたいということだったのだろうが当時の僕には他人の気持ちを汲み取る余裕がなかった。
だから率直に距離を置こうと提案したのだ。
だがその言葉で彼女は豹変した。
提案を頑なに拒否し、以前にもまして僕に粘着するようになった。
INと同時に即接触する行為を繰り返した。
そう、早朝でも夜中でも24時間ひたすら…。
その対応としてストーカーと化した彼女をブラックリスト入りさせ接触を断ったのだった。
その後はほとんどINしていない。
ブラックリスト入りしている彼女から僕に接触する方法はほぼない。
だが正直怖い。
なぜこのようなことになったのかという疑問。
それと同時に心のどこかで仲直りできるならしたいという僕がいる。
高校合格を聞いたと同時にストレスから解放され物事を冷静に考える時間ができたからだと思う。
そんな僕を間近に見ていた両親を心配させたことも心苦しいと感じる。
僕がこれから入学する西高はなぜか市内にはない。
ないのである。
それどころか平成の市町村合併の煽りを受けて別の死にあるという謎仕様。
当時の町長が強引に誘致した結果という説を卒業生である父さんから聞いた。
ちなみに母さんは同級生。
そんな〇十年前に通ったであろう通学路を車は進んでいた。
「あれ?こんなところにドラックストアができているわ。
昔はなにがあったんだっけ?」
「梨園だったな」
微妙な雰囲気を払拭しようと母さんが明るい声を上げ、それに父さんが答える。
「大きなガソリンスタンドねぇ。
ここはなにがあったのかしら」
「ラブホだよ」
高校の近くにラブホってどうなの??
まあ実際に田舎すぎてこれからの学校生活が心配になるレベルだけどさ。
「ほら、二人で使ったときに窓を開けたら野球部の新堀…だったかな?の練習の声が聞こえてきてベッドの上で大爆笑しただろ」
父さんと母さんは学生時代からバカップルだったんだな。
二人の会話で空気が和んだような気がしたが間違いだった。
なぜか母さんの周囲の空気が冷たい。
「…それ、相手は私じゃないから」
「やべ!!
HAHAHA!アメリカンジョークさ!!」
必死で誤魔化す父さんをどうフォローしたらいいか悩む。
少なくとも運転中は殴るのをやめておいたほうがいいと母さんに助言するのだけは忘れない。
「ところでな、レージ。
我が母校には伝説の桜というのがあってだな」
父さんが露骨に話題を変えようとしている。
さすがに刃傷沙汰で夕方6時のローカルニュースのトップを飾るのは避けたい。
ここは貸し一つだからね、父さん。
「卒業式の日に伝説の桜の下で女の子から告白して生まれたカップルは永遠に幸せになれるという逸話があるんだ」
「それさ、『ときメモ』と『ダ・カーポ』のパクリじゃないの?」
父さんにやらされたレトロゲーを思い出す。
俗にいうギャルゲーだ。
「俺らが在学中からあった伝説だからこっちがオリジナルだ」
「そうね、私達が在学中からあったのは事実だわ」
父さんのヨタ話を母さんがフォローした。
だとすれば事実なのだろう。
「卒業式って3月の初旬でしょ。
その年にもよるけど結構雪が残っている場合もあるの」
母さんはどこか懐かしい感じで語り始める。
「そんな寒い中で待ち続けた女の子の想いで結ばれたカップルが幸せになるのは当然ね」
ナンカイイ話ダナー。
「もしかして母さんも父さんに告白したの?」
「卒業式のあと下駄箱に手紙を入れて伝説の桜の下で待ったわ」
おお!このバカップルならちゅーくらいしたよね?ね?
「そう、真夜中までひたすら伝説の桜の下で。
いつまでも帰宅しない私を捜しに警察まで動いたのよ」
ちょ!父さん!?
いつまでも帰ってこない娘を心配した親族が警察に連絡。
同時に連絡網をとおしてクラスメイトに電話をかけまくったらしい。
ちなみに携帯電話なんて便利なアイテムがなかった時代である。
たまたま告白する件について知っていた友人の証言によって母さんは確保された。
ブッチした父さんは卒業したその足でそのまま東京に出た。
以降十年近く実家とさえ連絡をとっていなかったという。
どのような経緯でぼくという子供が誕生したのか聞くのが恐ろしい。
ちなみに父さんは『そんなことがあったんだ』と他人事だった。
□□□ 閲覧ありがとうございました □□□
毎週月曜朝更新予定です。
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