第10話

突然の転移事故から三ヶ月。


日々の農作業に精を出しながら、手帳を読み進めた。

お陰で色々なことが分かってきたが、実感は全く無い。


まず、アトランティスは存在していて、それは間違い無いことが分かってる。


「何故、異次元に行ってしまったのか?」とか「どうして、そうなったのか?」など、両親も調査はしたみたいだが、大昔のことで詳しいことが分かって無い。

理由は簡単で、そう言う資料があるはずの場所が閉ざされていて入れないかららしい。

どんな方法で閉ざされているかは分からないが、簡単に考えるなら鍵が掛かってて、その鍵が無くなったって感じだろう。


それと、色々と便利そうな遺物があるらしいが、その使い方も失伝しているようで使われていない物も多いらしい。

まだ使われ続けている遺物の内、有名なのが転移装置。

これについては、いまだに技術者も残っていて、今でも修理したり、材料さえあれば新しく作ったりできるそうだ。

たぶん俺の持ってる手帳の入っていた箱も、そう言う技術で作られた物なのだろう。


両親はアトランティス大陸を旅していたようだが、全てを見ることはできなかったようだった。

手帳には「面積は、内海を含めればオーストラリア大陸の半分ほどだろう」と書かれていた。

つまり単純計算でも、日本の十倍の面積てことになる。

そりゃあ、簡単には見て回れる訳が無い。


そんな感じで手帳を読み進めていく内に、アトランティスという場所に興味が湧いてきたのだ。

特殊な生態系ってのも非常に気になってたんだけどな。


そこで考えたのは、冬の間だけなら旅ができるんじゃないかってこと!

どうせ俺のいる村では、冬は雪に閉じ込められてしまう。

この転移って方法があるなら、そんな冬の村からでも簡単にアトランティスに行けるのだから、何もできない冬に旅行するには持って来いだと思ったのだ。


しかし、誰にも行き先を教えられないなぁ。

あれから何年も経ってるけど、監視が無くなったか?と聞かれても分からないって答えるしかできないし。

俺が思うに、このアトランティスへの移動方法が知りたい、入手したいってことだろうから、何時までも諦めないって可能性もあるんだよな。


さーて、これから数年ぐらいなら誤魔化しも可能だろうけど、それ以上になってくると村自体が廃村の危機になってくるしな。

なんせ、俺以外が全員高齢者だし、長期休暇に子供や孫が遊びに来たって話も聞かない。

そうなると、人口が減るばかりで増える要素が無いんだよな。

俺にとっては、この村は部外者が入り辛いってだけでも価値があるんだけど、それじゃあ、村が無くなることになる。

と言って、新しい村民を入れると監視が入り込む可能性が高い。

俺じゃあどうにもならない、まさに、お手上げだな。


最終的には、俺だけならアトランティスに行って帰って来なければ良いだけだが。

うーん、爺婆を置いて行くのも気が咎めるって言うか、世話になった手前、やりにくい。


今直ぐに決めることでは無いけど、良く考えないといけないことだと思い、真剣に考えるのだった。

勿論、その間も手帳を読むのは止めなかったけどな。




色々と考えることばかりで、精神的な休養を取れていなかったある日、体がダルくて熱を測ってみた。

体温計の38.7という数字を見て『これは不味い』と思ったのも納得できるだろう。

俺は見事に風邪に罹ってしまったのだ。


畑仕事は、二・三日作業しなくても問題は無いが、爺婆がゾロゾロとやって来そうだ。

俺よりも、年寄連中が風邪に罹った時の方が怖いし、来る前に連絡だけしておく。


「俺は風邪で休むが、誰も家に来ないでくれ!治る前に来たら、そいつとは当分喋らんからな!」

村長をやってる要蔵爺さんに、そんな風に電話を掛けた。


「お前、儂に矢面に立てって言うんか!」

「それが村長の役目だろう」

それだけ言って電話を切り、水と風邪薬、それといくつかのミカンを持って布団に戻った。


布団の中でミカンを食べ、薬を飲む。

しばらくすると薬が効き始めたのか、眠気がきたので、そのまま逆らわずに眠りについた。


次に目が覚めたのは夜中だった。

ここ何日か、夜が肌寒いなと思っていたのだが、寝ている間に雨が降り始めていた。

室内に響く雨音が大きい。

外は土砂降りのようだった。


この村は、山間部にあるせいで、特に雨と雪には注意をしている。

ちょっとしたことで、地滑りが起き山の斜面が崩れることがあるからだ。


雨音を聞いた感じでは、かなり警戒するべき量の雨が降っている気がする。

避難勧告が出る可能性を考えて、手元に避難用の荷物を持って来ることにした。


熱のせいだろうけど、アチコチの関節が痛い。

そんな体だが、避難用品や貴重品などを運ぶくらいはできる。

非常食などが入った袋と、それ以外に役立ちそうなサバイバルグッズの入ったリュック、それに貴重品を入れた肩掛け鞄、その三つを布団の横に運ぶ。

勿論、直ぐに避難できるように、服は着替えて雨具の準備もしておいた。


そこまでしてから布団に入ったが、なんか寒気がする。

これ、たぶん熱のせいじゃない。

ヤバい予感がする時の、勘、みたいなやつだ!


大慌てで布団から出て雨具を纏い、荷物を掴む。

体はダルイが頑張って廊下を走り玄関へ向かう。


ドドドッ!、ガラガラッ!ドンッ!ドドドッ!バキバキッ!ベギッ!


『一足遅かったか!』

それが背後から聞こえた騒音に対して思ったことだった。


次の瞬間!

バキバキッ!ドゴッ!バキッ!ドーンッ!ズーンッ!


ガツッ!


何かが後頭部にぶつかった衝撃で、体が前のめりに倒れていく。

視界も段々と暗くなる。


『クソッ!これで終わりかよ!』

それが、意識が無くなる寸前に俺が思ったことだった。




そう俺は、あと数歩で外!という所で、祖父母から受け継いだ家が土砂崩れに巻き込まれて、俺は押し潰されてしまったのだった。

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