お風呂

 お姉ちゃんは長風呂だ。


《ゴト……ッ……ゴゴ……ガタン……ッ》


 そして、うるさい。

 浴室からはシャワーを浴びる音が聞こえてくるけど、何をそんなに引きずるものがあるのだろうか。


 ボクは今、リビングでテレビを観ているのだが、ここまで音が聞こえてくる。


 母さんは、斜め向かいのソファに座って、一緒にテレビを観ていた。


「ねえ。母さん」

「なに?」

「お姉ちゃんって、何でお風呂入ってる時、あんなにうるさいの?」

「女の子には色々あるの」

「いやいや。うるさすぎるでしょ」


 と、言ってる間にも、音が鳴り響いている。


《ガタ……ッ、ガタガタッ》


 風呂の椅子で遊んでるような音だ。


「様子見てこようかな」


 そう言って立ち上がると、母さんが上体を起こした。


「リク!」


 驚いて、固まってしまった。

 いきなり大声で怒鳴らなくてもいいと思うのだ。

 すごい剣幕で声を張り上げたので、反応が遅れてしまった。


「な、なんだよ」

「お姉ちゃん、お風呂入ってるって知ってるでしょ」

「……うるさいからさ」

「男と違って、洗う所がたくさんあるの。これだけ言っても聞けないんだったら、今すぐ追い出すからね!」


 ボクだって、バカじゃない。

 男と女の体の違いなんて、言われなくても分かってる。

 長風呂だって事も、テレビでよく聞くフレーズだ。


 それにしたって、かれこれは入ってる。

 加えて、このうるさい物音。


 気にならないはずがなかった。


 中学の時から、ずっと気になっていた。

 それが、どうして今になって、ボクがお姉ちゃんの事を気にしているかと言えば、成長するに連れて、不思議な点に気づいてきたからだ。


 始めの一年は、慣れるまでの時間。

 残りの一年は、仲良くなるまでの時間。


 だから、気になっても、気にしないようにしていた。


 だけど、慣れてしまうと、心に余裕が生まれる。

 そこでお姉ちゃんの不思議な点について、ふとした時に考えると、謎が解けないのだ。


 深まる疑問は、数が増えていくばかりで、今に至るのだ。


「倒れてるかと思って、気にしただけでしょ。怒んないでよ」

「まったく」


 ソファに座ると、母さんは再びテレビを観始めた。


 ――なんだってんだよ。


 半分いじけてしまい、ボクはテレビを眺めている間、お姉ちゃんがお風呂に入っている音に、ずっと耳を傾けていた。

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