第5話
あれから家に帰り付いた俺は、色々な疲れが出て12時間以上寝てしまった。
帰ったのが夜の九時ごろだったことを考えると、かなりの寝坊である。
ろくに晩飯も食べていなかったこともあり、空腹感で目が覚めた感じだった。
早速、朝昼を兼ねた食事の準備をする。
が、米を炊く時間が惜しい!
そこは妥協して、冷凍していた余り物のゴハンで我慢。
レンチンしている間に、味噌汁と目玉焼きにソーセージ、漬物を準備していく。
コンロの火を新聞紙に移して囲炉裏にも火を熾し、薬缶をぶら下げる。
食事の用意はできたが、囲炉裏は火を熾したばかりで寒いし、そのまま台所で立ったまま食事をした。
しっかりと腹を満たしてから、昨日のことを思い出せば、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
ボロボロと涙を零して泣くなど、短い人生の中で最大の黒歴史入り確定事項だった。
そんな恥ずかしい思い出は封印して置いて、考えなければならないことが色々とある。
まずは処分してしまった母さんの手紙の内容だ。
大切なのは二枚のドッグタグだと書いてあったこと。
だが、チェーンに通す時に確認した感じだと特に変なところは無かった。
それと気になっていたのが、俺のタグを挟むように二つのタグを着けろって書いてあったこと。
挟むことに何か意味があるのか?
後は本が何処かに隠してあること。
そしてその場所のヒントが、このドッグタグだってこと。
最後に、東さんが信用できないってことだな。
多いよ、色々と情報過多だ。
どの情報も完全に秘密にできたはずだ、あれだけ感情の乱れた俺から、正確に表情を読んだり、推測したりはできないだろう。
多少違和感があっても、あの時の俺の感情の乱れが原因だと思ってくれるはずだ。
仮に疑問に思っていても、明確な証拠などないだろうし、俺も教える気はサラサラ無い。
たぶん今でも監視は付いてると思うし、昨日帰りに列車の中で決めた目標のためにも、最低でも一年は俺はいつも通りの生活をするつもりだ。
何故一年か?って、それは俺がまだ17歳だからだ。
何をするにも、まだ俺は未成年で色々と制限が多い。
18歳から選挙権ができたことで、建前上は成人として扱われるようになるから、それまでは我慢しなければならない。
何を目標にしたか?ってのは、海外を旅行してみたいのだ。
両親のように冒険家になる気は無いけど、両親が行ったことのある国を見て見たい。
そんな気持ちになったんだ。
流石に特別な理由も無く、未成年が一人で海外旅行はさせてもらえないから、18歳になるまで我慢して、ここでの生活を続けることにしている。
一年も何もせずに農業だけしてれば、監視も外れてるかもしれないって打算もあるんだけどな。
どのみち未成年である現在は、何をするにも問題だらけで動きようが無いってことで大人しく生活しよう。
その間に、ちょっと英語を勉強しようかな?
中学英語で止まってるし、海外で英語くらいは話せないと詰む。
海外のことも色々調べておかないとならないしなぁ。
何だか、思ったよりやること多そうだわ!
色々考えに考えて、今までしなかった買い物をしたりと忙しく過ごし、一週間ほどが過ぎた頃、本格的な冬が到来した。
こうなると、こんな山奥の農村は雪で閉じ込められてしまう。
そこで用意してたのが新しいパソコンだった。
元々インターネットの回線はあったし、古いパソコンでは難しかった映画などを見れるように新調したのだ。
勿論理由はあって。
たぶんネット回線も監視されてるだろうなと考えたので、自然と英語に興味を持った感じを演出したかった。
ネットで海外映画を見て、それを検索したり、原作のアメコミとかを読んだりすると「あっ!面白くて嵌ったのかな?」とか勘違いしてくれないかなぁ、なんて感じ。
そういう方法を続けて、英会話のサイトとかじゃなくて映画やアメコミを中心に英語の勉強をしようかな?と思ってる。
俺が高校生ぐらいの年齢ってことで、警戒され難い方法だと勝手に思ってる。
あともう一つ理由があって、古いパソコンをネットから隔離して、色々書いたりメモしたりするのに利用するため。
ネットに繋がってると、安心できないからな。
他にも、この村は余所者が来れば目立つから、離れた所からしか監視してないと考えた。
だから、村で一人だけしかいない猟師の源三爺さんの所に話を聞きに行ったりしていた。
理由は、源三爺さんに頼まれて猟銃免許の取得に挑戦すると言う建前を得るため。
一般生活では縁の無い、銃と言う物を知るためだ。
海外だと、割と銃が社会に馴染んでる所があるし、簡単にでも知識が欲しいと思ったから。
この建前があると、パソコンで検索とかしても変じゃないしね。
あとは時間が許す限り、映画を見まくって、色々と知識を詰め込んだ。
サバイバル、スパイ、軍隊物、世界遺産、動物ドキュメンタリー、色々な物を見て、使えるかどうかは別として知識を集めた。
映画って、本当に知識の宝庫だった。
そんな生活を始めて四ヶ月、雪は降らなくなったが根雪はなかなか解けず、朝晩はまだまだ冷え込む三月の初めに一本の電話が掛かってきた。
その電話は、例の石を預けた男性からだった。
石は、純度の低い宝石の原石だったらしい。
珍しい色ではあったが、市場価値は低いとのこと。
換金するなら買い取ると言われたが、正直に興味が無いので好きにして欲しいと断った。
更に一ヶ月ほど経った頃、やっと農作業に取り掛かれるようになった。
勿論、それまでに苗を用意したり、種の選別をしたりという細々としたこともやってはいたが、畑や田んぼの土起こしなどはガチガチに凍ってしまった根雪が解けなければできなかったのだ。
この時期から二ヶ月ほどは農繁期で、やることが目白押しである。
なかなか自分のことに割く時間も取れず、忙しい日々を過ごすことになった。
流石に俺が思っていたほど簡単に英語が身に着くことは無く「これは一年じゃあ足りないな」と考え始めたのは、お盆の頃だった。
当初の予定を一年延長することにして、その間に狩猟免許の勉強も進めた。
源三爺さんと一緒に山に入って、猟師のことを教えてもらい、山の中で過ごす方法、上手く身を隠す方法、緊急時に命を繋ぐサバイバル術的なことなど、映画で見たのとは違って実践を交えた内容は新鮮な驚きに溢れていた。
農作業で体は鍛えられていたが、猟師の見習いみたいなことまで始めたので、更に体に筋肉がつき一回り大きくなった。
お陰で服を買い換える破目になってしまったが、体力があると言うのは色々と役に立つので良かったと考えるようにした。
田んぼの刈り入れも終わったことで農閑期に入る頃には、猟師の見習いに力を入れた。
何となく「こういうサバイバル的な知識は必要になる」と体が訴えている気がしたのだ。
そうこうしてると、あれから丁度一年が過ぎていた。
また雪に閉ざされる冬の時期がやって来る。
「一年経ってしまったが、まだまだ準備が足りないな」
冬の間は、同じように映画などを見て勉強に費やす。
源三爺さんの推薦ももらえたので、春になったら狩猟免許と猟銃免許を取る予定だ。
冗談で「俺が免許取れたら、源三爺さん引退してもいいぞ」と言ったら「免許が取れただけじゃあ、殻の取れたヒヨコだわい。まだまだ任せられんわい!」と笑われた。
そりゃあ、猟師暦三十年とかのベテランと比べられても、こっちが困る。
ベテランと言えば、この村の爺さん婆さんは何かしらのベテラン揃いだった。
特に戦争を経験してるからか、野草やキノコなどの山で摂れる食材には詳しくて、色んなことを教えてもらえた。
驚いたのは、キノコなどは毒を持つ物が多いが、それを見分ける方法があったことだった。
教えてくれた婆さんが言うには「経験の賜物じゃ」ってことらしい。
それにしても、年の功って馬鹿にならないんだな。
それから更に一年。
英語も、何とか聞き取れるようになり。
日常会話程度なら何とかなりそうな自信もついた。
猟銃免許も狩猟免許を取れたし、猟師の仕事もたまになら一人でできると源三爺さんから許可ももらえた。
村の爺さん婆さんにも「両親の行ったことのある海外を旅行してみたい」と告げて、分かってもらえた。
家は、皆で管理してくれるらしい。
取り敢えずの目標は五年、それで一度は村に帰って来たいと思ってる。
この雪が解ければ動き出す。
そう決めた。
まず、東さんに聞いて、両親の行ったことのある国を聞く。
パスポートの申請をする。
その国の情報を集める。
ああーまたやることが一杯だ。
でも、今の俺に二年前の暗さは、もう無い。
今はやりたいことができたからだ。
さて、この冬の間にできることをしておこう!
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