第9話
どうにかコレを開ける方法はないかと試行錯誤するが、良い方法は思い付かなかった。
たぶん別に、開けるための鍵の様な物があるはずなのだ。
俺に思いつく物と言えば、三枚のドッグタグしかないが、それを刺し込む穴も無ければ、嵌める溝も無い。
こうなるとお手上げ状態で、そこに朝から動き続けた反動で眠気が押し寄せてきた。
ただ、この箱を放置することもできず、仕方無く布団の中に持ち込み、そのまま抱え込んで寝ることにした。
充分な睡眠をとる予定だったが、それは叶えられず、体の妙な痛みで眼が覚める。
まるで紫水晶に閉じ込められたか?と勘違いできる様な光景の場所だった。
冷たく硬い・・・床?壁?天井?
境目も何も見えない、完全な密室?箱?
「ここは何処だ?家で寝てたはずなんだが?」
そんな俺の独り言に、ある種の答えが提示された。
アノ何処にも継ぎ目すら見付けられなかった箱が開き、中には箱より一回り小さな分厚い革表紙の手帳が入っている。
「・・・この手帳が原因か?それとも箱か?どっちでも良いが、元に戻してくれよ!」
そんな俺の願いは叶えられるはずも無かった。
・・・帰れる訳が無いか・・・が、手帳の中に帰るためのヒントがあるかも知れない。
そう考えて開いた手帳には、父さんの字で目次と書かれていた。
「ぷっ!はっ!はっはははっ!几帳面な父さんらしいや!」
まさか冒険の記録だって言ってた本に目次を書いてるなんて思わなかったよ。
いやー、とんでもない状況なのに、思わず思いっきり笑っちゃったな。
でも目次があるなら、探してる内容を見付けるのも簡単かもな。
「えーっと、今の状況は何処か知らない場所に飛ばされたって感じだろうか?」
ワープ?ジャンプ?何て調べれば良いんだろうか?
・・・あっ!紫水晶の部屋って目次があるな!
取り敢えず、これを読んでみれば、今の状況だけでも確認できるんじゃないか?
「えーっと、百五十三ページだな。何々?」
アトランティスに転移すると最初に訪れる場所が、この場所である。
『・・・ここってアトランティスなんだ・・・えっ!マジかよ?』
紫水晶の様に見えるが全くの別物であり、転移を行うために必要な素材で作られていて、見た目が似ているだけである、っと。
『そうなんだな。で、ここに来るのが転移って方法なのか。つまり、目次で転移を調べれば・・・あった!』
「随分後ろに書いてあるんだな。四千八百二十六ページっと・・・待てよっ!どう見ても、そんなページがあるとは思えないんだけど!」
あれ?でもあるよ。
えっ!どういうこと?
厚味から言って、精々二百ページぐらいにしか見えないんだけど、でも捲ると最後は・・・一万二千七百六十四ページになってるな。
ありえん・・・けど、ありえてる。
頭が混乱するな、これ。
細かい追求は後回しにしよう。
まずは戻ることが先決だ!
転移の方法は、手帳が入ってた箱の決まった位置に決まったようにドッグタグを置くことなのか!
その時、必ず手帳が中に入って無いとダメと。
箱を開ける時は、側面に三枚のドッグタグを重ねて近付けると開くのか!
つまり寝てる間にドッグタグが偶々、この形になったと言うことか?
「ありえーん!そんな低確率な運任せで、何で転移ができてるんだよ!」
って、つい叫んじゃったけど、今の状況って不法入国になるんじゃ?
やばい!早くここから帰らないと!
現状に思い至った俺は、大急ぎで手帳に書いてあった通りにドッグタグを配置した。
その瞬間、紫色の光が溢れ出し、気付いた時には自宅の布団の上に座っていたのだった。
「・・・・・・か、か、帰ってきたぁ!」
見慣れた自宅の調度を見て、心から安心する。
はぁ、それにしても、あんな方法でアトランティスと行き来できるとは思ってなかった。
これは不味い、非常に不味い、絶対にバレてはいけない重要機密だ!
ってか、何であんなに簡単な方法でアトランティスに行けるんだよ!おかしいだろ!
もっと、こう、複雑な何かがあって、魔法陣みたいなのとか、大掛かりな装置とか、でもって生贄は・・・不味いから、貴重な素材とかが必要ってのが定番じゃないのかよ!
「はぁはぁはぁ、はぁはぁ、何か疲れた」
取り敢えず、アトランティスに行けることが分かった。
今は、それだけで充分だな。
あとは、この手帳でも読んでみるか。
色々と面白そうだ。
っとその前に朝飯食ってから、畑仕事しないと。
爺婆が押し掛けて来るからな。
六時間ほど農作業に没頭して、家に帰ってきたのは夕方だった。
風呂に夕食と、やることやって夜八時にやっと手帳と向かい会う。
「さて、何を目的にして読むかで、目次で調べる所が変わるんだが・・・目安が無いな」
俺が両親の冒険を知ってれば、順番に見るとかできそうだけど、そういう情報は一切無いしなぁ。
取り敢えず分かってる、アトランティスから読んでみるか?
そう決めて、目次で大見出しになってる〈アトランティス〉のページを開いてみた。
・・・・・・マジ?
高度な文明だったんじゃないの?
一部しか残ってない?
残ってる物も使える人が少ない?
でも、面白い?
何が?
独自進化した生態系?
空飛ぶキノコ?
空飛ぶ魚?
逃げ出す野菜?
隠れる野菜?
何それ?
どういう生態系なの?
脳みそが理解することを拒否してる。
ダメだこりゃ。
読んだだけじゃ理解できん!
冒険って、もっとこう、トレジャーハンターっぽい感じかと思ったけど、全然違うっぽい?
これを理解しようと思ったら、直接見るしか無さそうだよな・・・
どうしよう?
もし行くとすれば、色々考えないと無理だよな。
監視の目を誤魔化す方法とか、この家の維持のこととか、やることやっとかないと、失踪扱いになりそうだしな。
ちょっと、方法を検討しないと・・・
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