第一章酒場にて⑤
トラッド――[ニッコリ]と笑って、
「それじゃ、パーティ登録をしようか」
切りがいいところで、『トラッド』はそう提案した。
他の三人のキャラクターが“頷いて”([普通]の“顔”のとき、わざと方向キーの下を一回入力して、[普通]の“顔”を入力すると、顔グラフィックが表示され直すため、うなずいているように見えなくもないことから来たテクニック。趣味の部類である)同意を示す。
“頷き”は先ほどの雑談時、ふざけて『トラッド』が教えたのだが、なかなかどうしてうまく使いこなしているようだ。こういうところはまるで、初心者らしくない。
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「で、誰がリーダーをする?w」
ニオ――[驚いた]顔で、
「え? トラッドか、フェレスじゃないの?」
リメア――[微かな笑み]を浮かべ、
「私には、無理です^^;」
トラッド――[普通]の顔に戻り、
「そんなこと言わずに、
ニオかリメアの
どっちか、やってくんない?
できるだけサポートするからさ」
ニオ――[驚いた]顔のままで、
「右も左も分かんない初心者に、
大切な判断をまかしていいの?」
トラッド――[ニヤリ]として、
「大丈夫!
リーダーとしての判断が要求されんのは、
だいたい、そいつの好き嫌いの反映だからw」
リメア――[微かな笑み]のままで、
「というと?」
フェレス――“クール”に、
「人を助けるか助けないかとか、
どちらが正しいとも言えない状況で、」
リメア――[微かな笑み]のままで、
「はい」
フェレス――“クール”に、
「パーティとしてはどういう
立場で行動するのかを、
最終的に決めたりできるということだ」
ニオ――[普通]の顔に戻り、
「じゃあ、もっと責任重大じゃん!(笑)」
トラッド――[苦笑]を浮かべ、
「まあ、そう言えなくもないけどさー」
リメア――[微かな笑み]のままで、
「だったら、上級者も初心者も関係ないですね」
トラッド――[普通]の顔に戻り、
「うん。だから、初めての
君たちにやってみてほしいんだけど」
ニオ――[苦笑]して、
「うーん。やっぱ、お手本を見てからに
したいなぁ。挑戦するのは」
話は平行線をたどり、トラッドがいくら言っても、初心者二人は頑としてリーダーを引き受けようとはしなかった。
ここで自分たちがリーダーを引き受けるのは簡単だが――フェレスがリーダーを引き受けたことは今までのプレイでは皆無だったので、実際にはトラッドが引き受けなくてはならないのだろうが――、せっかくの初オンラインプレイなのに他人に従わされたのではつまらないだろうとも思う。
(せっかく、ゲームをやりにきてんのに、何をそんなに遠慮してんだか)
内心ため息を着きながら、なおも説得しようとする『トラッド』に、静観していたフェレスが呆れたように“発言”する。
フェレス――[フッ]と“クール”に笑い、
「イヤだと言ってるものを、
無理にやらせなくてもいいだろう」
トラッド――[苦笑]して、
「いや、まあ、そりゃあ、そうだけどさーw」
リメア――[微かな笑み]のままで、
「ですから、お二人のどちらか、
引き受けてくださいませんか?」
ニオ――[ニッコリ]と笑って、
「そうそう(笑)」
トラッド――[苦笑]を浮かべ、
「そんなに遠慮しなくてもいいのになーw」
フェレス――[普通]の顔に戻り、
「では、いっそのこと、
くじ引きで決めるというのはどうだ?
こうしていても埒があくまい?」
トラッド――[苦笑]して、
「そうだな、それでいい?」
(フェ、フェレスのやつがまともなこと言ったところ、初めて見た!)
とてつもなく建設的なフェレスの意見に、内心めちゃくちゃ驚きながらも、この場合、それしかないだろうと即座に判断して『トラッド』は、初心者二人に意見を求める。
ややあって、返事が書き込まれる。
リメア――[ニッコリ]と笑って、
「はいっ!」
ニオ――[ニッコリ]として、
「それで、いいよ~~」
トラッド――[ニヤリ]として、
「恨みっこなしだぜ?w」
というわけで。
さっそく、コンピューターにくじを作ってもらい――ランダムに物事を決める場合に備えてそういう機能もゲーム内機能としてついているのだ――、四人は「せーのっ!」で同時に決定ボタンを押して、“くじを引く”。その結果は、一瞬にして画面に明示される。
[>トラッド]
トラッド――[ニヤリ]としたままで、
「あ゛」
(オ、オレかぁ~~~!!!)
あまりのことに『トラッド』には二の句が継げない。
ニオ――[ニッコリ]して、
「何だか、収まるべき所に
収まったって感じ~~(笑)」
リメア――[ニッコリ]して、
「きっと、コンピューターは、
ちゃんと見てるんですよ(笑い)」
フェレス――[フッ]と笑い、
「よかったな、トラッド」
トラッド――[トホホ]な顔で、
「なぁーぜぇーだぁぁぁ~~~!W」
“泣きマネ”をして見せるトラッドのまわりで、他のキャラクターは、ただひたすらに“笑い”続ける。
トラッド――[トホホ]な顔のままで、
「そんなに俺の日頃の行いが
悪いのかぁ~~!w」
(どういう偶然だよ、こりゃあ!)
フェレス――[フッ]と笑って見せ、
「大袈裟な。
そんなにたいしたこと
でもなかろう?」
ニオ――[ニッコリ]と笑い、
「よろしくね~~、リーダー?(笑)」
リメア――[ニッコリ]と笑って、
「よろしくお願いしますっ!^o^」
(……ま、しょうがねーかぁ)
嘆息しつつ、『トラッド』の手は滑らかにキーボードを叩く。
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「おおっ! このくじには、
不正の跡がある!w」
ニオ――[ニヤリ]として、
「コンピューターくじに細工ぅ?(笑)」
リメア――[微かな笑み]を浮かべ、
「この中に、実は、
すごいハッカーさんがいるとか?^^;」
フェレス――[フッ]と笑い、
「そんなわけがあるか」
トラッド――[トホホ]な顔で、
「とほほ~~~w」
(どうせなら、フェレスのリーダーってのも見てみたかったなぁ)
無駄口を叩きながら、ふと『トラッド』はそんなことを思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます