日記

 夜、宿題をしていると、ボクは何となしに壁の方を見つめる。


《キシ……キシ……キシ……っ》


 お姉ちゃんの部屋からは、ずっと木の軋む音が聞こえてくる。

 声を掛けると止むけど、何をしているかまでは分からない。


「今日も日記書かないと」


 ボクは日記を書いている。

 几帳面な性格ではないし、日記というものを付けた始めたのは、お姉ちゃんと出会ってからだ。


「うーん……」


 ボールペンをかじり、今日の出来事をなるべく詳細に書いた。


『ボクのお姉ちゃんは――』


 ――どこか、


 みんな気にしてないようだけど。

 一番近くにいるボクには、とても奇妙に思えた。


 優しくて、いつも落ち着いていて、人形のようなお姉ちゃん。

 たまに、端正な顔立ちが、本当にフランス人形か何かにしか見えなくなってくる。


 黒目玉しか見えないけど、目はガラス細工のように綺麗だ。

 光の反射で、目の表面の艶がハッキリと分かる。

 普通は、透き通っているものに、美を感じる。


 けれど、お姉ちゃんは真逆だ。


 何も透き通っていない。

 黒い球体。

 真っ黒だった。


「何が変なんだろう」


 姉の事が気になり、知りたくて、日記をつけ始めた。

 言わば、メモ帳である。


「ていうか、……お姉ちゃんって」


 日記に書き留める。


 ――歩く時、足音が変だよな。


 普段は軽い足音。

 でも、たまに足音が完全に聞こえなくなる瞬間があった。


 とてとて、というのが普段の足音。

 そして、普通はそれが持続していく。


 だが、姉の場合は《とて……と……て……とてとて……》と、リズムが変だった。


「変じゃないよ」

「え?」


 声がして、後ろを振り向く。

 ボクの後ろにはベッドと、クローゼットがあるのだが、特に変わった様子はない。


「……変なの」


 首を傾げて、日記の続きを書いた。

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