第一章酒場にて⑦
トラッド――[ニッコリ]と笑い、
「じゃ、マスターに話しかけるよ?」
それぞれが肯定のサインを出したのを確認して、『トラッド』は、
[この依頼を引き受けますか? 「はい」/「いいえ」]
[>「はい」]
と入力する。すると、一瞬で場面は切り替わり、酒場のカウンター前にパーティ4人が集まっているシーンになっている。そして、おもむろにマスターが話しかけてくる。
マスター――グラスを磨く手を止めて、
「よう、トラッド。調子はどうだい?」
“オヤジ”のカウンターからの問いかけに、『トラッド』は選択肢を選んで返事をする。
[「ぜんぜん」/「ぼちぼち」/「調子いい」]
(まあ、ぼちぼちだわな)
[>「ぼちぼち」]
マスター――[ニヤリ]として、
「そうか。トーラン村のカスター〈司祭〉から、
村の近くに住み着いたモンスターを退治
してほしいって依頼がきてるんだが、
やらないか?」
[「はい」/「いいえ」]
(もちろん、)
[>「はい」]
マスター――[ニヤリ]と笑い、
「じゃ、決まりだ。さっそく、依頼人の話を聞いてやってくれ」
一瞬後、酒場のグラフィックの上に、四人の〈冒険者〉と一人の〈司祭〉らしき服装をした恰幅の良い中年の人物の顔グラフィックが表示される。
シナリオがスタートしているため、パーティチャット(場面を示すグラフィックがそのシーンごとに表示され、その上にパーティメンバーとその場にいる他のキャラクターの顔グラフィックが表示されており、入力に応じて“表情”と“発言”が表示されて行くというもの)に、会話モードが切り替わる。
酒場では、「多数の人間がいるところでどんな会話が交わされているのか」が重要視されるが、冒険の場では、「そこにいる誰が何を言ったのか」に主眼が置かれているためだ。
カスター――[微かな笑み]を浮かべて、
「初めまして、〈冒険者〉の皆さん。
私は、カスターといいます。
実は、私が〈司祭〉をしているトーラン村で、
やっかいごとが持ち上がっているのです」
ニオ――[ニヤリ]として、
「何だかさぁ、この人、
〈司祭〉って言うより、
商人っぽいね~~」
リメア――[苦笑]して、
「人を見かけだけで判断しちゃだめですよ」
フェレス――“クール”に、
「見かけは、その人物の一部分ではあるがな」
トラッド――[苦笑]を浮かべて、
「まーた、そういうことをw」
カスター――[微かな笑み]を浮かべたままで、
「最近、村の周辺で、変な叫び声を聞いたり、
怪物の姿や足跡を見たという者が大勢でまして、
人は恐怖に震える、家畜は脅える、狩りをしても
さっぱり獲物はとれないなど、このままでは、
村にも被害が及ぶのではないかということで、
〈冒険者〉の皆さんのお力を仰ぐことに
なりました次第で」
トラッド――[ニヤリ]と笑って、
「モンスターは、何かなぁー?」
フェレス――“クール”に、
「“質問”できるまで、話を聞いたらどうだ?」
トラッド――[ムッ]とした表情を浮かべて、
「別にいいだろ! 予想するぐらい?w」
(またかよー)
あきれつつ、『トラッド』は、それ以上は“発言”を飲み込んだ。
基本的に、プレイヤーが顔グラフィックや“発言”を入力している時には、コンピューターの操っているキャラクターの“発言”は止まっている。だから、プレイヤーキャラクターたちが雑談ばかりしているとさっぱりシナリオが進まずに時間だけが過ぎて行ってしまうなどということもありえるので、そのことを踏まえてのフェレスの“発言”なのだろうが、どうも、フェレスの言い方にはキツイものがある。
カスター――[微かな笑み]を浮かべたままで、
「我々には、怪物を相手にして戦う術などございません。
どうか、よろしくお願い致します」
[①「どんな怪物を見たのか?」
②「報酬の払い方は?」
③「今までの村の被害は?」
④「依頼にあった洞窟とは?」]
フェレス――[フッ]と笑って、
「ほら、な」
トラッド――[普通]の顔に戻って、
「一応、全部聞いてみるぞ?」
ニオ――[ニヤリ]とした笑みを浮かべ、
「無視してる。無視してる(笑)」
[>①「どんな怪物を見たのか?」]
カスター――[微かな笑み]を浮かべたままで、
「二本足で立つ巨大な牛の頭を持った怪物だそうです」
ピーン!とチャイム音が鳴ってプレイヤーたちに注意を促すと同時に、プレイヤーの持つコントローラーに振動が伝わり、咄嗟の行動が必要な場面であることを知らせる。チャイムは消音設定にしていなければ必ず鳴るが、コントローラーの振動はオプションでコントローラーのバイブ機能をONにしていなければ作動しない。ちなみに『トラッド』は、ONに設定している。
[“知識判定”!
十秒以内に、『意志力・精神』を選べ!]
(きたっ!)
この展開を予想していたため、突然のことにも動じることなく、勢い込んで手札を見た『トラッド』だったが、
(《威力強攻撃 3Lv》(《戦士系スキル》 攻撃力+6)
《心機一転 1Lv》(《共通スキル》手札を全て山札に戻してシャッフルし、手札上限まで手札を引く)
《バスタークラッシュ SP》(〈戦士〉のSP。攻撃力+4。相手のセットスキルを一枚ランダムに捨て山に移行する)
『意志力・身体』
《全体攻撃 2Lv》(相手パーティorエネミーに一度ずつ攻撃する。攻撃力-2。ダメージランク-1。次ラウンド行動不可)
だぁ?)
念のためにもう一度見ても、やっぱり、
(い、一枚もきてねぇ!)
先ほど自分で語っていたとおり、“体力”の多い前列系キャラクターは、『意志力・精神』のデッキ配合枚数が少ないため、こういうことが起こる。
(手札、引き直すか?)
とも一瞬考えたが、ここはロールプレイの原則にのっとり、得意なキャラクターにまかせようと、何もせずにタイムアップをむかえた『トラッド』だったが、
[全員失敗!]
「はぃーーー?」
画面に表示された内容に、『トラッド』は思わず間抜けな声を上げてしまう。
トラッド――[驚いた]顔で、
「何だ? みんな、失敗したの?」
ニオ――[苦笑]しながら、
「ごめ~ん。全然違うの選んじゃった~~(笑)」
リメア――[目を伏せた]顔で、
「迷ってるうちに時間が過ぎちゃって……」
フェレス――[フッ]と笑い、
「貴様こそ、失敗したのだろう?」
トラッド――[ムッ]とした顔で、
「そういうフェレスはどうなんだよ?」
フェレス――[普通]の顔に戻り、
「俺の口から言うまでもない」
(オレと同じような判断しやがったな)
“クール”な表情でそんなことを言うフェレスに、思わず『トラッド』は苦笑を漏らす。判断ミスとは言い難い、どちらかと言えばロールプレイに属する事柄ではあるが、まぬけなことには違いない。
ニオ――[苦笑]しながら、
「プレイヤー的には、ミノタウロスだろうって
いう予測はつくんだけどね~~(笑)」
トラッド――[苦笑]で答えながら、
「キャラクターには、そんなことは
分からないってわけだw」
フェレス――“クール”に、
「たいしたペナルティーはあるまい」
(そうだとは思うけどな)
大切な情報を得る“知識判定”なら、何が何でも成功しておくべきだが、モンスターの確定ぐらいなら、しかも、プレイヤーが外見を聞いただけで予想できるぐらい有名なやつならば失敗してもたいしたことはないだろう、と『トラッド』は判断した。もっとも、失敗した後ではそれは単なる言い訳だが。
トラッド――[苦笑]を浮かべて、
「そうだな。まあ、仕方ない。次行くぞw」
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