第一章酒場にて①
[ロード・シーカーⅠ バージョン1・45
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[それでは、よい冒険を!]
[トラッド 〈神官戦士〉 男 “聖”
攻撃力③ 防御力② 魔力④
抗魔力④ 行動力⑦ 体力⑮
ランクS]
マスター――グラスを磨きながら、
「いらっしゃい」
トラッドが行きつけの酒場、「金龍の鱗」亭にその姿を“現す”と、いつものように酒場のマスター、通称“オヤジ”がカウンターから“声”をかけてくる。
現在のトラッドは、銀色の金属鎧に身を包んだ金髪の青年の外見を持つキャラクターで〈クラス〉は※〈神官戦士〉である。
※〈神官戦士〉:〈司祭〉系クラスの一つで、「神に仕える戦士」。〈戦士〉系と〈司祭〉系の二種類の《スキル》が使える。《スペシャル・スキル》は、《聖なる剣》
いつものように“オヤジ”に「ういースっ!」と答えつつ、ちらりとカウンターの方を見た『トラッド』の目に、店の壁に飾られている一枚の大きな金色の鱗が飛び込んでくる。その鱗がこの酒場の名前の由来らしい。
なんでも、“オヤジ”が若いころ――〈冒険者(ロードシーカー)〉時代に――、死闘の果てに倒したという金色のドラゴンから記念として取ったものだということだが真偽は定かではない。もっとも、トラッドはここが気に入っているので真偽はどうでもいいことではあるが。
(……って、誰もいねーんでやんの)
『トラッド』は、画面左はじに小さく表示されている、「現在この酒場にいるキャラクターの名前」が自分一人であることを確認して、モニターの前で小さく舌打ちした。
どうやら、『彼』が“今日”の一番乗りらしい。
(早く来過ぎちまったか?)
ちらりと『自分』の時計を見ると、いつものメンツがやってくるまではちょっとだけ時間がある微妙な時刻だ。
(いったん“外”に出っかなぁ……)
心の中でつぶやいて『トラッド』は、しばし逡巡する。
(ま、いいか。誰かすぐ来るだろ)
自分が几帳面すぎるのか、仲間がルーズすぎるのかの判断を保留したまま、『トラッド』は取り敢えず待ってみることにした。
「…………」
誰もいない酒場に一人っきりというのは――まあ、マスターはいるのだが――どことなく、物寂しい。『トラッド』は画面に表示されている“自分”の※能力値を何となく見つめた。
※能力値:キャラクターの基礎的な能力を数値化したもので、肉体的な攻撃の力を表す「攻撃力」、肉体的な防御の力を表す「防御力」、魔法を使う力を表す「魔力」、魔法に抗う力を表す「抗魔力」、行動の素早さとセットできるカードの上限を表す「行動力」がある。数値が大きいほど優秀だが、各クラスごとにそれぞれ異なっており、長所と短所を必ず持つように設定されている
(まあ、〈神官戦士〉の能力値は中途半端だっつー話もあるけどな)
一般的なプレイヤーの評価を思い出して『トラッド』は思わず苦笑を浮かべたが、だからといって、彼自身がこの能力値に不満な訳ではない。いや、むしろ、いろいろなクラスを経験してきたが、〈神官戦士〉が、一番、自分に合っているような気さえしている。今の“トラッド”が、“ロード・シーカー”をプレイしていて一番しっくりくるような気がするのだ。
もちろん、専門の〈戦士〉には攻撃力ではかなわないし、本職の〈司祭〉には癒しの力で劣っている――ロード・シーカーでは成長によって能力値が増加することがないので、一点の能力値の違いがとてつもない違いになることが多い――のだが、今の『トラッド』が演じたい“トラッド”は、おそらく、今はこういうキャラクターなのだろう。
(オレも駆け出しの〈戦士〉だった頃とは、結構、変わっちまってるよなぁ)
自分の中で、あるいは外で、「変わっているもの」と「変わってはいないもの」のことを思うと何故だか感慨深いものがある。
(※“属性”とか※体力とか※『意志力』なんかは、ほとんど変わってねーけどなぁ)
※属性:キャラクターに加護を与えている“エレメント”。現在、炎、風、水、地、聖、魔の六つが確認されている
※体力:この値が大きい程よりダメージに耐えられる。最大21~最小10。『意志力』カードの割合にも関わってくる
※意志力:そのキャラクターの身体的能力に関わってくる『意志力・身体』と、精神的能力に関わってくる『意志力・精神』の二種類があり、冒険時には“行為判定”に使用され、戦闘時には能力値を強化する効果を持つ
ふと、『トラッド』の視線が、「ランクS」という文字の上で止まる。
※ランク:その冒険者の「熟練度」。基本的に、依頼や冒険を成功させることで上昇する。もっともあくまでも指標なので、高ランクの冒険者にもピンからキリまで存在する
(ランクS、か……)
「ランクS」になりたくて、冒険に冒険を重ねていた頃の自分を思って、『トラッド』の顔にうっすらと笑みが浮かぶ。駆け出し〈冒険者〉のランクFから、熟練〈冒険者〉たるランクSまで“成長”した“自分”を思って、目を細める。
(あの頃の“オレ”に比べりゃ、強い※《スキル》とか※アイテムとかなんかはたくさん得て来たけど、『オレ』自身は「強く」なってるんだろうか……?)
※《スキル》:そのキャラクターの「できること」。カードの形で存在し、冒険していく中で“経験”として得ることができる。クラスごとの《技》であり、戦士、盗賊、司祭、魔術師の四種類が存在する。Lvの高い方が一般に能力が高く、獲得しにくい。他のキャラクターと合意の上で基本的にレベル等価でトレードすることもできる
※アイテム:キャラクターの能力を補強する「道具」。こちらもカードの形で存在し、他のキャラクターと合意の上で基本的にレア度等価でトレードすることもできる
そう自問した『トラッド』の口元に、皮肉な笑みが浮んだ。
(ま、んなこと考えても仕方ねーか……)
モニター前で思いっきり肩をすくめて『トラッド』は、取り合えずの暇つぶしに、※デッキの調整を始めた。この前の冒険で手に入れた《スキル》をデッキに入れてみようと思ったのだが、それにはかなりバランスを考える必要がありそうだ。
※デッキ:《スキル》とアイテム、『意志力』カードの束で構成されている。1キャラクターにつき60枚で構成されている
(※《威力強攻撃》を減らして、※《全体攻撃》を増やすか、……いや、※《ホーリーブリット》も入れたいしな。じゃ、※《精神統一》の枚数を減らして……)
※《威力強攻撃》:〈戦士系〉スキル。全身の力を込めた攻撃。Lv1 攻撃力+2 Lv2 攻撃力+4 Lv3 攻撃力+6
※《全体攻撃》:〈戦士系〉スキル。相手パーティ全てのメンバーに一度ずつもしくは複数の攻撃目標を持つエネミーに対して一度ずつ〔攻撃〕することができる。Lv1 攻撃力-2 Lv2 攻撃力-1 Lv3 攻撃力±0
※《ホーリーブリット》:〈司祭系〉スキル。“聖”属性の〔ダメージ魔法〕。属性効果あり。Lv1 魔力+1 Lv2 魔力+2 Lv3 魔力+3
※《精神統一》:〈司祭系〉スキル。精神を統一することで、魔力を高める。Lv1 魔力+2 Lv2 魔力+4 Lv3 魔力+6
単なる暇つぶしだったはずが、いつの間にか、かなり真剣に悩んでいる。
(……いや、※《共通スキル》をこれ以上減らすわけにはいかねーな。※〔手札特殊〕が全然ないのもなあ……。んー、じゃあ、アイテムを減らすか? いや、そうすると柔軟性が……)
※《共通スキル》:どのクラスでも使用出来る《スキル》。“精神”に関係する《スキル》が多い
※〔手札特殊〕:《スキル》セット前に手札から発動することができ、その時点で必要な手札を引ける確率が上がる《スキル》。精神にちなんだ名前が付けられている
本当は、一緒にパーティを組む相手や引き受けた依頼のことも考慮しなくてはならないため、今この場でデッキを作成しても仕方ないのだが、考えつつデッキを作ることそれ自体が面白いのでついつい熱中してしまう。
(うーん。いっそのこと、※《スペシャル・スキル》を少し減らしてみるか? それとも、……んっ?)
※《スペシャル・スキル》:SPと略される。上級クラス特有の《スキル》でそのクラスの時にだけ得ることができる。三枚まで獲得でき、多いほどそのクラスに習熟している証となる。個人の特殊な“経験”として扱われるため、他の《スキル》と違い、例外的にトレードすることができない。他のSPとは同時にセットできない
『トラッド』は、ふと、誰かがに“入ってくる”気配を感じため(ほんの一瞬だけかすかに処理が重くなるので分かる)、かなり中途半端な状態ではあったがデッキ編集を中断して“来客”に備えた。
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