天井の音

 日記を付けている時に、ふと気づいた。


「天井かな……」


 物音がするのだ。

 ヒタヒタと肌が材木に張り付く音。

 でも、天井裏には歩けるスペースなんてないだろう。


 そういった理由から、風で家が軋んでいるのか、ネズミかと思った。


 思い込もうとしたが、やはり気になる。

 椅子から立ち上がって、上を見上げる。

 真っ白な天井。


 ふと、電気の紐が目に留まった。

 僅かだが、左右に揺れているのだ。


「おかしいな」


 この時、ボクは自分でも分からないが、お姉ちゃんのことが頭に浮かんだ。


 一応、お姉ちゃんの部屋に向かう口実はあるし、もう一度あの部屋を見て見たかった。


 本棚はなく、ベッドもなく、テーブルが真ん中にポツンとあるだけ。

 部屋の隅には、制服を掛けるところがあり、その下にカバンが置かれていた。


 お姉ちゃんの部屋は、たったこれだけの私物しかなかったのだ。


 怖い、という理由で姉の部屋を訪れようと、ボクは部屋の外に出た。


 その時だった。


《……ミシ……ミシ……ミシミシ……ッ》


 天井の物音は、確実にボクの真上から聞こえた。

 驚いて立ち止まると、音が通り過ぎていく。


 壁に耳を当てて、音に耳を澄ませると、隣の部屋から物音が聞こえた。


《ギシッ、……カタ……カタ……ッ》


 何の音だ。

 うすら寒い感覚を覚えたボクは、静かに姉の部屋のドアをノックした。


 コン、コン。


「お、お姉ちゃん」


 絶対におかしい。


「入ってもいい?」


 鍵が掛かっているだろうけど、試しに開いてみようとした。


 ドアノブに手を掛ける。――と、向こうからドアが開かれた。

 ほんの少しの隙間を空けて、お姉ちゃんが目だけを覗かせる。


「どうしたの?」


 ドアの隙間からは、お姉ちゃんの首から上しか見えなかった。


「変な物音、聞こえなかった?」

「聞こえないよ」


 ボクをじっと見てくるお姉ちゃん。


「怖いの?」

「うん。少しだけ」

「一緒に、……寝てあげようか?」

「……うん」


 すると、お姉ちゃんは「待ってて」と再びドアを閉める。


 ドアの向こうからは、卵を何個も割るような、パキパキとした音が鳴っていた。


「部屋に、行ってて」

「わ、分かった」


 ドア越しに言われて、ボクは大人しく従う事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る