第11話

ズキッズキッ!

「痛い!」


痛みで意識が覚醒する。

身体中、何処もかしこも痛い!

身体を動かそうとするが、それもできない。

覚醒した意識がはっきりとしてきて、次第に現状を思い出す。


「・・・土砂崩れ!・・・そうか、俺は家の下敷きになったのか」

自分の置かれた状況をはっきりを思い出した。


「さて、取り敢えずギリギリだが生きてはいる。と言う事は、生き残るのが次の目標なんだが・・・これって雨水だよな」

うつ伏せの身体の下側に雨水が溜まり始めている。


確か、後数歩で外に出られそうだって所で、家が崩れたんだよな。

何かが身体を押し倒して、頭にガツンとぶつかった記憶がある。

つまり、俺がいる場所は玄関の土間部分な訳だ。

本来なら排水口があるから、雨水が溜まったりしないはずの土間に雨水が溜まり始めてるってことは、排水口が詰まってるってことだろう。

まあ、原因は家が倒壊したからだろうな。


土間部分は雪解け水が入ってこないように縁がかさ上げされてるから、排水されない状況だと水が溜まるのも理解できる。

ただ問題は、俺が動けないのに水が溜まってることだな。


つまり、救出されるか、自力で脱出するか、雨水が溜まって溺死するか、家が更に崩れて圧死するかの四択か?

運が無いな、俺は・・・


この村の状況では、救出の望みは薄いだろう。

人手は老人ばかりだし、救助要請しても、この山の中では直ぐには来れない。

ここが崩れたってことは、他の場所でも崩れてる所がある可能性もある。


自力で脱出するにも、ギリギリで潰れずに助かってる形で満足に身体を動かせる隙間も無い。

全く光が見えない暗闇であることから、完全に倒壊した家の上に土砂が覆い被さっている可能性もある。

重量にして数十トンの土砂。

土砂の排除は手作業では無理、重機が必要だ。


つまり、残り二つの選択肢しか選べないことになる。

「詰んだか?・・・いや!もう一つあった!」


そうだ!アトランティスに逃げる方法があった!

貴重品の入った鞄は右手で触ってる感覚がある。

左手にも鞄の取っ手を握ってる感覚もある。

避難用に用意した物は、手元にある訳だ。


問題は、鞄から例の箱を出して胸元のタグをきちんと並べられるか?ってことだ。

暗くて何も見えない状況で、それは非常に難しいだろう。

可能性としては、サバイバルグッズの中にLEDライトが入っているくらいか。

取り出せれば、光源を確保できる。


「それだけの動作をできればだけど・・・」


どんな動作で崩れるか分からない状況で、無理に動くことはできない。

慎重に動ける範囲を確認しつつ、身体を動かす。


貴重品の入った鞄は肩紐が肩に掛かったままだな。

左手で握ってるのは二つ分の鞄の取っ手だ。


左手側のバッグをできるだけ引き寄せ、中身を取り出せる位置に移動させる。

手触りで鞄の種類を判断し、目的の鞄を選ぶ。

指先の感覚だけで鞄のジッパーを探し、鞄を開ける。

中に手を入れ、手探りで目的のライトを探し出した。


スイッチを入れると少しだけ視界が明るくなる。

光があるだけで、少しだけホッとした。


右手側の方が少し動かせる隙間が広い。

左側より楽に目的の箱を取り出すことができた。


胸元からタグを引っ張り出して箱の上に、順番通りに並べていく。

最後の一枚を乗せる直前、頭上でギシギシ、ミシミシと音が鳴る。


その音が危険な音であることは瞬間的に理解できた。

慌てながらも、正確にタグを置いて箱が光ったのと、外で雷が鳴った音と、頭上部分が崩れるのは・・・ほぼ同時だった。



*** *** *** *** *** ***



グシャっ!ズドンッ!ガラガラガラッ!

源三の目の前で、幻が住んでいた家が潰れた瞬間だった。


避難所に指定していた集会所に、凶報がもたらされたのは十分ほど前だった。


「おいっ!幻はいるか!」

「どうした?」

「幻の家の裏山が不味い!崩れるかもしれん!」

「幻は風邪気味だっって言って、家で寝てるぞ!」

「誰か、幻を連れて来てくれ!」

「儂が行く!」

そう言って集会所を出たのが源三だった。


土砂降りの雨の中、老体に鞭打っ走り、やっと辿り着こうとした所で最悪の事態が発生した。

危惧していた裏山が崩れたのだ。

その土砂は、下にある幻の家を直撃した。


源三が幻の家を視界に入れた瞬間、土砂の重みで倒壊する家屋を見たのだった。


「幻!幻!返事をせいっ!幻!聞こえんのかっ!」

源三が叫ぶが、その声に返事は返ってこない。

土砂降りの雨音で掻き消されているかもしれないが、そんなことに構っていられない。

何とか幻を探さなければ!


源三は幻の隣の家を目指して走り出した。

『電話が必要だ!集会所に連絡せねば!』


源三の家では無いが、勝手に入って電話を掛ける。


「おいっ!幻は行ったか?!」

「来てねぇ!」

「裏山が崩れた!幻の家が潰されるのを見た!男手を出してくれ!」

「なんだって!分かっ・・・」

「なんねぇ!雨が止むまで手出しすんなっ!」

「なしてだっ!村長っ!」

「二次災害になるっ!幻を助けるために誰かが危ねぇことすんのを、幻が喜ぶと思っかぁっ!」

「だが、だが、今なら助かるかもしんねぇ・・・」

「儂だって助けたいわっ!じゃが、この雨ん中手作業で、どんだけのことができようにっ!」

「どげんすっと言うんじゃ!」

「救援要請じゃ!電話する!」


源三の望みも空しく電話が切れた。

切れた電話を前に、膝を着いた源三は祈った。

「幻はまだ若いんじゃ。こんな老いぼれを生かさず、幻を生かしてくれっ!頼む、神様!」


それに応えたのか、それとも拒否したのか、外で大きな雷の音が響いたのだった。



*** *** *** *** *** ***



土砂降りの雨音が聞こえない。

そのことに気付いて、そっと目を開く。


「間一髪、間に合ったかっ!」

俺は、その言葉と共に安堵の息を吐いた。


ここでやるべきは、まず自身の身体の確認だ。

少なくとも頭に落下物を受けて気絶し、身体が家の倒壊に巻き込まれたのだ。

どこかしらに怪我や打撲、打ち身などはあるだろう。

プラス、頭への一撃は何が起きるか分からないし、、経過観察するしかないだろう。

もしここに医療施設があれば検査などをしてもらえるかもしれないが、それもどうなるかは今のところ分からないしな。


頭は、後頭部にデカイたんこぶができてるな。

触るとかなり痛い。

身体は、アチコチに打ち身ができてる。

簡単に確認しただけだが、後で十ヶ所以上が青痣あおあざになりそうだ。

あとは確認した限りで、大きな外傷は無いみたい。


やっぱり、一番の懸念は頭だろうな。

こればっかりは、ここで座ってても何も分からないってことだ。


つまり、この部屋を出る必要があるんだが、なかなか部屋を出る勇気が出ない。

手持ちの荷物を確認したり、濡れた服を着替えたりと時間を潰してたんだが、そろそろやることも無くなってきた。


もう一度手帳を読んで、この部屋周辺の情報は頭に入れた。

やることも、やってはいけないことも確認済みだ。



じゃあ、頑張って部屋を出るぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る