幻の大陸へ

第2話

目覚まし時計のアラームで強制的に目覚めさせられた僕は、眠い目を擦りながらベッドから起き上がった。

ふぁーと欠伸が出るが、まあいつもの朝の光景だ。


チラッとベッド横の勉強机を見る。

寝惚けた頭で今日の日付を確認したのだ。


「あぁークソッ!休みだった。失敗したな、目覚まし切っとけば良かったな」

日付を確認した結果、今日は祝日だったと確認したゆえの悪態だった。


日頃から、特に日付や曜日を気にしたことは無いが、それでも休みに早起きしようという気持ちにはならないからだった。


俺は雲林院 幻うじい げん、年齢十七歳。


四年前に両親を事故で亡くし、母方の祖父母に引き取られた。

父方の祖父母は既に亡くなっていて他に引き取り手が無く、この山奥の寒村に来たのだ。

何とか分校の中学を卒業し、列車で片道二時間掛かる高校へは進学せずに祖父母と農業をして生活していた。

しかし、その祖父母も昨年相次いで亡くなり、今は天涯孤独の身になってしまった。

本来であれば、今頃は高校生で大学受験が迫っている頃だが、そんなことは今農家として働いている俺には無縁だった。


さて、一度目が覚めてしまうとなかなか眠れるものでもなく、仕方無しに服を着替えることにした。

朝方の山の気温は低く、俺の吐く息も白い。

まだ雪が降るほどでは無いが、あと二週間もすれば景色が白一色になっていても驚かない。


囲炉裏に火を熾し、テレビを点けて朝のニュースを見始めた。

ニュースの内容は、よくある政治家のスキャンダルや大きな事故の話題、電撃結婚した有名人などと特に珍しくも無い内容だった。

沸いたお湯でコーヒーを入れ、アチチッと啜りながらボーとテレビの画面を見て左から右に聞き流しているだけだった。


画面がコマーシャルからニュースに戻った時、何年も聞いていなかった両親の名前が流れてきた瞬間、テレビに目が釘付けになった。

頭の中では「何故今頃両親の名前がテレビに出るんだ?」と言う疑問がグルグル回っていた。



「今日の朝の注目の話題は、コレッ!幻のアトランティス大陸について書かれた本です。著者は雲林院文也さんと奥様の雲林院今日子さんのお二人。残念ながらお二人は既にお亡くなりになっているとのことですが、そのお二人の資料を預かっていらした方が資料を纏め、昨日出版されたそうです」


「なんや!眉唾もんの本が何で話題になんねん?」

「いえいえ、お二人はその道では知られた有名なプロの冒険家だったそうなんですよ」


「でも、太平洋にあったとされるムー大陸のことは、何十年も前に科学的に否定されているでしょ?」

「そうなんです。太平洋にムー大陸など存在しなかったことは証明されています。しかし、この本で書かれているのは、太西洋上。つまり太西洋の上空に大陸が浮遊していたと言うことなんです」


「またまた、大陸が空に浮かぶ訳ありませんやん」

「それが、それを否定できない証拠があるらしいんですよ」


「何ですか?その証拠って?」

「まだ実物は公開されていませんが、浮遊する石が見つかっているらしいです」


「浮かぶ石?マジかいな!アニメちゃいますねんで」

「本当らしいですよ。私もまだ全部は読んでませんが、内容を一部抜粋してみました。まず、仮に浮遊大陸と呼びますが、それは大きさ的にはオーストラリアより大きいらしいです。そして今でも独自の文明を築いた人々が生活しているようです。大陸自体は既に地球上には存在せず、異次元空間の様な場所にあるとか、そこに行くためにはワープゲートの様な物を通らなければならないとか、まあ色々と突っ込み所のある内容なのですが、証拠とされている浮遊する石が本物であれば話が変わってくるでしょう。そんな理由で、今日の話題に上がったんですよ」


・・・・・・


テレビでは、いまだに話が続いているが、俺の耳に、その声は入ってこなかった。

俺の頭の中はパニック状態で、それど頃では無かったのだ。


俺の両親が有名なプロの冒険家?

知らないぞ、そんなこと。

どうなってんだ!

聞いたことも無いし、そんな素振りなど見た記憶も無い。


それに、唯一の肉親である息子の俺に一言も無く、両親の本が発行されるなんてありえるのか?

そんな連絡もらったことも無いぞ!


・・・まさか!俺に知られないように祖父母が握りつぶしたのか?

それなら、可能性はあるかもしれないな。


でも、亡くなる時にも何も言われなかったぞ。

流石に、何も言わないで亡くなるとか無いだろ?


まさかと思うが、握りつぶしたことを忘れてた?

確かに、高齢だったとはいえ、それは考え難い気がするしなぁ。


取り敢えず、出版社に問い合わせてみれば何か分かるかも?


俺は大慌てでパソコンの電源を入れた。

検索機能で探せば出版社が分かるはずだと思ったからだった。


出版社が分かってからは早かった。

担当者に話を聞けば、著者から俺の名前を聞いていたと言って連絡先を教えてくれたのだ。

直ぐに連絡して話をすると、俺から連絡があるだろうと思っていた様子だった。


「予定より早かったですが、連絡をもらえて良かった。私は代筆をさせてもらったあずまと言います。色々とお伝えしたいことがあるので、一度お会いできませんか?」


向こうからも話したいと言うし、俺も聞きたいことが山のようにある。

直ぐに了承の旨を伝えて日程や場所を決めたのだった。



電話で話してから三日後、俺は四年振りに昔住んでた街に戻って来ていた。

東さんと会う場所に指定されたのが、昔住んでいた家だったからだ。


今更、何で?と思いもしたが「色々話すのに都合が良いからだ」と言われれば断ることもできなかった。

俺が久しぶりに帰ってきた家を前に入るのを躊躇っていたら、背後から声を掛けられて驚いた。


「幻くんだね?東です」と言う彼の電話で聞いたのと同じ声に安心する。

お互いに挨拶をすませ、家に入ると東さんは良く知っている様に奥の両親の部屋だった場所へ向かって行った。


何も無くなった部屋を見て昔を思い出している俺に、東さんは壁に作り付けの戸棚に近付き「じゃあ、話をしようか」と言う。



振り返って話し掛けてきた東さんの背後で戸棚がスライドして行くのに目を奪われて、俺はその言葉を理解できてはいなかった・・・

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