第12話

部屋を出ると決めたものの、まずは出るための方法を再確認のため手帳の中に書いてあった内容を読み返す。


少しだけ明るい方が出口で、壁に手を当てると出口が自動で開くらしい。

ここを出たら無闇に動かずその場で待機。

係りのアトランティス人が迎えに来てくれるらしい。

この場所が、両親の専用として確保された場所らしく、関係者だと勝手に理解してくれるんだって。

ただ、俺では言葉が通じないのでドッグタグを見せれば色々と便宜を図ってくれるようになってるらしい。


しかし、言葉が通じないのか・・・参ったな。

あの感じだと、家は完全に潰れてるから、もう住む所は無いし、今から戻っても「どうやって助かった?」って騒ぎになりそうだ。

つまり今の俺には行く所が無いってことだな。


だから、ここで受け入れてもらえなければ、行くあての無い住所不定のホームレス一直線!

何とかできるのか、俺?


いや、何とかするしかないんだ!


と、まずはアトランティス人との初対面を成功させなくては!


部屋の外に出るために手順通りに所定の壁に手を触れた。

すると、音も無く壁の一部が外側にスライドし、そこから上に跳ね上がるように開いていく。

徐々に見えるようになった、外の景色は・・・何と言うかSF映画の撮影用のセットのようだった。


全面金属製らしい壁に覆われていて、正面にはドアが見えている。

そのドアにも取っ手の様な物が無いことから、自動ドアっぽい。

手帳の指示通りに一歩だけ部屋の外に出て、その場で待つこと数分、ドアが開いた。

案の定自動ドアだったみたいだけど、開き方はドアの中央で半分になって左右に開いていくのだ。

俺は中央が分かれるなんて思ってなかったのでビックリ!


更に驚いたのは、そのドアから入って来た人物を見た瞬間だった。

まず、最初に思うのは「背が高い」ってことだろう。

楽に2mはあるんじゃないかな?

その割りに横幅は無くて、全体的にヒョロ長い感じの印象を受けてしまう。


他にも、その肌色が特徴的で薄い紫色をしていた。

一瞬、毒にでも冒されているんじゃないか?と疑いたくなる色にギョッ!とした。


顔の感じは、全体的に縦長な印象はあるけど、特におかしいと思う所は無かったが、頭髪は無くて耳が少しだけ尖ってる感じかな?

スタート〇ックのスポ〇クの耳の方が尖ってると思うぐらい。

服装はローブ?って言うのかな、ズドンとしたワンピース見たいな物で、肌より少し濃い紫だった。


その人が、俺が立っている姿を見て近付いて来る。

なので、俺は手帳の指示通り、目の前にドッグタグを突き出すようにして相手に見せた。


そのタグを見たからか「オマ・・スッゲ・・クッセ・・チカ・・ヨル・・ナヤー?」と喋るんだが、何か凄く失礼なことを言われてないか?


俺がその言葉に反応しなかったせいか、服に手を入れて(俺にはポケットがあるようには見えなかった)何かを取り出した。

差し出された手には、イヤーカフスのような物が二つ乗っている。

身振りで「それを着けろ」と言ってるみたいだったので、それを左右の耳にに着けてみる。


特に何も変化は無いし『これ何だろう?』と思っていると「これで言葉が理解できますか?」だってぇ!

どうやらこれには言葉を理解できるようにする機能があるらしい。

スゲェー!


でも、これで俺の方が理解できても喋れないから結局会話は成立しないんじゃないか?


「それを着けていれば、聞き取れると思いますので説明しましょう。それがあれば、あなたが喋った言葉も我々が聞き取れる言語に変換されますよ」

・・・言語の壁が無くなる夢の様な存在だ!


「ここへは初めて来ました。私は・・・」

「二度目ですよね?出ては来られませんでしたが」

気付いてたのか・・・


「あれを一度目とするなら、確かに二度目ですね。あの時は事故の様なものだったので」

「なるほど、偶然でしたか。今回は望んで来られたと言う訳ですね」

理解が早くて助かるが・・・


「どちらにせよ、そのから来られた人物を我々が拒否することはありません。しかし、ご用件だけは伺いたいものです」

そう言われれば説明しない訳にもいかないし、隠すほどのものでは無いと判断して状況を話した。


「・・・それは、御無事で何よりでした。そのはご両親があなたに残された物、大切にしていただきたい。それで、今後はどうされますか?」

その質問はされると思ってはいたけど、実際問題としてどうすれば良いか何て考えられなかった。

ここでの生活が可能かどうかも分からなかったし、可能だとしても対価が払えるかも分からなかったからだ。


「緊急避難的な方法だったんで、何も考えてはいなかったんだ。戻っても家も無いし、ここで生活することは可能なのだろうか?」

俺には、これしか言えることは無かった。


「そうですね、可能と言えば可能です。が、受入には時間が必要かと」

「具体的には?」

「三日ほどでしょうか?」

「その間の滞在は可能なんですか?」

「実を言えば、そのような前例が非常に少ないので、決まりらしい決まりが無いのです。少々確認をしないと、お返事は難しいとしか」

「・・・ならば、ここに待機することは?」

「ここにですか?ここは外からしかドアが開きませんので、問題は無いと思いますが・・・宜しいので?」

「他に行き場所も無いですし・・・」

「一度確認に戻ろうと思います。それまでこちらにいていただけますか?」

「ええ、こちらこそ手を煩わせて・・・」

「では、少々失礼します」



出て行く彼を見送りながら『あ!名前を聞いてなかったし自己紹介もしてない!』と大切なことを思い出した。

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