秘密

姉の部屋

 リビングでテレビを観ていると、母さんが食器を洗いながら聞いてきた。


「お姉ちゃんは?」

「分かんない」


 休みの日。

 ボクは家でダラダラと過ごしている。

 たまにお姉ちゃんと並んで、ソファで寛ぐこともあるけど、大抵はボク一人だった。


「あー……」


 と、母さんは口を開けて、上を見た。

 何か考え事だろうか。

 うめき声のように声を伸ばし、急に黙る。


「なに?」


 気持ち悪いな。

 振り返って母さんの方を見ると、今度は難しい顔をしていた。


「今日は、早めにお風呂沸かした方がいいかしら。リク。お湯張ってきて」

「えぇ。メンドくさいよ」

「早くして。母さん忙しいんだから」


 そう言って、また食器を洗い始めた。


 *


 お姉ちゃんは休みの日になると、こうやっていなくなる時がある。

 どこで何をしているのか、ボクには分からない。


「待てよ。今、お姉ちゃんいないんだったら……」


 前々から気になっていた。

 お姉ちゃんって、どういう部屋にこもって過ごしているんだろう。


 蛇口をひねり、お湯と水を両方出して調節すると、ボクは風呂場から出て行く。


 リビングを通り過ぎ、何となく忍び足で階段を上った。

 階段を上がり、物置部屋を過ぎて、真ん中の部屋。


「なんか、気になるんだよな」


 ボクはお姉ちゃんの部屋を見たことがない。

 たぶん、異様な事だと思う。

 同じ屋根の下に二年もの間住んでいて、ボクだけ姉の部屋の内装を知らないのだ。


 好奇心に駆られて、ドアノブに手を伸ばす。


 普段は鍵が掛かっているけど、今日は開いていた。

 ゆっくりとドアを開き、首を伸ばす。


《……ワサ……ッ……》


 茂みを掻き分けるような、変な音がした。

 薄暗い室内を覗くと、ボクは唖然としてしまう。


「……なにこれ」


 部屋の中は、蜘蛛の巣でいっぱいだった。

 天井。壁。床。

 ドアを開けたことで風が入り込み、大きくて白い糸が揺れる。


 何より、奇妙だったのは、のだ。


「リク? お湯出しっぱなしで、どこ行ったの?」


 下から母さんの声が聞こえて、ボクは音を立てないよう、ドアを閉める。


 階段を下りて、一階に着くと、「なに?」と何事もなかったかのように、平静を装った。


「お湯熱すぎるわよ。ちゃんと調節して!」

「したってば!」


 口答えをすると同時に、ボクは背筋が寒くなった。

 でも、疑問を解消する答えが自分の中で見つからず、「何だったんだろう」と首を傾げることしかできなかった。


 ていうか、ベッドがないなら、どこで寝てるんだろう。

 一つ、疑問が増えただけだった。

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