いつから

 放課後になると、部活がある人は、さっさと教室を出て行く。

 ハルトくんはバスケ部なので、「じゃな」と挨拶をし、他の男子と一緒に体育館へ向かった。


 ボクはもっとクラスの人達と仲良くなるために、部活に入ろうか迷った。それに、今まで帰宅部だったから、「何かしてみたい」という気持ちはあった。


 でも、踏ん切りがつかず、ズルズルと入部の機会を逃してしまい、帰宅部に落ち着いてしまったのだ。


「リクくんって、バスだっけ?」

「あ、うん」


 カバンを持ったサナさんが話しかけてきた。


「途中まで一緒に行こ」


 頷いて、ボクはバス停までサナさんと一緒に行くことにした。


 *


 バス停に行くと、ボクとサナさん以外、誰もいなかった。

 サラリーマンが帰るには早すぎる時間。

 他の生徒は部活や徒歩での下校。


 だから、ベンチに二人で座り、バスが来るまで喋ることにした。

 どのみち、お姉ちゃんを待とうと思っていたから、丁度いい。


「ヘビってね。人に懐かないの。だから、可愛がることはあっても、心を全部許しちゃいけないんだ。油断しちゃいけないっていうか」

「……へ、へえ」


 サナさんは変わってる。

 自宅でヘビを飼っているらしいが、普通の女子はヘビを飼うどころか、見かけるのも嫌だろう。


「何のヘビが好きなの?」

「アオダイショウ。可愛いよ。毒はないし」


 ボクにはヘビの違いが分からない。

 でも、ボクにはない価値観や視点を持っているからこそ、サナさんの変わった趣味の話を聞くのは、楽しかったりする。


 話し込んでいると、サナさんがこんな事を聞いてきた。


「ねえ。リクくん」

「ん?」

「リクくんって、……好きな子とかいるの?」


 好きな子、と聞いて、意味が分からないほど鈍くはない。

 女子の事を頭に思い浮かべると、お姉ちゃんのことが浮かぶ。

 でも、好きというより、気になってしまう存在だった。


「特に、いないかなぁ」

「そっか」


 足をブラブラさせ、サナさんが前を向く。


「あ、あたし、さ」


 チラチラとこっちを見て、搾り出すように声を発する。

 だが、その途中でサナさんは口を開けたまま固まり、首を傾げた。


「あ、れ?」


 視線を辿り、ボクも横を向く。

 ボクの隣には、お姉ちゃんが座っていた。


 足を揃えて、膝の上で手を組み、地面を見つめてジッとしている。


「いつの間に、出てきてたんだ」

「掃除、当番だったから」


 サナさんが袖を引っ張ってきた。

 声には出さないけど、眉を動かし、ボクとお姉ちゃんを交互に見てくる。


 意図を察し、ボクはお姉ちゃんを紹介した。


「あ、ボクのお姉ちゃん。二年生だから。会った事なかったよね」

「ど、どうも」


 サナさんがぺこりと会釈をする。

 お姉ちゃんはジッとしていた。

 何も反応がなかったので、ボクは慌てて、お姉ちゃんの膝を指で突く。


「……姉の、……アオイです」


 ようやく会釈を返してくれた。

 居た堪れない空気に耐えかねたのか、サナさんが立ち上がった。


「ん、それじゃ、まあ。あたし、歩きだから。……あはは。またね。リクくん」

「うん。じゃあね」


 サナさんが背中を向け、離れていく。

 背中を見守っていると、少し離れた先で、サナさんが振り返った。


 何も言わなかったけど、首を傾げているのが見えた。


 それから、今度こそサナさんは家路に着いた。

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