第7話
遅くなりましたが、更新します。
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結局、色々とやることが多くて、海外の行き先や旅行日程が決まったのは計画してから三ヶ月後だった。
この旅行日程や行き先の選定には非常に苦労した。
何故なら、現在206の国や地域があり、その内両親が訪れたことがあるのが120を越えていたのだ。
東さんからもらったリストには、ご丁寧に英語圏とそうでない国が分けられていて、何となくその並びに意図を感じた。
なので、その意図をできる限り外すために苦労したのも時間が掛かった理由だった。
それと思ったよりも金が掛かることが分かり、行き先を減らす必要もあった。
当初は両親の保険なんかを使うつもりだったんだが、とてもその金額では全部の国に行くことはできないと分かったのだ。
他にも、調べれば調べるほど問題が出てきて、なかなか難航してしまった。
結局、一度では難しいので今回は三カ国だけ行ってみることにした。
初の海外旅行だし、それでも多いかと思ったが、今後のことを考えれば良い練習になると思ったのだ。
で、約二週間、初の海外旅行に行ってきた。
今は、その旅行から帰って来たところである。
空港の税関を抜けて、やっと到着ゲートを出た。
地下鉄の駅に向かいながら、海外の国々の文化の違い、食生活の違い、そんなことをポツポツと思い出しながら歩いていた。
その思い出の中に、チラチラと顔を出すのが、監視をしてた人間のことだった。
猟師の練習の成果というか、自分に向けられる視線に敏感になっていたのだ。
だから、背後から背中に向けられていた視線が気になることが何度もあった。
その度に「無駄な努力をご苦労様」と思っていた。
心の隅に悪戯心が芽生えていたが、そんな悪戯をして目をつけられても困るので我慢。
結局は、無難な海外旅行で終わったと思う。
初めてにしては、大きなトラブルも無く上出来だっただろう。
地下鉄から列車へ、その列車も二度の乗換えを経てやっと目的である山奥の駅に到着。
後は家に戻るだけなのだが、カブにトランクを載せることはできないのでお迎えの軽トラを待つ。
前の乗り換えの時、辰三爺さんに到着時間を連絡しておいたから、そろそろ来る頃だろう。
「辰爺、ありがとな!」
「おう!このくれぇ問題ねぇ。今度土産話でも聞かせてくれやぁ」
「きちんと土産もあるから、今度礼をするって」
玄関先で辰三爺さんと別れて、家に入る。
二週間振りの我が家は、懐かしく感じた。
荷物を片付け、長旅の疲れを取るべく風呂に入る。
旅行中は、シャワーと小さなユニットバスで、しっかりと湯に浸かって足を伸ばすこともできなかったが、我が家の風呂なら充分に足を伸ばせる。
久々にゆっくりと湯に浸かると、体から疲れが溶け出していく様だった。
風呂を堪能し、脱衣所で身体を拭く。
ポロッ!と黒い物が足元に落ちた。
「チャリチャリ」
音のする胸元を見れば、俺のドッグタグに着けていたゴムのカバーが切れて落ちていた。
チャリチャリと鳴る音が気になってしまって着けていたのだが劣化してたのだろな、明日にでも新しいのを買わないと。
切れてしまった物は、どうしようもない。
その日は、そのまま寝ることにしたのだった。
母さんの書いていた「自然と何をどうすれば良いのか分かる」と言う意味が分かったのは、朝顔を洗う時だった。
Tシャツの下で、微かに光っている物に気付いたのだ。
取り出してみると、三枚のドッグタグが光っていた。
恐る恐る、三枚を一纏めにして握った。
何となく、そうするのが正しいと思ったのだ。
握ると、頭の中に声が聞こえて来た。
「幻、良く聞いて。アトランティスは存在するわ。これはアトランティスで作ってもらった物なの。三枚揃うと力を発揮して、その力を使ってメッセージを残したのよ。源三さんを知ってるわよね?彼に「昔、山中で迷子になった子供が隠れていた洞窟って何処?」と聞いてみて。そこに行けば、あなたにしか分からないヒントがあるわ。この本を見つけ出して使っても良いけど、使わないのなら必ず処分してね。他の人の手に渡してはダメ!絶対よ!過ぎた力は世界を滅ぼすわ。幻ともう一度話がしたかったわ。本当に、それだけが心残りよ。元気で私達より長く生きて!お願い!・・・幻、俺達の分まで生きろ!」
・・・・・・あぁー、母さんの声・・・・・・父さんは・・・口下手だったな。
懐かしいよ、二人の声が・・・・・・
直接耳で聞いた訳では無いが、頭に響いた二人の声は、俺の記憶にあった声と同じで懐かしく、そして寂しそうで、それが無性に悲しかった。
俺は自分でも気付かない内に涙を溢れさせ、頬を伝う涙の感触で『ああー俺は今、泣いてるんだな』と感じたのだった。
それからの記憶は
気付いたら、ベッドで寝てたようだ。
昨日のことは、突然だったから心の準備ができていなかった。
不意打ちで動揺を誘われた感じだと思ってる。
何故?って、俺は二年半前に自宅で手紙を読んだ時、そのことに向き合ったのだから。
悲しみはある、消えはしないだろう。
でも、あの時に前を向くと決めたのだ。
さて、源三爺さんに聞かないといけないことができたな。
今日は家にいるんだろうか?
まあ、良いか!
どうせ俺が帰ったから集まりがあるだろうし、その時にでも聞いてみよう。
昼過ぎに集まりの連絡が来た。
集まる場所は公民館だった。
早目に行ったら、既に準備は終わってて、直ぐに俺の帰宅をお祝いしてくれた。
俺としては、祝われるようなもんじゃないと思うのだが「こんなことでも無いと昼間から集まって酒が飲めん」と爺さん連中に言われ、良いように出汁にされてしまった。
で、源三爺さんも来てたから、アノことを聞いてみた。
答えは単純で、俺に教えてくれていた緊急時の一時避難場所の洞窟がそうだと言うのだ。
場所は知っているし、何度か爺さんと行ったこともあるが、何も無かった気がする。
でも、確かにソコだと言われているし、一度単独で確認する必要がありそうだなと感じた。
集まりは結局夜まで続き、流石に俺は疲れたので土産だけ渡して退散した。
翌日は朝から畑と田んぼの世話だ。
皆に任せていた分、俺も頑張らないといけない。
そう思っていたのだが、皆の作業が的確で、余りやることが無かった。
流石、現役で農家をやってる人達だ、やりだして数年の俺とは違う年季を感じてしまった。
じゃあ、明日にでも山に入ってみようかな?
洞窟までの行き帰りなら一日あれば十分だし、朝早目に出れば夕食時までには戻れる。
行って見て、何も無ければそれまでだし、あればその時に考えれば良いだけだ。
ってことで、明日の準備をしておこう!
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