第3話

「なっ!なっ!・・・「しー、静かにね。驚いているだろうけど中に入ってから話すから、今は着いて来て」」

咄嗟に口を押さえて頷く。


目の前で東さんが棚の後ろから現れた地下に続く階段を降りて行くのを見て、その暗さに不意に怖さを憶えながらも何とか後に続く。

東さんが悪い人で、この誰も知らない地下室で天涯孤独な俺に何かしても、誰も気付くことすらないだろう。

だが、何故か俺には東さんに対する恐怖心は無かった。

何故か?と聞かれても理由は俺自身にも分からない。


階段を五段ほど下りると背後で入り口が閉じてしまい、その瞬間暗闇に包まれる。

が、直ぐに足元の階段に明かりが点いて、その場を照らしていた。

階段は螺旋階段だったので深さは分からない、階段をを下りながら東さんが話し始めた。


内容は、まあ俺が聞きたかったことなので静かに耳を傾ける。


簡単に言えば、俺が知っていた両親の仕事はだったと言うことだ。

やはり世界的にも有名な冒険家だったらしい。

ただ、有名故に危険もあったのだと言うのだ。


簡単なところだと、タチの悪いトレジャーハンターに狙われたり、マフィアに狙われることもあったとか。

俺は、そんな危ないことが起きているなど全く知らなかったが、じっさいは俺も狙われたことがあるらしい。

俺に、そんな記憶は無いんだけど?本当かな。


その時は両親がいち早く気付いて対処したので、俺が知らなくても普通だって言うけど「両親は何やったの?」

その質問の答えは貰えなかった。


その後も両親の冒険家だった頃の話を聞かされながら階段を下りること百段以上。

内心で『どんだけ深いんだよ!』と思いつつ下り続けた。


「ここが目的地の部屋。ここの物は全て君に所有権がある。と言ってもボストンバック一つ分くらいの物しか無いけどね。ただ、価値は凄いよ。この部屋の中身を知ったら、世界中からが奪いに来るぐらいのお宝だね」

えっ!怖いんだけど。

俺ただの一般農家だよ。


俺の気持ちなど、お構い無しに扉を開いた東さんは中に入って行く。

部屋は全面が金属製の壁や床になっていて、映画で見た巨大な銀行の金庫室みたいだった。

その部屋の中央に俺の背丈ほどある金庫が鎮座している。

壁にも棚の様な場所があるが、今は何も無かった。


「この金庫の中身以外は全部私が海外に持ち出したよ。この国では所持できない物が多かったからね」

俺の視線から読み取ったのか、聞きたかった疑問に先に答えてくれたんだけど、その所持できないってのは・・・銃って言いませんかね?


「ご両親の活動場所は海外がメインだったから、どうしても必要だったんだよ。この国の許可も持ってたんだけど、警察とかと違って公に持つことは許されていなかったからね」

またの心を読んだように答えてくれるが、国の許可ってあったんだ?ってか、どうやって取ったんだろ?


「さて、この金庫の中身。私は何があるか聞いてはいるけど見たことは無いんだ。見ただけで命を狙われる危険性があるって言われたからなんだけど、幻くんは見るかい?」

「いやいや、怖いんですけど!見ただけで命狙われるとかアヤバ過ぎでしょ!」

俺の言葉にウンウンと頷きながら、東さんが「そうだよねぇ」と相槌を打ってる。


「でもね、これは君にご両親から託された物でもあるんだよ?」

そう言われてしまえば、見ないと言うのも何か悪い気がしてくる。

取り敢えず、暗証番号だけでも聞いておくかな?


「えっ!暗証番号かい?私は知らないよ。今日子さんは、幻なら赤ん坊の時から聞かせてるから憶えてるわよって言ってたけど?」

「はぁっー、聞いてませんよ暗証番号なんて?」


「おかしいな?えーっと、ああ、これで入力するみたいだね」

東さんの言われて見てみると、そこには金庫とひとつになったキーボードがあった。

見た感じは、パソコンのキーボードと同じに見える。

キーボードの上に細長い液晶があるから、あそこに暗証番号が表示されるんだろうけど・・・液晶の画面、長くねぇ?


「随分長い暗証番号のようだね。これだと百桁ぐらいあるんじゃないかな?」

「無理無理、百桁の数字なんて聞いてたとしても間違えずに憶えてる訳が無いでしょう」


「じゃあ、キーボードだし、文章とか?」

「それは・・・ありえるかも?でも、聴いた記憶は無いんですけど・・・」


「まあ中身を見るにせよ、見ないにせよ、全て君次第だよ。君に手を貸せるのは、ここまでだけど、助けが必要なら言って欲しい。そのぐらいはサービスするからね」

「サービスって、普通はお金を取るんですか?」

つい何気無く聞いてみた。


「勿論!それを仕事にしてるからね。君のご両親は私の友人でもあったけど、お客さんでもあったんだよ」

「・・・そっそうですか」

まさかの答えに、それしか言葉が出なかった。


「さて、私はここで失礼するよ。中身を見る訳にはいかないからね。あと、本を代筆した時の資料は既に破棄したから残ってないんだ。欲しかったかも知れないけど、それがご両親の望みだったんでね。さっきも言ったけど、何か助けが必要なら連絡してくれて良いからね。サービスなんだから」

色々良いたいが言葉にできず、後ろでに手を振る東さんを見送るしかできなかった。


しかし、そうかもう資料は全部破棄されたのか。

少しだけ両親の本当の仕事だったという冒険家の成果を見てみたかったという思いがあったが、無くなってしまったのでは、どうしようもないな。


階段を上がって行く足音が聞こえなくなった所で、目下の問題である金庫と向かい合う。

百桁か百文字か分からないが、俺が赤ん坊の時から聞かせられてたってことがヒントなんだろう。

さて何があったかな?


・・・ああー!アレかな?

俺が小さい頃お気に入りだったアレかもしれない!


アレは母のオリジナルの歌だったはず。

確かに小さな頃から聞かされていた冒険の話を歌にしたものだったな。

でも百文字じゃあ足りないんだけど、まあ入力してみれば分かるかな。


「えーっと、確か出だしは、暗くても勇気を出して一歩を踏み出そう。だったっけ?」


それから母の歌を思い出しつつ入力をしていく。

百文字を越えたところで、文字がスクロールすることに気付いた。


「なるほどね。これなら全部打ち込めそうだ」


更に打ち込むこと二百文字ほどで、全部の入力が終わった。

後はエンターキーを押すだけだが、なかなか押せないでいた。


見ただけで危険だと言われたことで、見たいと言う気持ちと、見たくないという感情がせめぎ合っていたのだ。

数分か、数十分か、迷っていた時間の感覚が無くなった頃、意を決してエンターキーを押した。


「ピー、ガチャ」


「開いた・・・」


そこには二通の封筒と二枚のドッグタグ、そして一つだけ見たことの無い宝石の様な石が入っていた。


一番手前に置かれた封筒には、見慣れた母の字で「一番最初に読むこと」と書かれている。

その手紙の奥に二枚のドッグタグが置かれていて、その更に奥に封筒一緒に宝石の様な石が置かれていた。



書いてあるのだからと、一番手前の封筒を手に取り、懐かしい母の字に見入る。

そしてしっかりと文字を目に焼き付けてから、封筒を開けた。

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