第8話

下生えの草が伸びて、足元が見辛くなってきてるな。

そんなことを思いながら、鎌で足元の草を切り払う。

この時期、山の中の猟師道は、ちょっと放置すると直ぐに雑草で多い尽くされてしまうのだ。


そんな苦労をしながら、目的の洞窟までの道を切り開いて歩く。

昼になる少し前、十一時半ぐらいに、やっと洞窟に到着することができた。


が、直ぐに洞窟に入ることはできない。

源三爺さんに厳しく言い付けられているのだが、猪や熊が住処にしていることがあるからだ。


だから、到着しても最初は洞窟前の土を見て足跡などが無いか確認しなければならない。

何も考えずに入って、猪に突進されたり、熊に襲われたりなんて勘弁だからな。


特に動物が出入りした痕跡は無いが、蛇が這った跡が見付かった。


「うーん、大きさは、そんなに大きくないけど、毒持ちの可能性はあるかな?」

マムシとかヤマカガシは、日本中の山に生息してるからな。


特にマムシは山の中なら必ず一度や二度は遭遇するヤツだ。

何もしなければ噛まれることも無いのだが、気付かなければ攻撃範囲に入ってしまって噛まれることがある。

まあ、村には血清も用意されてるし、痛みさえ我慢できれば死ぬことは無いんだけどな。


慎重に洞窟の中を確認しながら進むと、いたぞ!

でも、それは縞々模様があるシマヘビだった。

勿論、毒は無い。


それほど深くは無い洞窟なので、直ぐに最奥まで到達。

母さんの伝言を思い出しながら、洞窟内を調べ始めた。


数分後、小さく擦れた文字を見付けた。

それは「一人の小さな女の子が・・・」と読めた。


これがヒントなのだろうか?

と言うか、この言葉はどこかで聞いたことがある記憶があった。

どこだったか?


・・・あっ!母さんだ!

思い出そうと頭を捻っていたら、思い出したよ!

子供の頃に聞いた話だったはず。

確か、手作りの本にしてくれたやつだ!


大急ぎで洞窟を出て、来た道を戻る。


あの本は色々な思い出の品を入れた箱の中に仕舞っていたはずなのだ。


行きよりも早く戻って来た俺は、そのまま家に駆け込み、物置に走る。

確か、祖父母が亡くなった後、この家の片付けをしていて物置に箱を持って行ったのだ。


引き戸を開け、中を物色すると目当ての箱が奥の方に見えた。

「あれだ!」


手前の荷物を脇に除け、奥の箱を取り出す。

そっと箱を開ければ、中には数々の思い出の品が入っていた。


小さな頃に両親と撮った写真や、遊びに行った場所の入場券。

どこで拾ったか忘れてしまった貝殻や小石。

そんな思い出の品の一番下に、その本はあった。


厚紙で作られた手製の本。

他の思い出の品を落とさないように気を付けながら、本を取り出す。


「懐かしいな」

俺の口から、そんな言葉が自然と漏れた。


散らかした荷物もそのままに、本を開いてみる。

そこに書かれていたことは、たぶん母さんの子供の頃のことだったのだろう。


山で道に迷って洞窟に辿り着いたこと。

大切な物を隠すために床下に潜り込んで怒られたこと。


大切な物、隠す、床下・・・そこなのか?

そんな単純な場所って?ありえるか?


でも、あれがヒントだとすれば、この本に行き着いて。

この本を読むと、そこに行き着くよな?


・・・確かめてみるしかないか・・・


母さんの昔の部屋って、今の俺の部屋だろ。

で、押入れの右側・・・ここの板が・・・外れた!

うわっ!マジか!


とても大人では入れないような大きさの穴だ。

ポケットに入れていたライトを出して、穴の中を照らす。

見える場所に、それらしい物は・・・無いな。

流石に、こんな場所に隠しはしないだろう。


と言う事は、もう一度本を読み直さないといけないな。

そう考えて、押入れの床板を戻そうとしたところで、気付いた。


「板の裏に何か書いてある」

外した三枚の板を全部裏返して、並べてみる。


「えーっと、囲炉裏の修理は五年置きに行うこと」

囲炉裏のことが書いてある。

メモ書き?

こんな所に?


・・・まさか!


燃えてしまうかもしれないのに、囲炉裏の下に隠してるのか?


囲炉裏に急ぐが、色々用意しないと直ぐに灰を掻き出すことはできない。

囲炉裏の周りに新聞紙を敷き詰め、灰を入れる入れ物を用意して、と準備に時間が掛かる。


やっと準備ができた頃には、陽が傾いていた。


空腹は菓子パンを食べて紛らわしつつ、一生懸命に灰を掻き出す。

灰を掻き出した囲炉裏の中は、銅製の蓋無しの箱みたいになってる。

十kgぐらいあるその銅製の枠を持ち上げると、その下は耐熱性のブロックが敷き詰められていた。

ブロックの隙間は、コンクリートらしきもので目地が埋められているので、壊さないと下を確認することはできそうも無い。


こうなると、どうするか悩みそうなものだが、俺は少々意地になっていた。

囲炉裏に使う火箸を持って、目地に突き立てたのだ。

そうすると、以外にも目地はコンクリートでは無かった。

どうやら灰を固めただけの物らしく火箸で簡単に削れるのだ。


ゴリゴリと気の長くなるような削り作業を続け、ようやく一個目のブロックが取り外せそうになった。

落とさない様に気を付けて、ブロックを持ち上げると、そこには模様の入った金属製の入れ物が見えた。


「これだ!」


結局それからもゴリゴリやって、目当ての金属製の入れ物を取り出せた頃には夜中になっていた。


ただ、その金属製の入れ物、どこにも開けるための仕組みが見えない。

蝶番ちょうつがいも無いし、鍵穴も無い、ただ模様が入った金属製の出し入れできない箱なのだ。



これは困った。

この箱壊さないとダメなのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る