???

 同じベッドの上で、ボクらは横になった。


「もう少しで、夏休みね」


 ボクが怖くないよう、お姉ちゃんがこめかみを撫でてくれる。


「……うん」

「予定、あるの?」

「友達とキャンプに行く」


 にこりと笑ったお姉ちゃんに抱きしめられた。

 甘い香りがして、顔には柔らかい感触が当たった。


「どこに?」

「近くの、キャンプ場」

「……お姉ちゃんも、ついて行こうかな」

「それは……」

「ふふ。冗談よ」


 後頭部を撫でられ、体中の緊張が解れていく。

 ボクの優しいお姉ちゃんは、何か怖いことがあると、こうやって抱きしめてくれた。


「可愛い子」


 仲良くなってからは、抱きしめられる頻度が増えた。

 ボクはお姉ちゃんの背中に腕を回し、胸に顔を埋めた。


「大好きよ。リク」

「お姉ちゃん……」


 両足が尻に回される。

 全身できつく抱きしめられ、少し苦しかったけど、心が満たされた。


「大人になったら、引っ越ししない?」

「どこに?」

「わたしが住んでた村があるの。そこなら、リクと一緒に、楽しく暮らせると思う」


 田舎暮らしか。

 今住んでる場所も田舎だけど。

 田舎から、さらにど田舎に越すのは、さほど環境の変化がないように思えた。


「リク」

「うん?」

「お姉ちゃんのこと、……好き?」


 顔を上げると、薄い笑みを浮かべたお姉ちゃんが、ジッとボクを見つめていた。


「……好き」

「ふふ」


 両足が回された。


「お姉ちゃんね。ずっと怖かったんだ」


 背中を撫でまわされると、ドキドキとした。

 甘い香りと柔らかい感触で、脳がどうにかなりそうだった。


「リクに嫌われるんじゃないか、って」

「嫌わないよ」

「そうかな。……お姉ちゃんは、お姉ちゃんだって、覚えててくれるのかな」

「なにそれ」


 お姉ちゃんと両足とボクの


「……?」


 違和感があった。


 背中を撫でまわされる手の感触。

 尻に食い込む、お姉ちゃんの足。

 膝裏を固定する、お姉ちゃんの足。

 愛でるように、足先に絡めてくるお姉ちゃんの足。


「お姉ちゃん」

「なあに?」


 頭の整理が追い付かず、ボクは固まってしまった。

 何も言えないでいると、不意に耳へお姉ちゃんの息が掛かった。


「可愛い子。本当に大好き」


 お姉ちゃんが物静かな声色で、吐息混じりに耳元で囁く。


「出会った時から、ずっと。可愛くて、可愛くて」


 両足が、きつく食い込んできた。

 同時に頬と頬を擦り付けて、お姉ちゃんが甘ったるい声で囁く。


「……離したくないの」


 ボクは何も言えなかった。

 お姉ちゃんは、確かにお姉ちゃんだったけど。


 ――何か、変だ。


「おねんね、しましょうね」


 背中を撫でられ、ボクは目を閉じる。


 ボクには見えないように、お姉ちゃんが変わっていた。


 お姉ちゃんだけじゃない。

 お姉ちゃんや母さんは――ボクに何か隠してる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボクのお姉ちゃんは……。 烏目 ヒツキ @hitsuki333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ